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持続可能な観光を評価するアドベンチャーツーリズム開発指数2024、日本は10位。文化資源が高評価

2025.02.06

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アドベンチャートラベル・トレード・アソシエーション(ATTA)とジョージ・ワシントン大学国際観光研究所(GW)は、「アドベンチャーツーリズム開発指数2024(ATDI)」を発表した。この指数は、世界186カ国を対象にアドベンチャーツーリズムの競争力と将来性を評価し、ランキング化している。

2024年版では、日本が先進国のランキングで10位、アジア太平洋地域では2位にランクインした。
(図版出典:2024 Adventure Tourism Development Index)

 

持続可能な観光を目指すアドベンチャーツーリズムと評価指標

アドベンチャーツーリズムとは、自然、文化、アクティビティの3つの要素を融合させた観光の形態を指す。旅行者が日常から24時間以上離れ、「自然環境の探索」「文化的な体験への没入」「身体的な活動」のうち少なくとも2つを体験することが特徴である。この観光スタイルは、自然や地域文化と深く関わりながら、持続可能性を重視し、旅行者に心身の成長や特別な思い出を提供することを目的としている。

「ATDI2024」は、186カ国を「先進国」(39)と「新興国・発展途上国」(147)のカテゴリーに分けて、それぞれの競争力と発展の可能性を評価し、ランキング化している。評価基準として、「持続可能な開発」「安全性」「健康」「気候レジリエンス(気候変動による影響に備え、社会や経済の仕組みを柔軟に変えていく能力)」「自然資源」「文化資源」「起業家精神」「インフラ」「イメージ」の9つの柱を採用し、信頼性の高い国際機関のデータや329人の専門家の意見を基に分析が行われた。

 

日本は10位、豊富な文化資源とイメージの良さが高評価

日本は、先進国ランキングで10位、アジア太平洋地域ランキングでニュージーランドに次いで、2位にランクインした。

9つの柱の中では、「文化資源」が5位、「イメージ」が6位と特に高く評価されている。日本は独自の文化や建築、食を楽しめる国として、豊かな文化資源を有している点が評価のポイントだ。和食がユネスコ無形文化遺産に登録されていることも、その魅力を裏付けている。

また、「イメージ」の柱では、ブルーム・コンサルティングが発表した「カントリーブランド指数 観光版2022」で6位に選ばれたことが今回の評価につながった。和風のシンプルなデザインやライフスタイルがSNSで注目を集めていることが影響している。最近ではコロナ禍での東京オリンピック開催が評価されている。

加えて、治安の良さや清潔さなどの点から、専門家による「安全性」「自然資源」「インフラ」の分野での評価も高い。

 

先進国1位はドイツ、7位までをヨーロッパが独占


*スコアは10点満点で、総合平均スコアは3.9

上の表にあるように、先進国のランキングでは、1位から7位までをヨーロッパの国々が占めた。

先進国および総合ランキングでトップとなったのはドイツ。9つの柱全体で優れた評価を受けているが、特に「文化資源(4位)」「気候レジリエンス(5位)」「自然資源(6位)」でスコアが高く、文化遺産の保護や環境問題への積極的な取り組みが際立っている。文化資源と自然資源の両方で高い評価を得る国はごく少ないが、このランキングでは資源の比重が高いため、ドイツが高評価を得た一因となっている。

2位にランクインしたフランスもドイツ同様に全体で高評価を受けたが、ルーブル美術館やベルサイユ宮殿といった豊富な「文化資源(3位)」が際立っている。専門家からは「インフラ」や「起業家精神」も高い評価を得た。

3位は、アルプス山脈の壮大な風景で知られるスイスで、「イメージ(2位)」「自然資源(8位)」などで上位にランクインした。永世中立国や銀行業でも知られ、政治的経済的に安定した国という印象を持たれている。「起業家精神(6位)」「気候レジリエンス(6位)」「安全性(7位)」「インフラ(7位)」でも上位を獲得した。

4位にランクインしたノルウェーは、国内電力の大部分を水力発電でまかなうなど「持続可能な開発(3位)」が評価された。また、福祉国家として知られ、人口に対する医師の数が多い点から「健康」では3位、フィヨルドをはじめとする壮大な「自然資源」は4位となった。

5位のオーストリアもアルプス山脈に位置する国で、美しい山々や湖で知られる。「自然資源(3位)」や「健康(10位)」の柱で高く評価された。

スペインは6位にランクインし、「文化資源(2位)」と「イメージ(8位)」における高評価が際立っている。かつてイスラム教国家に支配されていた歴史的背景から、イスラム教とキリスト教が融合した独自の建築や文化が残る点が注目されている。

7位のイギリスは「気候レジリエンス(4位)」「インフラ(4位)」をはじめ「文化資源(8位)」の柱で評価された。特に地球温暖化による海面上昇や降水量増加による洪水対策に力を入れている。

ヨーロッパ以外で最も上位にランクインしたのは、8位のニュージーランドだ。6つの柱でトップ10に入り、「持続可能な開発」では首位を獲得した。総発電量の約80%を地熱、水力、風力などの再生可能エネルギーが占めており、温室効果ガス削減や自然保護にも力を入れている。また、「起業家精神(2位)」「イメージ(3位)」「安全性(5位)」でも高い評価を受けた。

9位はアメリカ大陸からカナダがランクインした。特に「インフラ(3位)」「イメージ(4位)」で高く評価された。「インフラ」の評価基準の1つ、世界銀行の「ロジスティクスパフォーマンス指数」では、貿易と輸送関連のインフラの品質が評価され世界4位となっている。

10位は日本で、アジアの国では唯一トップ10入りを果たした。先進国39カ国には、アジアでは他に、シンガポール(29位)、韓国(30位)が入った。

 

新興国・発展途上国1位はコスタリカ、アジアから2カ国がトップ10入り

146カ国による新興国・発展途上国のトップ10には、中南米から4カ国、アジアから2カ国などがランクインした。

1位は中米に位置し、豊かな熱帯の自然で知られるコスタリカ。「持続可能な開発(1位)」「イメージ(3位)」などが高く評価された。国土の約24%が国立公園として保護区に指定され「自然資源(5位)」が豊富である。豊かな自然や活火山などの影響で多様な生態系が広がり、地球上の生物種のおよそ5%が生息している。

2位のチリは南米アンデス山脈の西側に位置し、「持続可能な開発(3位)」や「安全性(6位)」が評価された。イースター島のモアイ像や砂漠、間欠泉など多様な観光資源を持つ。また、再生可能エネルギーの導入にも積極的で、太陽光や風力発電を活用している。

3位のタイは「イメージ(2位)」や「インフラ(3位)」で高い評価を獲得した。1月には同性婚が法律で認められるなどジェンダーに寛容な国としても知られ、政府主導の「Go Thai. Be Free.」キャンペーンが性的マイノリティの観光客を引きつけている。

4位にはブラジルがランクイン。世界最大の熱帯雨林アマゾンを有し、独特の生態系が見られる。「自然資源(7位)」や「インフラ(7位)」で高い評価を得ている。

5位の中国は、長い歴史を誇り「文化資源」で首位を獲得。世界遺産登録件数は57件でイタリアに次ぐ2位を誇る。また、GDPランキングで2位を記録しており、「インフラ(2位)」も充実している。

6位はマチュピチュやナスカの地上絵で有名なペルー。「文化資源(3位)」「イメージ(9位)」をはじめ9つの指標すべてで安定した評価を獲得した。

7位はトルコで「イメージ(1位)」「文化資源(2位)」などで高く評価された。ヨーロッパとアジアの境界に位置し、多様な文化が融合した食、建築、芸術などで注目されている。

8位のモンテネグロは、バルカン半島に位置する東ヨーロッパの国で、9つの柱でトップ10入りしたものはなかったが、専門家からは「起業家精神」や「安全性」が評価された。日本のODA(政府開発援助)も中小企業振興や観光支援で貢献している。

9位はアラビア半島に位置するアラブ首長国連邦(UAE)。国土の大半を占める砂漠とドバイやアブダビなどの近代的な都市が共存する。「起業家精神(1位)」「インフラ(1位)」「安全性(3位)」「持続可能な開発(7位)」で高評価を受けている。

10位はヨーロッパ南東部に位置するルーマニアで、「持続可能な開発(2位)」をはじめ、9つの指標で安定した評価を獲得した。政府はエネルギー政策において、化石燃料から再生可能エネルギーへの移行を目標にかかげている。

最後に、各柱の1位となった国を挙げておく。9つの柱のトップはほぼ「先進国」が占めたが、自然資源と文化資源は「新興国・発展途上国」のザンビア、中国がそれぞれトップだった。

アドベンチャーツーリズム開発指数は、アドベンチャーツーリズムの成功が多くの複雑な要因によって成り立つと指摘する。持続可能な取り組みの導入、インフラへの投資、そして官民の協力を強化することで、各国はこの分野の潜在的な可能性を最大限に引き出せる。グローバルな旅行業界が変化を続ける中で、この開発指数は責任ある市場の発展を目指すための指針としての役割を果たし、自然や文化遺産を次世代に継承する一助となるとしている。

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