データインバウンド
世代で分かれる訪日行動傾向 若年層は体験や持続可能性を重視 ーDBJ・JTBF調査
2025.05.15
やまとごころ編集部日本政策投資銀行(DBJ)と日本交通公社(JTBF)が共同で実施した「DBJ・JTBF アジア・欧米豪 訪日外国人旅行者の意向調査2024年度版」のデータを、世代別に分析したレポートがこのたび発表された。
このレポートは、2022年10月以降の訪日旅行、特に水際対策が大幅に緩和された後の状況に焦点を当て、世代ごとの特徴やニーズを明らかにすることを目的としたもので、調査対象は、アジアの韓国、中国、台湾、香港、タイ、シンガポール、マレーシア、インドネシアと、欧米豪のアメリカ、オーストラリア、イギリス、フランスの計12カ国・地域の20歳~79歳の海外旅行経験がある男女約7800人となっている。
若年層中心に、根強い人気の日本
観光旅行の目的地として次に訪れたい国・地域について尋ねた結果、日本の人気は特に若年層で顕著だった。アジア居住者のZ世代とミレニアル世代の約7割が日本を選択しており、これは他の国・地域と比較して非常に高い選択率となっている。欧米豪居住者でも、Z世代とミレニアル世代の日本の選択率は他の国・地域より高い。
そのほか、アジア居住者のあいだでは、韓国、台湾、オーストラリア、ニュージーランド、スイスなどが人気、欧米豪居住者には、アメリカ、イタリア、カナダ、オーストラリアなどが人気だった。
日本への再訪意向、若年層で特に高く
訪日経験者の再訪意向は、ミレニアル世代が72%と最も高く、次いでZ世代が69%と、若年層の再訪意向が高いことが確認できる。
▶︎訪日経験と日本への再訪意向
特に2022年10月以降の訪日旅行を2019年依然と比較すると、ミレニアル世代の割合が増加しており、X世代、ベビーブーマー世代の割合が減少する傾向にある。
また、訪日リピーターの割合は、ミレニアル世代、X世代、ベビーブーマー世代で特に増加している。
▶︎訪日経験者の直近の訪日時期と世代
直近の訪日リピーター、9割超が地方を訪問
訪日リピーターは、いずれの世代も約9割が「2015年以降に日本の地方にある観光地を旅行したことがある」と回答。特に、Z世代を除くミレニアル世代、X世代、ベビーブーマー世代は、初訪日者と比較して訪日リピーターの地方訪問経験率が高い。
▶︎地方への訪問経験
2022年10月以降の訪日旅行経験者の地方訪問意向率は、2019年以前と比較して、いずれの世代も95%以上と高い水準にある。一方、地方訪問経験率を見ると、Z世代を除く3世代で2019年以前からの増加が見られ、特にベビーブーマー世代の伸びが顕著で、約30%増加している。
▶︎世代ごとの地方への訪問経験(訪日時期別)
円安の影響、若年層ほど意思決定への影響強く
訪日旅行の決定に円安が影響したと回答した割合は、Z世代が44%と最も多く、ベビーブーマー世代が28%と最も少ない結果となった。
2022年10月以降の訪日旅行経験者では、いずれの世代も円安の影響を受けたと回答する割合が増加しており、Z世代が50%、ベビーブーマー世代が43%となっている。
▶︎訪日旅行の決定に円安が影響した割合
円安で得をした分の使い道としては、いずれの世代も「数量を多く購入した」が最も多いが、Z世代とミレニアル世代は支出行動の選択率が総じて高い一方、ベビーブーマー世代は「直近の訪日旅行では使わず」と回答する割合が特に高い。
▶︎円安で得をした分によるお金の使い道
Z世代はショッピングや美術鑑賞。ミレニアル世代は体験への興味
訪日旅行時の体験活動を世代毎に集計したところ、世代毎の活動の特徴がみられた。例えば、アパレル関連のショッピングや美術館鑑賞はZ世代との関連が強く、Z世代の「見たい」、「買いたい」という願望が浮かび上がる。また、ミレニアル世代の活動は幅広くアクティビティや伝統工芸品に関する体験等との関連がみられた。
Z世代(118サンプル)
都市部資源との関連が強い活動:美術館や博物館の鑑賞、洋服やファッション雑貨のショッピング、電化製品のショッピング
その他特徴的な活動:ドラマや映画のロケ地・アニメの舞台の見物
ミレニアル世代(710サンプル)
都市部資源との関連が強い活動:イベント・祭りの見物、ナイトライフ体験
地方部資源との関連が強い活動:桜の観賞、近代的/先進的な建築物の見物
その他特徴的な活動:スポーツ観戦、伝統芸能鑑賞
X世代(499サンプル)
都市部資源との関連が強い活動:食料品や飲料のショッピング、化粧品や医薬品の購入
地方部資源との関連が強い活動:フルーツ狩り、温泉への入浴
その他特徴的な活動:自然配慮観光ツアー
ベビーブーマー世代(221サンプル)
地方部資源との関連が強い活動:雪景色鑑賞、日本酒
その他特徴的な活動:カジュアルな食事、世界遺産の建物
訪日時に困ったこと、3割超が「観光地の混雑」を実感
訪日旅行中にトラブルや面倒なことを経験した割合は、いずれの世代も「観光地・観光施設の混雑」が最も高く、3割を超えている。
トラブルに関する項目の選択率は、全体的に若年層の方が高い傾向にあるが、「あてはまるものはない」の選択率は中高年層の方が高い。
▶︎訪日旅行時のトラブル
観光資源・施設の混雑緩和や保護のための金銭負担については、Z世代の76%、ミレニアル世代の72%が賛成と回答しており、年齢層が低いほど賛成の割合が高い。
サステナブルな取り組みを重視する割合も、Z世代とミレニアル世代は8割以上と高く、若年層の方が意識が高いことが示されている。
▶︎サステナブルな旅への考え
サステナブルな意識、Z世代は観光保護への興味関心強く
海外旅行先で今後実施したいサステナブルな取り組みについて尋ねたところ、全体で「ゴミを削減する」と答えた人が34%と最も多く、次に「地域の特産品を購入」(28%)、「地域の事業者が販売する商品、サービスを適正価格で購入」(27%)が続いた。
世代別では、Z世代で「CO2排出量が少ない移動手段の選択」や「環境負荷が少ない自然体験プログラムへの参加」など、環境保護に関する項目の選択率が相対的に高かった。ミレニアル世代では、「地域の生態系の保全に貢献できる体験アクティビティへの参加」「資源保護のための協力金等を払う」、X世代では「ゴミを削減する」、ベビーブーマー世代では「宿泊施設におけるリネン類の交換を辞退」「混雑回避のため比較的空いている時間に訪問」などが多かった。
まとめ:世代別にみる訪日旅行の特徴と訴求方法
最後に世代別の特徴を紹介する。
Z世代
・訪日旅行意向が他の世代に比べて強く、円安の影響も受けやすく、円安で得た分を積極的に消費する傾向がある。
・訪日時の体験活動は、都市部でのショッピングや、テーマパーク、美術館、アニメのロケ地巡りなど、視覚的に魅力的でSNSなどで発信しやすい活動を好む傾向がある。
・観光地の維持存続への貢献意識やサステナブルな取り組みへの関心が高く、環境保護に対する意識も高いが、自然体験プログラムへの参加など、意識と行動にギャップが見られる部分もある。
効果的な訴求方法:
限られた時間で「見たい」「買いたい」という願望を効率的に満たせる日本は、Z世代の消費の価値観と合致していると言える。楽しめること、他者と共有できることも重視されるため、例えば、観光地の維持存続に対しては、楽しみながら地域に貢献できるプログラムの充実などが効果的だろう。また、SNSで共有したくなるような美しい風景や、日常ではできない体験などの情報発信も重要だ。
ミレニアル世代
・訪日旅行意向が強く、再訪意向率も4世代の中で最も高く、訪日旅行者数も増加傾向にある。
・訪日時の体験活動は、伝統工芸体験、アクティビティ、イベント・祭り、スポーツ観戦など、「する」体験や地方の資源と関連する体験を好み、旅行の目的やスタイルに自分の関心を取り入れる傾向がある。
・サステナブルな取り組みへの関心も高い。
・アニメやマンガ、ゲームなどの日本のコンテンツに関心が高く、関連するコミュニティやイベントにも積極的に参加する傾向がある。
効果的な訴求方法:
活動の幅が広く、地域資源に関連する体験への関心も高いことから、その地域ならではの伝統文化体験の拡充や、地域特有のイベントの情報発信などが地方誘客に繋がると考えられる。サステナビリティへの意識が高く、教育熱心で自分の子供にも学びのある体験を求める傾向があるため、サステナビリティについて親子で学べる体験プログラムの提供なども効果的だろう。
X世代
・訪日時の同行者は配偶者や子供が多く、家族旅行が多い傾向にある。
・訪日時の体験活動は、化粧品・医薬品、食料・飲料、電化製品などの日本製品の購入や、日本文化、伝統料理、フルーツ狩り、温泉など、地方の資源に関連する体験を好む傾向がある。
・居住地でも日本製品の購入や日本食、日本文化体験など、訪日時の体験活動と嗜好が一致している。
効果的な訴求方法:
訪日旅行時も居住地でも日本製品の消費に積極的であるため、日本でしか買えない商品や新商品の提案による訪日意向の喚起に加え、訪日時に購入した商品を居住地でも購入できるシステムの整備など、訪日旅行にとどまらない消費促進への取り組みが望まれる。また、地域の文化や伝統料理、温泉、フルーツなどの地域資源を活用した「家族で楽しめる体験プログラムの拡充」なども、地方誘客に繋がると考えられる。
ベビーブーマー世代
・2019年以前と比較して訪日リピーターの割合が特に増加しており、地方訪問経験率も大幅に上昇している。
・訪日時の体験活動は、史跡、歴史的建造物、世界遺産、食事、お酒など、地方の資源を活用した体験を好む傾向がある。
・訪日旅行の情報収集は、旅行会社の利用が多い。
・旅行先でのサステナブルな取り組みとして、混雑回避への意識が高い。
効果的な訴求方法:
コロナ禍を経て地方訪問経験率が大幅に上昇し、地方部での体験活動への関心が高まっていると考えられる。地域の食やお酒を活用したご当地メニューの拡充や、地域の歴史的建築物や世界遺産を巡るツアーの造成などによる一層の地方誘客が望まれる。また、全国的な治安の良さやバリアフリー環境の充実、移動時のサポート、混雑回避の取り組みなど、「安心・安全かつ快適な滞在」という側面からのアピールも効果的と思われる。
世代別特徴を捉え、多様なニーズに応える訪日戦略を
今回の調査から、訪日外国人旅行者の消費行動や旅行への意識は、世代によって大きく異なることが明らかになった。
これらの世代別の特徴を踏まえ、各世代のニーズに合った情報発信や旅行プランの提供、受け入れ体制の整備などが、今後のインバウンド戦略において重要となるだろう。
(出所:(株)日本政策投資銀行・(公財)日本交通公社 「DBJ・JTBF アジア・欧米豪 訪日外国人旅行者の意向調査 2024年度版 スピンアウトレポート(世代別分析)」)
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