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AIが旅の選び方を変える、旅行業界が注視すべき3つの消費行動の変化

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ジェネレーティブAI(生成AI)の進化は目覚ましい。アクセンチュアが実施した、14カ国・1万8000人を対象とするオンライン調査「Consumer Pulse survey」によると、すでに72%の消費者が日常的に生成AIツールを活用している。

調査では、生成AIが消費者行動や企業活動にどのような影響を及ぼしているかを分析し、特に消費財・サービス、小売、旅行業界への示唆を提示している。本記事では、旅行産業に焦点を当て、調査から読み取れる3つのAIトレンドと、その活用可能性について整理する。

 

消費行動に変化、AIが購入判断に影響力を持つフェーズへ

このレポートは、生成AIツールはただの便利な道具ではないことを指摘している。生成AIはすでに私たちの「何をどう買うか」という買い物行動に大きな影響を与え始めていて、将来的にはAIが私たちの代わりに判断して買い物までしてくれる「エージェントAI」の登場を示唆している。

実際にレポートの調査対象となった消費者の約半数が、生成AIの支援を受けて商品の購入を決定しており、過去1年間で最も急速に成長した購買アドバイス情報源となっている。また、同調査によると、アクティブユーザーにとっては、実店舗に次いで2番目に多く利用されている商品推奨情報源となっている。

生成AIと旅行

今の世界は、何が起こるか分からない不安も多いが、そんな時代だからこそ、ブランドはただ有名だからという理由で選ばれるのではなく、「特別な体験」や「深い繋がり」を提供できるかが大事になる。AIはまさにこの差別化を可能にし、消費者との関係を深化させるための強力なソリューションとなるとレポートは伝える。

そうしたAIがもたらす変革は、旅行業界においても例外ではないだろう。旅の計画、検索、予約、滞在中の体験、そして事後フォローまで、あらゆるフェーズに大きな影響を与え、その姿を根本から変革しようとしているのだ。

 

消費をサポート、生成AIが持つ3つの役割とは

アクセンチュアのレポートでは、AIが消費者とどのように関わっていくか、大きく3つの役割に分けている。これらの役割は、旅行業界の未来を形作る上で深く関連しており、この3つの「AIの顔」を理解しておくことは、これからの戦略立案の鍵になるだろう。

1. 「信頼できるガイド」としてのAI
1つ目の役割として、AIは、消費者が求めているものを発見するのを手助けする。従来の検索エンジンとは異なり、AIは対話を通じて、個人の好みや潜在的なニーズを深く理解し、最適な選択肢を提示する。

AIのおかげで、消費者は問題に対する役立つ信頼できる解決策をより簡単に見つけられるようになり、リアルタイムのエンゲージメントと購買決定に影響を与えている。

アクティブな生成AIユーザーの半数以上が、すでに生成AIを通じて購入決定に関する情報を得ているという事実は、AIが「情報探索の起点」として急速に台頭していることを示唆している。「検索エンジン最適化(SEO)」の次は、「生成エンジン最適化(GEO)」という考え方が重要になってくるだろう。

2. 「忠実な仲間」としてのAI
レポートによると、AIはただ情報をくれるだけでなく、消費者の気持ちをより理解して、深い関係を築く「忠実な仲間」にもなる。アクティブなAIユーザーの36%はAIを「良き友人」と考え、9割近くが「パーソナルな体験」や「困った時に助けてくれる存在」として気に入っているという。

アクセンチュアの調査では、感情に訴えかけるような素晴らしい体験を提供してくれるブランドなら、1.5倍も愛着を感じ、2.3倍も他の人に勧めたくなり、さらには1.7倍も「少し価格が高くても購入したい」と考える傾向が見られた。このことからも、AIが提供する感情に訴えかける体験が、消費者との深い関係性を築く上で重要であることがわかる。

3. 「もう一人の自分」としてのAI
AIエージェントは、消費者の代理として、複雑なタスクを完全に自動化し、遂行する究極の形だ。驚くことに、レポートによると75%もの消費者が、自分のニーズを理解してくれる信頼できるAIパーソナルショッパーの利用に前向きだという。

これは、多くの消費者が、煩雑な手続きや意思決定から解放されることに価値を見出していることを示している。そうすることで、消費者は真に価値のある体験に集中できるようになる。消費行動が「ゼロタッチ」で完結する時代が、もうそこまで来ているのだ。

 

編集部が考える旅の消費行動におけるAIの応用

ここまで、アクセンチュアのレポートを紹介してきたが、ここで、これら3つのAIの役割を「旅」の消費行動に置き換えてみる。

1. AIが検索を超える存在に、「ガイド」としての役割
「次のお休みはどこに行こう?」「どんなホテルにしよう?」といった旅の計画初期段階で、AIはまさに「信頼できるガイド」として機能する。

AIと話すように質問すると、AIはあなたの好みや過去の旅行履歴、さらには気分までを考慮し、ぴったりの旅行先や隠れた名所、特別なアクティビティまで提案してくれるだろう。

これは単に情報を検索するだけでなく、AIが最適な旅行プランを「作り出す」時代が来ることを意味する。この新しい潮流に対応するためには、旅行会社や観光地は、自分たちの情報がAIに「選んでもらえる」ように工夫する必要がある。AIに最適な情報を提供し、旅の提案に組み込んでもらうための戦略が求められるのだ。

2.  AIが旅行中も寄り添う「パーソナルな体験」を支援
AIは、ただ情報をくれるだけでなく、消費者の旅行中の気持ちや状況をより深く理解し、忠実な仲間のように寄り添ってくれる。AIが旅行者の過去の旅の記録や好みを覚えていて、旅行中に「今の気分にぴったりのカフェだね」「このお祭り、今から始まるよ」といったように、先回りして提案してくれる。まるで専属のコンシェルジュのように、旅行前から旅先における行動まで、一貫してサポートする存在として機能し得る。

AIが提供するパーソナルで心温まる「おもてなし」が、旅行者とブランドの間に強い絆を育む強力な手段となることがわかる。感情的なつながりが強いブランドほど、顧客ロイヤルティと推奨意向が高まる傾向にあるのだ。

3.AIが旅の手配を代行、消費行動の自動化が進展
AIの進化の究極の形は、「AIエージェント」(もう一人の自分)として、旅の手配を丸ごと引き受けてくれることである。AIエージェントが、旅行者の代わりに航空券を比較して予約したり、ホテルを選んだり、レンタカーを手配したりと、複雑で時間のかかるタスクを全て代行してくれる。これにより、旅行者は旅そのものの楽しみに集中できるようになる。

このような大きな流れの中で、旅行ブランドが単に価格や仕様だけで勝負していると、他社との差別化が困難になり、どのブランドも同じように見えてしまうかもしれない。この状況を避けるためには、旅行ブランドは単に価格競争に陥るのだけではなく、AIが真似できないような「心に残る体験」や「感動的なストーリー」を提供することに力を入れる必要があるだろう。

 

【編集部コメント】

AIの進化を受けて、旅行業界が取るべき戦略とは

生成AIの急速な普及により、旅行業界のあり方も大きく変わろうとしています。調査によると、すでに多くの消費者がAIの提案を旅の意思決定に活用しており、「信頼できるガイド」「忠実な仲間」「もう一人の自分」としてAIが旅に深く関与する未来が描かれています。

特に注目すべきは、AIに選ばれる情報設計や体験設計が、旅行ブランドにとって新たな競争力の鍵となる点です。今後は、AIでは代替できない「感情に訴える体験」や「共感を生むストーリー」をいかに仕掛けるかが差別化の要となるでしょう。

レポートでは、こうした変化に対応するため、早期に対応を始めることの重要性が強調されています。AIが主導するこの新しい世界で、これからもお客様に「見つけてもらい」「選んでもらい」「なくてはならない」存在であり続けるためには、今後、AIの活用を視野に入れた情報設計・体験設計が不可欠となるでしょう。

(出典:Accenture, Me, my brand and AI: The new world of consumer engagement)

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