データインバウンド
出張は「会う」ために、ミレニアル・Z世代の対面志向が鮮明に
2025.07.28
やまとごころ編集部コロナ禍を経て出張の機会は減少し、リモートワークの利便性が広く受け入れられるようになった。一方で、ミレニアル世代やZ世代のビジネス旅行者は、出張における「対面での交流」に依然として強い価値を見出していることが調査の結果、明らかになった。
この調査は、オーストラリアのビジネストラベル企業Corporate Travel Management(CTM)が2025年3月に実施したもの。対象はオーストラリア、イギリス、アメリカ、香港、シンガポールの5地域に住むミレニアル世代(1981〜1996年生まれ)およびZ世代(1997〜2006年生まれ)のビジネス旅行者702人で、オンライン調査により出張目的や意識の傾向を分析している。
世代で異なる出張目的、対面イベントはミレニアルが牽引
出張の目的について尋ねたところ、ミレニアル世代では「会議・イベント・展示会」(46%)が最も多く、次いで「研修・教育」(44%)、「顧客/営業会議」(38%)が続いた。この順位は、回答者全体の傾向とも一致している。
一方、Z世代では「顧客/営業会議」(37%)が最多で、「研修・教育」(36%)、「会議・イベント・展示会」(35%)と続いた。Z世代はまだ戦略的な意思決定に関わる立場に就いていないケースも多く、イベント参加機会が限られることが背景にあるとみられる。
この傾向について、CTMミーティング&イベント部門の欧州責任者マイク・リーソン氏は、「若年層はデジタルでの業務に満足するという従来の見方に異を唱えている。在宅勤務の影響で対面の欲求が高まり、出張やイベントの需要が再び強まっている」と述べている。
出張経験は7割超、キャリア重視でミレニアルに意欲
ミレニアル世代・Z世代の出張頻度は「年1〜5回」が最多で全体の70%、年10回以上の頻度も5%にのぼり、すでに出張経験のある人が多数を占めている。
また、「出張はキャリアにおける重要要素」と回答した人は57%に達し、「仕事のパフォーマンス向上に非常に寄与する」は51%、「仕事満足度に寄与する」は45%だった。
出張意欲については、「もっと出張したい」と回答した人が全体の55%を占め、特にイギリスでは63%に達した。ミレニアル世代のキャリア形成と出張との結びつきが、地域によってはさらに顕著に表れている。
「新しい体験」が出張の魅力、4割がブレジャー志向
出張時に最も楽しみにしていることについては、「新しい目的地の体験」(51%)が最多で、「同僚・パートナーとの協働」(47%)、「日常からの気分転換」(46%)、「新たな人との出会い」(37%)が続いた。地域別でも上位項目に大きな違いはなく、対面で得られる体験価値を重視する傾向が共通している。
また、42%が「出張にレジャー旅行(ブレジャー)を必ず、または通常追加している」と回答。地域別に見ると、北米では29%と低い一方で、アジア(シンガポールと香港)では55%と高く、旅行の延長として出張を捉える意識に差がある。
サステナビリティ重視は常識に、アジアで高水準
出張時に航空会社を選ぶ際の重要要素としては、「価格」「フライトスケジュール(利便性)」「定刻運航(信頼性)」が上位に挙げられた。宿泊施設でも「ロケーション」「24時間対応のフロント」「館内フィットネス・ウェルネス施設」が重視されている。
一方で、「環境に配慮したサービス」を求める声も根強く、航空会社に対しては55%、宿泊施設には51%、レンタカーに対しては、46%が「環境配慮を重視する」と回答した。

地域別では、アジア(シンガポール・香港)で特に意識が高く、航空会社75%、宿泊施設69%が「環境への配慮を選定基準とする」と回答。対照的に、アメリカではそれぞれ33%、31%にとどまった。
また、全体の57%が「自社がサステナブルな選択肢に対して追加費用を負担すべき」としており、個人レベルを超えて企業の取り組みにも期待が高まっている。
AI導入に世代で温度差、Z世代は期待と懸念が拮抗
AIの導入について尋ねたところ、全体では41%が「期待」、31%が「懸念」と回答した。Z世代は「期待」「懸念」ともに41%と拮抗しており、テクノロジーに親しんだ世代ながらの慎重な姿勢も見られた。一方、ミレニアル世代では66%が期待、懸念は25%にとどまり、導入に前向きな傾向が強い。
AI導入により期待される利点としては、両世代とも「予約スピードの向上」(65%)、「旅行商品の選択肢拡大」(61%)、「費用削減」(60%)が上位に挙げられた。
実務面では、59%が「出張予約を自分で行っている」と回答。特に若い世代ほどセルフブッキングの傾向が強く、以下に示すツール選好にもそれが表れている。
現在の主な予約手段は「ウェブ予約・オンラインツール」(71%)と「モバイルアプリ」(52%)。今後2年間で「モバイルアプリ」を利用したいとする回答は58%まで増加し、アプリ志向が一層強まる見込みだ。アジア(シンガポールと香港)では、この傾向が特に顕著で、66%が「モバイルアプリ」を最も重視する予約手段と位置づけている。
さらに、22%は将来的に「AIチャットとの会話」を予約手段として利用したいと回答しており、対話型AIへの期待も一定程度存在する。
【編集部コメント】
「会う」出張に価値を見る若年層、企業は再評価を
今回のビジネストラベルの調査結果は、ミレニアル世代・Z世代のビジネス旅行者が、デジタルに慣れた世代でありながら、リアルな対面交流を重視している実態を明らかにした。リモートワークの定着によって、むしろリアルな場の価値が再認識されているともいえる。
出張を単なる移動や業務遂行の手段ではなく、キャリア形成や仕事の満足度向上につながる重要な機会と捉えている点も注目される。企業側にとっても、出張を人材開発の一環と位置づけ直す契機となるだろう。
また、出張時の楽しみやブレジャー志向、環境配慮への関心の高さからも、若年層の出張ニーズは「体験の質」や「価値観の反映」に重点が移りつつある。日本が世界からのビジネストラベルの注目先となるなか、こうした変化を的確に捉えた受け入れ体制の整備が求められる。
(出典:Events are driving business travel for Millennials and Gen Z employees)
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