データインバウンド
オーストラリア市場の2025年旅行トレンド 日本が渡航先で米国超え
2025.09.09
やまとごころ編集部インバウンド市場において、長期滞在・高消費といった特徴を持つオーストラリアは、引き続き注目すべきターゲット国である。
オーストラリア統計局(ABS)が公表した最新データによれば、同国の会計年度である2024年7月〜2025年6月の年間海外旅行者数は前年比11.6%増と大きく伸び、コロナ禍前の水準を上回った。とりわけアジアへの旅行が増加しており、アメリカを上回って日本が人気渡航先の上位に浮上するなど、大きな変化が見られる。
本稿では、オーストラリア旅行産業協会(ATIA)のレポート「ATIA Travel Trends August 2025」をもとに、オーストラリア人旅行者の価値観や行動変化を読み解く。特に日本が人気トップ層に浮上した背景と、今後の市場展望を整理する。
オーストラリア人の海外旅行が回復、アジア志向が鮮明に
この1年間、オーストラリア人の海外旅行は記録的なペースで回復した。ただしATIA(オーストラリア旅行産業協会)のデータは、単なる回復ではなく、旅行先の選好や行動に新たな変化が生じていることを示している。
2024年7月〜2025年6月の年間出国者数(アウトバウンド)は約1226万人で、前年同期比11.6%増、2019年比でも5%の増加となった。特に学生や若年層の動きが活発化し、初めての海外旅行先としてアジアを選ぶ傾向が強まっている。

左より、2023-24年度(グリーン)、2024−25年度(黒)、2年間の平均(網掛け)

これまでの海外旅行における主要な渡航先は、ニュージーランド、アメリカ、イギリスといった英語圏の国々が不動の地位を占めていたが、最新のランキングには明確な変化が見られる。 アメリカが順位を下げる一方で、日本が急浮上しトップ3に入り、伸び率も29.6%と最大だった。中国、ベトナム、インドネシアといった国々も順位を大きく上げ、アジアが旅行先として定着しつつあることが明らかになった。
この背景には、オーストラリアドル高騰に伴うアメリカ旅行の高騰がある。一方で、アジア諸国は、相対的に手頃な旅行費用と、新たな体験への期待から、オーストラリア人にとって魅力的な選択肢となっている。
なお、JNTO(日本政府観光局)が発表した2024年の年間訪日客数でも、オーストラリア人旅行者は約92万人で、全体7位にランクインしている。
日本が豪州の旅行者に選ばれる理由、円安と文化体験の魅力
オーストラリア人にとって、アウトバウンド先として日本がアメリカを上回った背景には、オーストラリア人の旅行に対する価値観の変化がある。経済的要因と文化的な魅力が相まって、日本の魅力度が高まっている。
(1) 円安が後押し、コストパフォーマンスの高さが評価
記録的な円安により、オーストラリアドルの購買力が高まり、日本は旅行先として「お得感」のある国となった。宿泊、食事、交通、ショッピングすべてにおいて、オーストラリア人旅行者はコストパフォーマンスの高さを実感している。
(2) 文化・自然・都市の体験が融合した魅力的な渡航先
経済面だけでなく、日本の持つ独自の文化的な魅力も、オーストラリア人旅行者を引きつけている。
食文化: 寿司やラーメンといった定番に加え、地方の郷土料理、ミシュラン星付きレストランなどが高評価。日本の多様な食文化は食にこだわるオーストラリア人にとって大きな魅力となっている。
豊かな自然: 冬の北海道や長野でのスキー・スノーボード、春の桜や秋の紅葉など、アウトドアを好むオーストラリア人のニーズに応えている。訪日のピークは1月、次に4月、9月下旬〜10月中旬となっている。
歴史と現代の融合: 東京・大阪など大都市の近未来的な風景と、京都・奈良の歴史的な街並みが共存する日本の姿は、彼らの好奇心を強く刺激する。特に、寺社仏閣や伝統的な祭りは、彼らが求める「authentic(本物の)」な体験として評価されている。
ATIA(オーストラリア旅行産業協会)の調査でも、オーストラリア人旅行者は、単なる観光地巡りから、より深く現地の文化に触れる体験を重視する傾向の強まりが明らかになっている。茶道体験、着物体験、料理教室、酒蔵見学などのアクティビティは、こうしたニーズに完璧に応えている。
一方で、こうした訪日ブームが続く一方、双方向の交流が健全な市場発展に不可欠であることも見逃せない。ATIAのレポートによると、2024年7月〜2025年6月の豪州から日本への旅行者は91万人を超えたが、日本からオーストラリアへの訪問者は約39.7万人にとどまっている。今後は、日本側の訪豪需要の喚起や、双方向の交流を促進が課題となる。

左より、2023-24年度、2024−25年度、2年間の平均

訪日オーストラリア人旅行者の特徴、長期滞在と地方分散が進展
訪日オーストラリア人の動向には、いくつかの顕著な特徴がある。
(1) 高い消費額と長期滞在
ATIAのレポートによると、2024年7月〜2025年6月の訪日オーストラリア人旅行者の1人当たりの消費額は、前年を上回る水準となっている。円安による購買意欲の向上と、長期滞在の傾向が背景にある。
日本政府観光局(JNTO)の調査では、2024年の観光・レジャー目的での1人当たり旅行支出額は39万9298円で全市場でオーストラリアがトップ、平均滞在日数も11日〜14日と長く、滞在中の消費活動が活発である。この傾向は2025年も継続していると見られる。
(2) 地方への分散とリピーターの拡大
従来の主要な訪問先は東京、大阪、京都などのゴールデンルートが中心だったが、近年は地方志向が高まっている。北海道ニセコや長野白馬などのスキーリゾートは冬の定番となっているほか、夏は沖縄や九州、四国の秘境を訪れる旅行者が増加している。一度日本を訪れたリピーターが、より深い体験を求めていることの表れだ。
(3) アジア全体への関心の高まり
日本に加え、中国、ベトナム、インドネシアなどのアジア各国も人気の渡航先となっている。これらの国々は、日本と同様に費用対効果が高く、冒険や新たな体験を求める層に支持されている。
中国は、パンデミックを経て新たな観光地として再認識され、ベトナムやインドネシアは、美しい自然と価格の手ごろさで、若年層のバックパッカーやデジタルノマドを惹きつけている。アジア志向の高まりは、日本にとって大きなチャンスであると同時に、競合の激化も意味している。
インバウンド市場成長の鍵は地方と持続可能性
日本がオーストラリア市場でさらなる成長を遂げるには、価格競争に依存しない戦略が不可欠である。
(1) 地方直行便の拡充で選択肢を広げる
現在、シドニー、メルボルン、ブリスベンから東京、大阪、札幌など主要都市への直行便はあるが、地方空港への直行便や地方都市を経由する路線は限られている。路線拡充により、地方へのアクセスが改善されれば、旅行者の分散化と滞在の多様化が進む。
(2) 持続可能な観光の推進
オーストラリア人は環境や地域文化や社会配慮への意識が高い。観光地や事業者が地域の文化や自然環境を尊重した持続可能な運営の実践の積極的なアピールは、彼らのエンゲージメントを高める上で重要になる。
(3) 多様なニーズに応える高付加価値なコンテンツ開発
富裕層からバックパッカーまで、多様な旅行者のニーズに応えるためには、価格帯やテーマの多様性である。特に、日本文化を体験できるワークショップ、農泊、エコツアーなど、「見る」だけでなく「体験する」を重視するサービスが、今後も鍵となるだろう。
【編集部コメント】
高まるオーストラリア市場の可能性
2025年のオーストラリア人旅行者動向は、単なるコロナ禍からの回復を超え、新しい時代の幕開けを告げている。円安という経済的な追い風に加え、日本の文化、食、そして体験が、オーストラリア人の心をとらえ、長年の人気渡航先であったアメリカをも上回るほどの魅力を持つに至った。
この市場の特性を捉え、JNTOは、消費額と平均宿泊日数が高いオーストラリア人旅行者の動向を最大限に活かすため、地方誘客に貢献する戦略を推進している。具体的には、地方のコンテンツを中心に、日本の魅力を発信し、高付加価値な消費を促すプロモーションを展開していく。また、新規層とリピーター層の両方に対し、スキーや豊かな自然、ローカルフードといった人気コンテンツを、その地域の魅力と合わせて情報発信することで、多様なニーズに応える。
今後、日本がこの勢いを維持し、さらなる成長を遂げるためには、単なる観光地の魅力を伝えるだけでなく、多様なニーズに応える高付加価値なコンテンツの開発、そして持続可能性を意識した観光地の運営が不可欠となるだろう。
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