データインバウンド
2025年 国慶節の中国人旅行動向、スロートラベルや紅葉狩りが人気。世代で異なる傾向
2025.09.25
やまとごころ編集部2025年10月1日〜8日の国慶節連休(ゴールデンウィーク)は、中国人旅行客にとって最大の海外旅行シーズンの一つである。今回の連休では、従来の人気都市に加えて、旅先やスタイルの多様化が顕著になっている。ドラゴントレイル・インターナショナルによる調査と、中国の主要旅行代理店・OTAの最新データをもとに、旅行トレンドを読み解く。
国慶節の海外旅行意向は35% 予約は直前型が主流に
調査によると、回答者の35%が国慶節連休中に海外旅行を計画しているが、8月下旬の時点で実際に予約済みの層はわずか9%にとどまる。直前予約の傾向が引き続き強いことがうかがえる。
旅行先としてはアジアが64%と圧倒的で、次いでヨーロッパが23%。距離とコスト面のバランスが選定要因と見られる。
▶︎国慶節休暇での海外旅行先:地域別
(上より、アジア、欧州、オセアニア、北米、中東、アフリカ、中南米)

具体的な国・地域では、韓国が16%以上の回答者に選ばれ、トップに立っている。韓国は、豊富なフライト接続や短い移動時間、そして3人以上のグループに対する新しいビザなし政策(9月29日より)が追い風となり、中国人観光客のブームが予想される。その他、マカオと日本は9.5%で同率2位、タイと香港はそれぞれ5%で同率4位となった。リピーター率はアジアでは日本が最も多いこともわかった。
なお、同様に2025年1月〜8月までの海外旅行先を尋ねたところ、1位は18.1%の日本で、マカオ(14.8%)、香港(12.8%)、韓国(10.7%)、タイ(6.7%)と続いた。
▶︎国慶節休暇での海外旅行先:国・地域別
(左=計画・予約あり、右=リピーター率)

若年層は個人旅行志向、シニアは団体、個人の二極化
全体の56%がFIT(個人旅行)を計画しており、次いで団体旅行27%、プライベートツアー17%と続く。18〜24歳の若年層では71%がFITを選んでおり、自由度を重視する傾向が強い。一方、45〜65歳層では団体・個人旅行がそれぞれ44%と拮抗しており、団体旅行ならではのサポートを重視する傾向も見られる。
▶︎国慶節休暇での世代別・海外旅行タイプ
(グレイ=団体旅行、ブルー=プライベートツアー、赤=FIT)
旅行の同行者としては、パートナー(24%)や友人(24%)と旅行する予定の人が大半を占めている。一人旅を計画している人も9%いた。家族旅行も重要な市場ではあるが、旧正月や夏の休暇と比べると、国慶節休暇ではその比率は低くなる。
近隣国人気が継続 エジプトなど新興国も急浮上
また、旅行代理店やOTAのデータからも、旅行先の多様化が明らかになっている。
Qunar(去哪儿旅行、チューナー)の海外ホテル予約では、日本、タイ、韓国などの近隣国が依然として人気の旅行先となっている。一方で、エジプト、ウズベキスタン、カンボジア、スウェーデン、ベルギー、スリランカなどの新興目的地が急成長を見せており、旅行先の多様化が加速している。
Utour(衆信旅遊、ユーツアー)の連休予測データでは、海外旅行者が前年同期比130%増加したことが明らかになった。ヨーロッパでは、スペイン、ポルトガル、英国、バルカン半島が最も人気があり、成長率は90%を超えた。近場の目的地ではシンガポール、スリランカ、バリ、ブルネイ、ベトナムが人気だ。また、紅葉を見るために北米に向かう年配の旅行者が増加した。エジプト、モロッコ、チュニジア、ケニア、キューバといったニッチな「ダークホース」目的地も注目されている。
AirBnbのレポートでは、海外旅行先の検索数トップは昨年同様、日本が維持した。しかも、東京、大阪、京都といった定番の都市に加え、ユニークな食文化で人気を集める福岡の検索数が大きく伸びている。また、東京からアクセスしやすい伊豆半島も、その多様な自然とアクティビティが評価され、検索数が2倍以上に増加した。

▲インバウンドにも人気の博多の屋台
トップ10には、日本に続いてイタリア、フランス、スペイン、ニュージーランド、韓国、インドネシア、オーストラリア、米国、英国がランクイン。検索数が多かった上位20都市の半数がヨーロッパの都市であることから、ヨーロッパへの関心が高まっていることがうかがえる。特に、ギリシャのAirbnb物件の検索数は前年比で7倍、クレタ島に至っては10倍に急増し、中国人旅行客の新たな人気旅行先として注目を集めている。
Z世代はSNS映え重視、全世代で「癒しと自然」の旅が台頭
今回の国慶節休暇の大きなトレンドとして、忙しい日常から離れて、海辺や山岳リゾートでゆっくりと時間を過ごす「スロートラベル」への関心が高まっている。Airbnbのレポートによると、海辺リゾートでは、沖縄の検索数が前年比2倍以上になったほか、ビザなし政策が後押ししたベトナムのフーコック島は7倍近い伸びを記録。スペインのマヨルカ島も検索数が4倍に急増している。
さらに、山岳リゾートでは、イタリアのドロミテ山脈にあるトレントは検索数が3倍に、フランスのオート=サヴォワ地域圏も検索数が4倍に増加するなど、アウトドアや美しい自然を求める旅行客に支持されている。
また、特にZ世代はSNS映えを重視しており、映画ロケ地や絶景スポットなど「見て・見られる」体験を重視。たとえば、映画『ローマの休日』の舞台となったイタリアのアマルフィ海岸や、歴史的な街並みが美しいチェコのプラハへの関心が高まっている。映画『ロード・オブ・ザ・リング』のロケ地であるニュージーランドのクイーンズタウンも、美しい風景とアクティビティが人気を集め、検索数がほぼ倍増した。
3タイプに分類できる旅行者像 世代で動機と目的地が明確化
旅行代理店GZL International Travelのレポートでは、旅行者を以下の3タイプに分類している。
・Z世代の冒険家(32%):20〜35歳の層で、SNSで話題の場所や、スカイダイビングのような冒険的なアクティビティを求めている。
・ミレニアル世代の親(21%):マレーシアやオーストラリア、ニュージーランドなど、ビザなしで家族向けに楽しめる目的地を選んでいる。
・紅葉狩りをするシニア旅行者(22%):50〜65歳の層で、紅葉を楽しむために、ヨーロッパや北米、日本でより長く、快適で質の高い旅行を楽しんでいる。
また、Utourは、ツアーグループの規模が30人から20人に縮小し、より少人数のグループ向けツアーが増えていることも指摘している。
画一型から個別志向へ 旅行体験設計が誘客の鍵に
今回の調査は、中国人旅行客が定番観光から離れ、個人の趣味・ライフスタイルに即したより深い旅行体験を重視していることを示している。このトレンドは今後も加速するとみられ、より一層、旅行者ごとの嗜好に応じた体験設計が、誘客の成否を左右する。
【編集部コメント】
多様化する中国人旅行客、世代別ニーズと地域誘客の機会に
2025年の国慶節連休は、中国人旅行客の多様化した価値観が鮮明に表れている。韓国や日本などの近隣国は根強い人気を維持しつつも、エジプトやギリシャ、ニュージーランドといった「新しい旅先」への関心が急伸。さらに、SNS映えを求めるZ世代、ビザ免除や利便性を重視するミレニアル世代の親世帯、紅葉や長期滞在を楽しむシニア層と、世代ごとの旅行動機も大きく分化している。日本でも東京・大阪・京都といった定番に加え、福岡や伊豆といった地域が検索数を大きく伸ばしており、地方にとってはチャンスの拡大期だ。今後は「誰に・どの体験を届けるか」をより明確に設計することが、誘客戦略の鍵となるだろう。
(出典:DragonTrail International, Chinese Traveler Sentiment Report: September 2025)
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