データインバウンド
観光事業者への意識調査 56%が人手不足 訪日受け入れ意向は低下傾向へ
2025.11.10
やまとごころ編集部観光業界の現場では、訪日客の回復に人手が追いついていない。調査では、半数以上の事業者が「人手不足」を最大の課題に挙げた。
一般社団法人日本旅行業協会(JATA)が公表した「インバウンド旅行客受入拡大に向けた意識調査(第4回)」では、観光関連事業者が直面する受け入れ課題として、人材不足や制度的な支援の必要性が浮き彫りとなった。調査は、全国の観光関連事業者1,107名を対象に、2025年7月1日〜24日にかけてWEBアンケート形式で実施されたもので継続調査の第4回目にあたる。なお、比較対象となっている前回(第3回)調査は、2024年7月に行われた。
回答者の訪日客の受け入れ規模、10万人未満が約7割 二極化の傾向も明確に
回答者の構成は、旅行会社(333件)と輸送業者(276件)が合わせて55%を占めた。一方、観光施設からの回答は過去最多の51件となり、全国通訳案内士などの新たな業種からの回答も増加。これにより、旅行・輸送・宿泊の3事業者による構成比は前回の75%から66%へと低下し、より多様な業種の意見が調査に反映された。
▶︎2025年調査回答者の事業形態内訳
2024年1月〜12月の訪日客受け入れ実績では、「10万人未満」と回答した事業者が全体の67%を占めた。内訳は「100人以上〜1,000人未満」が18%、「1,000人以上〜10,000人未満」が16%と続いており、大半の事業者が小規模な受け入れにとどまっていることがうかがえる。
▶︎2024年(1〜12月)の訪日客受け入れ実績
2024年と比較した観光客数(国内旅行含む)では、「90〜109%(前年並み)」が最多で、全体の37%を占めた。
一方、訪日客単体に限ると「前年比110%以上」との回答が35%に達し、全体(23%)を大きく上回った。反対に「70%未満」は訪日客単体で15%、全体で11%と、受け入れ状況における二極化の傾向が顕著となっている。
▶︎観光客受け入れの前年比比較
訪日旅行は個人・団体レジャーが中心 春・秋に需要集中が加速
受け入れている訪日客の旅行スタイルは「個人レジャー」(70%)、「団体レジャー」(67%)が主流で、MICEや学生団体、スポーツ団体なども一部で増加傾向がみられた。
▶︎訪日客の旅行スタイル
なお、自由記述では、アニメの聖地巡礼や医療ツーリズム、教会巡礼、アート・工芸品を目的としたツアーなど、特定目的に基づく旅行の需要も示されている。
訪日客が多い、または多くなると想定される時期としては、「春季(桜・イースター)」が50%、「秋季(紅葉)」が48%で、ともに上位を占めた。いずれも前回より比率が上昇しており、春と秋への需要集中がさらに進んでいる。
一方で、「夏休み期間(7月後半〜8月末)」は17%、「スキーシーズン」は12%と、限定的ではあるものの前回から比率が上昇。特定のニーズを背景に、夏・冬シーズンの需要にも拡大の兆しがみられる。
▶︎訪日需要が高まる時期
自由記述では、3月・4月に加えて「5月・6月」も訪問時期として挙げられ、桜シーズン後の残留需要が示唆された。また、欧米の「夏休み期間(6〜7月以降)」や「クリスマス〜新年」「旧正月」など、海外の休暇に合わせた訪日需要の存在も明らかとなっている。
注力コンテンツは高付加価値旅行と食文化、重点市場は台湾がトップに
観光関連事業者が注力している観光コンテンツでは、「高付加価値旅行」(27%)と「ガストロノミー(美食・食文化)」(18%)への関心が引き続き高かった。今回新たに選択肢に加わった「スポーツツーリズム」(10%)は、「スノーツーリズム」(7%)を上回っている。自由記述では、伝統文化体験やアニメ・ゲームなどのサブカルチャー、MICEや教育関連分野など、幅広い取り組みが挙げられた。
▶︎事業者が注力する旅行・観光関連コンテンツ
現在の重点市場についての回答は「台湾」(51%)が最多で、「中国」(37%)、「北米」「欧州」(いずれも32%)が続いた。将来的には、「東南アジア」(19%)や「オセアニア」(12%)など新しい市場への関心も高まっており、重点市場の多極化が進んでいる。
▶︎現在の重点市場
前回調査と比較すると、中国は29%から37%へと大きく回復している。また、北米と欧州も現在・将来ともに選択率が上昇しており、これらの地域に対する期待が高まっている。
▶︎重点市場の推移(アジア・オセアニア)
▶︎重点市場の推移(欧米・その他地域)
訪日客受け入れ意向は減少、人手不足が最大の課題に
今後の訪日客受け入れについて「受け入れたい」との意向を示した事業者は33%で、前回調査(44%)から11ポイント減少した。
受け入れ予定がない、あるいは受け入れに関する課題については、「人手不足や人材不足」を挙げた事業者が全体の56%に上り、引き続き最大の障壁となっている。
▶︎訪日客の受け入れ意向
現在・将来のいずれにおいても、受け入れ課題としては「人手不足・人材不足」に加え、「オーバーツーリズム」も多く挙げられた。
なお、将来と現在を比較した際に差が大きかった項目としては、「国・政府の支援・官民連携」(将来29%、現在11%)、「自治体の広域連携の拡大」(将来27%、現在13%)、「観光インフラ整備」(将来23%、現在17%)などが挙げられた。いずれも単独の事業者の対応では限界があり、広域的かつ制度的な支援が必要とされる分野である。
▶︎訪日客受け入れの課題
課題の解決状況については、3割近くの事業者が「課題が解決に向かっている」と回答した一方で、「依然として未解決(6カ月前とほぼ同じ状況)」との回答が57%と過半数を占め、課題の長期化がうかがえる。
▶︎課題の解決状況
また、国への支援要望としては、「地方誘客と広域連携の支援」が36%で最多となり、以下「事業運営・拡大のための資金的支援」(26%)、「オーバーツーリズム対策および持続可能な観光への支援」(26%)、「人材育成・労働環境の改善」(25%)が続いた。
▶︎求められる支援(国・政府の支援・官民連携のあり方)
人材不足は現場職に集中 ドライバー不足が45%で最多
人材・人手不足の要因としては、「待遇の改善」(35%)や「就職希望者の少なさ」(33%)が上位に挙げられた。いずれも前回調査では44%と高い水準だったが、今回はやや低下しており、一定の改善傾向が見られる。
一方で、「訪日客対応人材の育成余力がない」(26%)や「訪日客対応経験者の不足」(27%)は前回より比率が上昇しており、対応可能な人材の確保がより深刻化している状況が見て取れる。
▶︎「人手不足・人材不足」の背景
職種別では、「ドライバー・バスガイド」(45%)が最も不足しており、「多言語対応スタッフ」(36%)、「フロント・サービススタッフ」(34%)など、現場対応職種に課題が集中している。「ドライバー・バスガイド」は前回の58%から13ポイント減少しているものの、依然として最も不足が深刻な職種だ。
また、「営業・販売」や「マーケティング・商品企画・造成」など、業務の上流工程にあたる職種においても人材不足の比率が増加しており、観光産業全体での人材確保の難しさが浮き彫りとなっている。
▶︎人材が不足している職種
【編集部コメント】
広域連携と官民協働が鍵 持続可能な観光の実現へ調査結果を活用
訪日需要の回復が進む一方で、受け入れ意向の低下は、人手不足と制度的支援の不足が影響していることが浮き彫りとなった。旅行スタイルや訪問時期の多様化が進む一方で、依然として春・秋に需要が集中しており、その対応やオフシーズンの機会活用が次なる課題だ。中小事業者や地域単位では解決が難しい問題も多く、今後は「広域連携」や「官民協働」が鍵となるだろう。自地域の受け入れ体制の強みと弱みを見つめ直す材料として、本調査結果を活用してみるのも一案だ。
(出典:日本旅行業協会 第4回「インバウンド旅行客受入拡大に向けた意識調査」)
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