データインバウンド
2026年の旅行予測、個性・内面を映し出す「10のトレンド」ーBooking.com調査
2025.11.17
やまとごころ編集部旅のあり方が、今、根本的に変わり始めている。かつて旅は、決められたルートを辿る「パッケージ」だったが、現在の旅行者が求めるのは、自分自身の個性や願望を叶える「パーソナライズされた舞台」だ。特に、Z世代やミレニアル世代を中心に、旅の主役は「目的地」から「旅行者自身」へと移行している。
Booking.comが発表した2026年の旅行予測レポートは、この時代の転換点を克明に捉えた。33の国・地域、2万9000名超の旅行者への調査に基づき、旅行者がニッチな関心を大胆に追求し、テクノロジーを駆使して「自分だけの旅」をデザインする実態を明らかにしている。
あなたの旅は? 10のトレンドと今訪れるべき世界の注目都市
レポートは、旅がより個人の価値観や感情に寄り添う方向へと進化し、「パーソナライズ」や「内面的な充足」を求める傾向が強まっていると指摘する。
こうした変化を踏まえ、2026年の旅行を象徴する10のトレンドと、それを体現する注目の旅先が提示された。以下で、それぞれの特徴と旅行者の意識の変化を紹介する。

小さな達成を祝う旅や、自文らしさを体現する「お土産」への関心高まる
2026年の旅は、人生の大きな節目を待たず、日々の努力や小さな達成を旅のきっかけとする考え方が広がっている。この「ささいな成功を祝う旅(Modern Milestone Missions)」のトレンドは、回答者の75%が「懸命に働いた自分へのご褒美」として旅行を正当化すると答えていることから、その強い意向が裏付けられている。このトレンドを体現する目的地として、ブラジルのマナウスが注目される。アマゾンの手付かずの自然に没入し、ジャングルトレッキングや現地住民との交流を通じて、個人の達成感を壮大なスケールで祝う場所だ。
旅先で手に入れる記念品も、「自分らしさ」を表す要素として注目されている。「棚に飾るお土産(Shelf-ie Souvenirs)」と呼ばれ、旅先で購入したデザイン性の高い缶詰や、職人の技術が詰まった食器類などが、帰宅後のキッチンや棚を飾り、その人のセンスや旅の物語を語る「見せるお土産」となっている。旅行者の68%が、こうしたお土産を持ち帰ることを検討しており、特に中国の広州は、広東料理発祥の地としての食文化に加え、海上シルクロードの重要なハブとして栄えた歴史から、質の高い磁器や茶葉などの文化的・デザイン性の高い記念品を探すのに理想的な場所とされている。
また、旅は過去の自分やルーツと再会する手段となる。「ノスタルジー旅行(PastPorts)」は、AIなどの技術を活用して、古い家族写真が撮影された正確な場所を特定し、その場で写真の風景や構図を再現するトレンドだ。回答者の66%がこの体験を検討しており、単なる場所の再訪に留まらず、写真に写っている人物やその時代の雰囲気、さらには当時のファッションを再現することで、世代を超えた感情的な繋がりや自己の成長を確認する場となっている。アメリカ合衆国発祥の地と呼ばれるフィラデルフィアは、自己のルーツを辿る旅先に選ばれている。

さらに、合理性よりも精神的な導きを重視する「運命の目的地(Destined-ations)」も増加している。旅行者の47%がストーンサークルや寺院などの聖地を訪れるスピリチュアルな旅を検討しており、旅行のタイミングや目的地を、占星術師の助言や宇宙のタイミングに合わせて再検討するケースも見られる。インドのコーチ(かつてコーチンと呼ばれていた)は、ヴェーダ占星術やナディ占星術が根付くスピリチュアルな場所として知られ、この運命的な旅を体験したい旅行者にとって、最適な目的地となっている。
AIマッチングや相性チェックが、旅の人間関係を変える
2026年の旅の大きな特徴として、新しい人との出会いや既存の関係性の試練といった「交流」に対する強い意欲が挙げられる。
特に、「相乗りロードトリップ(Rewired Road Trips)」への関心は84%と最も高く、注目すべきトレンドとなっている。これは家族や友人との旅とは大きく異なり、AIによるマッチング機能を駆使して、音楽の趣味や会話の関心が合う新しい旅の仲間を見つけ、車での移動と旅の喜びを共有するスタイルへと進化した。このトレンドの背景には、旅行者が旅先での安全性を重視し、同じ背景やジェンダー、セクシュアリティを持つ相乗り相手を選ぶ傾向が強いことが挙げられる。コロンビアの沿岸都市バランキージャは、ユネスコに登録されている大規模なカーニバルを開催しており、この熱狂的なイベントが新しい出会いのきっかけとなり、その後のロードトリップの始まりとして理想的な場所だ。
また、旅を人間関係の「試練」の場と捉える「相性テスト(Turbulence Test)」への関心も69%と非常に高い。恋愛関係のパートナーや仕事仲間、新しい友人との相性を確認するため、あえて限られた予算や役割交換などの制約を課したり、適応力が試される遠隔地への旅行を選択したりする。旅行者の37%が、潜在的なパートナーや同僚との相性を試すために旅に出ると回答している。ベトナムのムイネーは、エキゾチックな景色と新しい文化への適応が求められる環境を提供し、関係性の強度を試す舞台として選ばれている。
フィクションの世界への没入を追求する「ロマンタジーな旅(Romantasy Retreats)」も、旅行者の53%が関心を示す。ファンタジーとロマンスが融合した「ロマンタジー」小説の世界観を忠実に再現した、城や中世の宴会などを組み込んだ旅程が人気となっている。このトレンドを体現するドイツのミュンスターは、1200年の歴史を持つ旧市街に、ロマンチックな城が点在しており、まるで物語の中から飛び出してきたかのような非日常的な体験を提供する。
美容・静寂・ロボット、進化するウェルビーイング旅の形
旅の目的は、単なる休息から、心身の健康と内側からの癒しを求めるウェルビーイングへと深くシフトした。中でも、スキンケアに特化した「美肌休暇(Glow-cations)」への関心は80%に上り、高い注目を集めている。これは、旅行が個人の肌の悩みに合わせた美容・ウェルネストリートメントを複数組み合わせた、完全にパーソナルな体験となることを示唆している。実際、旅行者の71%が、時差ぼけの軽減や特定の健康問題に対処するために、パーソナライズされた運動プログラムを提供する旅程に興味を示している。オーストラリアのポートダグラスは、世界遺産のグレートバリアリーフとデインツリー熱帯雨林に囲まれた最高のロケーションを誇り、極上のスパ体験と壮大な自然との調和を通じて、旅行者の内側からの輝きを引き出す拠点となっている。
一方、過剰に刺激的な日常から離れ、「静かに楽しむ趣味(Hushed Hobbies)」も旅の動機となっている。旅行者の43%が、自然とのより深いつながりを感じるために旅に出ると回答しており、バードウォッチングや、昆虫採集、山菜採りといったフォージング(採集)など、自然との一体感を味わえる静かな趣味が好まれている。旅行者の69%は、食事のために地元の自然の中で食材を採集できる宿泊施設への滞在に関心を示している。カーボベルデのサル島は、その穏やかな海岸線と豊富な野鳥の種類から、静かで内省的な時間を過ごすのに理想的な場所として注目されている。
宿泊のあり方も劇的に変化している。「人型ロボットの家(Humanoid Homes)」とは、清掃ロボットやロボットシェフといったヒューマノイド・ヘルパーが常駐する宿泊施設のことだ。旅行者の77%が、このようなロボットによるサービスがある宿泊施設の予約に前向きであることから、滞在中の家事負担から解放され、より多くの時間を旅の体験に充てたいという願望が読み取れる。スペインのビルバオは、歴史と革新が融合する都市であり、ロボットによるおもてなしをいち早く取り入れた施設が登場するなど、テクノロジー・ファーストのホスピタリティが広がりを見せている。
これらのデータは、2026年が旅行者一人ひとりの個性と願望が旅のあり方を決定づける時代となることを明確に示している。観光産業にとっては、単なる観光地や宿泊施設を提供するだけでなく、「自己表現」や「精神的充足」など、旅行者の内面に応える体験設計こそが、今後の観光ビジネスの競争力を左右するだろう。

【編集部コメント】
旅の個人化が始まる、個性と内面を映す2026年の旅行トレンド
2026年の旅は、非日常を楽しむ手段から「自己表現と内面の探求」へと進化している。Booking.comの調査が示すように、旅行者は達成感や癒し、精神的つながりを求めて超パーソナルな旅を志向している。観光業にとって重要なのは、施設やサービスの機能性よりも、「自分らしさを体験できる設計」である。画一的なプランではなく、価値観や感情に寄り添う旅づくりが鍵となる時代が到来している。
(出典:Booking.com, Travel on your terms: 2026 travel predictions)
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