データインバウンド
香港からの海外旅行が過去最高に、訪港客は依然として回復途上 ー2024年年間統計発表
2025.11.27
やまとごころ編集部香港政府はこのほど、2024年の年間観光統計(速報値)を発表した。それによると、香港住民の出境数(アウトバウンド)は過去最高の1億人超に達し、2019年比で10.6%増となった。一方で、訪港旅客数(インバウンド)は4450万人にとどまり、コロナ禍前の8割程度に留まっている。また、訪港客の1人当たり消費額も2019年比で約5.6%減となっており、依然として完全な回復には至っていない。アウトバウンド・インバウンドの回復の濃淡が浮き彫りとなる結果となった。
香港インバウンドは8割回復、アウトバウンドは過去最高を更新
2024年の統計によると、訪港旅客数は4450万2787人だった。これは5591万2609人を記録した2019年比で約80%に留まり、客数自体は未だ回復途上にある。一方で、前年比では大幅な増加を記録し、回復基調にあることは間違いない。
対照的に、香港住民の出境数は1億470万人に達した。これは9470万人だった2019年比約10.6%増と過去最高を更新、2023年比では45%の大幅な増加を記録した。香港住民の旅行需要が爆発的に回復していることを示している。
香港のインバウンド、中国本土依存と他都市に遅れる誘致策
アジア開発銀行やAMRO(シンガポールにある国際機関「ASEAN+3マクロ経済調査事務局」)などの分析によれば、2024年の香港のインバウンド市場は回復基調にあるものの、回復スピードはシンガポールやバンコクなど、他のアジア主要都市に比べて緩やかであるとの見方が示されている。
この背景には、香港のインバウンド市場構造が中国本土への依存度が極めて高い点がある。2019年時点で訪港者全体の約78%を中国本土からの旅行者が占めており、コロナ後の本土側の出境制限・段階的再開の影響が香港に大きく波及したとみられている。
また、シンガポールやタイが早期に「国際線直行便の増強」「入国手続きの簡素化」「長距離市場への多様なプロモーション」を行ったのに対し、香港ではその動きがやや限定的だったという分析もある。
回復が早い東南アジア市場
ただ、香港インバウンドの客数ベースで2019年を既に上回っている国・地域も複数存在する。フィリピン(2019年比32.0%増)、シンガポール(同19.1%増)、タイ(同13.3%増)などが顕著であり、東南アジア市場が客数回復のけん引役となっているのがわかる。
一方、日本から香港への渡航者数は56万169人を記録し、国際市場の中でも上位を維持しているが、回復率は2019年比で約50%に留まっており、回復の余地が非常に大きい。
そのほか、欧米豪市場とも、2019年比では大きな回復の余地を残しており、今後の更なる誘致策が期待される。

香港住民の出境先は中国本土が圧倒的
香港住民のアウトバウンド旅行の行き先を見ると、2024年の出境総数1億470万人のうち、推計では中国本土への訪問が全体の75%を占める。これは、香港と中国本土を結ぶ陸路・鉄道インフラが再開・拡充されたことに加え、コロナ後の「家族訪問」需要や手軽な日帰り旅行が復調したことによるとされる。
日本への旅行が急増
香港住民のアウトバウンド先として、中国本土やマカオへの近距離移動が圧倒的多数を占める一方で、海外旅行先として日本への人気が突出している。
下の図版が示すように、香港居住者の日本への出境は2024年1〜11月までの累計で240万人(前年同期比29%増)となっている。実際のところ、JNTO(日本政府観光局)の統計によれば、2024年に香港から訪日した人数は260万人を超えており、香港住民の日本旅行への高い需要が裏付けられている。

なお、JNTOが発表した2025年1〜10月までの香港からの訪日客の累計は前年同期比7.0%減の201万8600人だった。これは、5月から続くSNSで拡散した地震情報の影響が大きいと考えられる。
訪港客の「消費額」は2019年比12.8%減
香港へのインバウンド客の総消費額は1204億8300万香港ドルに達したが、これは2019年比で約12.8%減となり、客数の減少幅(20%減)よりも小さい減少に留まった。また、1人当たり消費額は5490香港ドルで、2019年の水準(5818香港ドル)を約5.6%下回った。平均宿泊日数は3.2日と横ばいだった。
客単価は欧米豪・東南アジアが高水準、北アジアは全体平均を下回る
地域別では、訪港客の消費力に明確な違いが見られた。
下の表が示すように、アメリカ大陸、欧州・アフリカ・中東といった欧米豪を中心とした長距離市場、および東南・南アジア市場からの旅行者は、1人当たり支出が7000香港ドルを超え高水準にある一方、北アジア市場(日本・韓国)は4828香港ドルと、中国本土からの旅行者とともに全体平均を下回る水準にとどまった。
この差は、消費額が高いグループ(欧米豪、東南アジア)が高付加価値の滞在型旅行や高額な買い物を伴う旅行を主体としているのに対し、北アジア市場は地理的な近さも相まって、短期旅行が中心であるという、市場構造の違いを示唆している。

【編集部コメント】
香港観光統計に見る、回復の濃淡と市場構造の課題
香港インバウンドの回復が遅れる中、香港からのアウトバウンドは過去最高を記録し、訪日需要も依然として高水準にある。2024年には260万人以上が訪日し、日本は香港人にとって主要な旅行先の一つとなっている。ただし、2025年は10月までの累計が前年同期比7%減とにSNSの影響による足踏みも見られた。一方、訪港客数では、中国本土依存の構造が影を落とし、東南アジアや欧米豪の市場と比べ誘致策に差が生じている現状がある。香港の観光政策は、地域依存からの脱却と多様な市場への対応力が問われているのではないだろうか。
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