データインバウンド
2026年アジアの旅行市場は二次都市・体験型・AI主導へ、高松・松山の検索数増加ーAgoda調査
2025.12.09
やまとごころ編集部アジア地域の旅行市場は、2026年に向けて大きな転換期を迎えている。旅行予約プラットフォーム「Agoda」が発表した「2026 Travel Outlook Report」によると、旅行計画全体にわたり、多様化・合理化が進んでおり、特に「目的地の分散」「体験重視」「AIによる最適化」の三点が主要トレンドとして浮上している。
調査は、アジア9市場(インド、インドネシア、日本、マレーシア、フィリピン、韓国、台湾、タイ、ベトナム)の回答者3353名を対象に、2025年10月に実施した。
日本とタイで国内旅行志向が顕著に、「近場の未訪問地」への関心高まる
まず注目に値するのは、アジア各国で国内旅行が復権している点だ。レポートのデータによれば、2025年はアジアの35%の旅行者が「主に国内を旅行する」と答え、前年の15%から大幅に上昇した。背景には、物価上昇や為替変動といった経済的要因だけでなく、移動時間を最小限に抑えつつ週末に手軽に出かけられるマイクロトリップへの志向の高まりがある。自国の中で「まだ行ったことのない場所」を探し、観光の再発見を楽しむ姿勢はアジア共通の兆候だ。

特に国内旅行志向が突出しているのが日本とタイだった。日本では67%、タイでは66%が「2026年は国内旅行を中心にする」と回答し、アジア平均を大きく上回った。日本の場合は円安が影響しており、海外旅行が割高になる一方で、国内旅行は相対的に費用対効果が高い選択肢となっている。さらに、これまで訪れる機会が少なかった地方都市や自然豊かな地域への関心の高まりが、国内旅行を後押ししていると考えられる。
アジア全体で二次都市の検索が急増、日本は高松・松山などに注目集まる
旅行先の分散が進む中で、アジア太平洋では二次都市(セカンダリーデスティネーション)と言われるようなこれまで注目度が低かった地域が、旅行先の有力候補として選ばれる傾向が強まっている。
Agodaのデータによると、アジアの二次都市に対する宿泊検索は、過去2年間で主要観光地より15%速く成長している。2025年上半期には、Agoda上の全検索の34%が二次都市となり、旅行者の選好が大きく動いていることがわかる。
二次都市が選ばれる理由は明確だ。旅行者が低コストでの移動や滞在を重視する一方、混雑しない環境で、その土地ならではの文化や食、人とのふれあいを求める傾向が強まっているからである。観光客が集中する大都市よりも、適度な都市規模で落ち着いた魅力をもつ地域に価値を見出す傾向が、アジア全体で顕著になっている。

日本では、DMOによるターゲット型キャンペーンや旅行者の探求心の高まりを背景に、二次都市への関心が前年より74%増加した。2025年時点では東京・大阪・福岡が依然として主要な人気都市であるものの、高松(+63%)、松山(+44%)、仙台(+32%)、沖縄(+27%)、札幌(+26%) といった都市が宿泊検索において最も高い伸び率を示している。
瀬戸内エリアのように食とアートが融合した地域、あるいは仙台・札幌のように都市機能と自然の双方を備えるエリアは、旅行者の「過ごしやすさ」や「コスパの良さ」と合致しやすい。アジア全体で起きている二次都市の台頭という大きな文脈の中で、日本の地方は確かなポテンシャルを持つことが、この数字からも読み取れる。
「食・文化・イベント」が旅の主目的に、体験価値が旅行先選びに影響
旅行者が二次都市を選ぶもう一つの理由は、旅の目的がモノ消費からコト消費へ確実に移行している点にある。レポートでは、2026年の旅行者の主目的として、リラックスに続き、食体験と文化体験が上位に入り、食体験は昨年の6位から初めてトップ3に浮上した。台湾、韓国、タイ、日本など、食文化の豊かさが観光資源となっている国では特にその傾向が強い。
旅行者は観光地を「見る」だけでは満足しない。地元の市場で味わう食、地域の人と交わる文化体験、季節ごとの祭りや音楽イベントなど、その土地ならではの体験が、旅の中心的な目的となっている。
アジアでは他にも、音楽フェスや地域イベントが宿泊需要を大きく押し上げており、イベントは目的地選定の重要要素となっていることがわかる。
体験への志向は、都市規模に関係なく生まれる点も特徴だ。地域性の強い文化や自然を持つ地方都市のほうが、旅行者の心を動かしやすい。こうした背景からも、二次都市が今後ますます選ばれていく構造が見えてくる。
旅行者の6割が次回旅にAI活用意欲 東南アジアを中心に普及進む
レポート後半では、旅行者がAIに期待する役割が明確になっていることがわかる。図版にあるように、アジアの63%が「次の旅行計画にAIを利用する」と回答しており、とりわけベトナム、台湾、インド、インドネシアで利用意欲が高い。AIに期待される役割は、自分に合った宿泊や体験、観光スポットを絞り込み、最適な旅程を自動で組み立てることにある。

また、AIへの信頼度も地域によって大きく異なる。フィリピン(51%)と台湾(44%)の旅行者は最も高い信頼を示している一方、日本(9%)の旅行者は依然として慎重な姿勢を保っている。これはAIそのものへの「不信」というより、単に利用経験が少ないことによる「判断保留」の段階だと読み取れる。実際、情報検索や旅程作成が苦手だと感じる旅行者にとって、AIが行き先の提案から予約までシームレスにつなぐ機能は大きな負担軽減につながる。
さらにレポートでは、フライト遅延を検知してホテルのチェックイン時間や移動の予定を自動調整したり、天候に合わせて体験内容を最適化したりする「AIエージェント」の登場も示されている。旅行計画の一部ではなく旅全体をAIが管理する時代が、すぐそこまで来ている。
【編集部コメント】
2026年に向けた日本観光の次の一手
地方分散、体験価値の強化、そしてAIによるサービス革新という三つの変化は、今後の日本観光を大きく動かす力になる。観光事業者は、地域独自の魅力を体験として再構築し、利用者との接点にAIを組み込むことで、旅行者が求める「地域性のある体験」や「効率的な旅行計画」に応えることができる。
旅行者が求める新しい価値に応えることができる。2026年に向け、これらの潮流を的確に捉えた戦略づくりが、日本の観光の持続的成長と地方創生を実現する鍵となるだろう。
(出典:Agoda, 2026 Travel Outlook Report)
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