データインバウンド
2025年訪タイ外国人前年比7.2%減の3300万人、中国3割減が打撃。支出は増加傾向
2026.01.19
やまとごころ編集部2025年の訪日外国人客数が過去最高の4000万人を超えるのが確実ななか、かつて東南アジア屈指の観光大国として知られたタイは、やや厳しい一年を迎えた。タイ観光・スポーツ省(MOTS)が公表した2025年の観光年計からは、アジアの観光市場を取り巻く環境が大きく変化している様子が見えてくる。
インバウンド数は目標未達、前年を下回る結果に
2025年にタイを訪れた外国人旅行者は、3297万4321人だった。これは、2024年の約3554万人から7.2%の減少となる。タイ政府は当初、年間3800万〜4000万人の目標を掲げていたが、最終的にはこれに遠く及ばない結果となった。コロナ禍期間を除けば、年間入国者数が前年を下回るのは、この10年間で初めてのことである。
月ごとの推移を見ても、前年を上回ったのは1月のみで、2月以降は年末まで前年割れが続いた。年間を通じて伸び悩んだ点が、2025年の大きな特徴と言える。

最大の要因は中国市場の大きな落ち込み
2025年のタイ観光を語るうえで欠かせないのが、中国市場の減速だ。中国からの入国者数は447万3992人と、2024年は1位だった約673万人から3割以上減少した。
この背景には、2025年早々に発生した「ワン・シン(王星)事件」がある。中国人俳優のワン・シン氏がタイ国内で拉致され、隣国ミャンマーの詐欺拠点から救出されるという衝撃的なニュースは、中国国内のSNSで瞬く間に拡散された。これによりタイの治安に対する信頼は失墜し、書き入れ時であるはずの春節を前に、多くの中国人旅行者がタイへの渡航を白紙に戻した。さらに、中国経済の停滞も重なり、かつて全体の3割近いシェアを誇った中国市場は急速に縮小した。
一方で、マレーシアは前年比9%減ながらも452万856人となり、陸路入国の堅調さを背景に再びトップの座へと返り咲いている。
また、長距離(ロングホール)市場は力強い成長を見せ、過去最高となる1080万人を突破。イギリスとアメリカからの入国者は、それぞれ100万人越えという大台を記録した。

相次ぐ天災、紛争、そして政治危機
不振の要因は中国市場だけにとどまらない。2025年のタイは、まさに「試練の年」と言えるほど不運な出来事が重なった。
ミャンマーで発生した過去100年で最大級の地震がタイ北部に影響を与えたほか、カンボジアとの激しい国境紛争、南部での深刻な洪水が相次ぎ、旅行者の安心感を削いだ。また、国内でも政変による新政権の発足など、政治的な先行き不透明感が続き、観光インフラへの投資や政策実行の遅れを招いた。
こうした「負の連鎖」が、タイの観光ブランドに深刻なダメージを与えた一年となった。
広がる地域間競争、高まる日本の存在感
タイ国内の報道では、このほかにも観光不振の背景として「周辺国との競争激化」がしばしば指摘されている。なかでも、年々存在感が高まっているのが日本だ。2025年上半期の時点ですでに、日本への外国人観光客数は約2150万人と、同期間のタイ(約1669万人)を大きく上回っていた。アジアにおけるデスティネーションとしての「日本人気」の定着が、タイへの客足に影響した側面は否定できない。
さらに、タイの通貨であるバーツが強いことも影響した。タイでの旅行費用が相対的に割高になったことで、より安価に質の高い体験ができる日本やベトナムへと、海外旅行者の関心が移ったとの分析もなされている。
一方で、タイを訪れた日本人は109万1227人と前年比で約4%増加した。為替の影響や周辺国との競合に左右されることなく、一定数の日本人が継続してタイを訪れている事実は、日本市場の安定した根強さを示すものとして注目に値する。
タイ人アウトバウンドは好調、日本が一番人気
インバウンドが苦戦を強いられた一方で、タイ人の海外旅行は極めて活発な一年となった。2025年のタイ人アウトバウンドは約1030万人と、前年比で14%以上の増加を記録している。
なかでも日本は圧倒的な人気を集め、訪日タイ人数は約135万人と、タイの渡航先ランキングで首位を維持した。背景には、バーツ高による海外旅行のしやすさに加え、日本のビザ免除措置の継続、円安による「割安感」があると考えられる。

訪タイ客は減少も、観光収益は底堅く
外国人入国者数が前年比で減少した一方で、観光収益の面では異なる側面が浮かび上がる。
2025年の総観光収益2.7兆バーツのうち、インバウンド観光収益は1.53兆バーツを記録した。これを現在の為替レート(1バーツ≒5.06円)で換算すると、約7兆7488億円に達する。
外国人1人当たりの平均支出額を算出すると約4万6400バーツ(約23万5000円)となり、2024年の約4万2295バーツから増加傾向にある。欧米豪などのロングホール市場の滞在長期化や、高付加価値層の取り込みといった、タイ政府が推進してきた「量から質へ」の転換が一定の成果を収めているといえる。
野心的な2026年の目標
タイ政府観光庁は2026年に向け、野心的な目標を発表している。具体的には、外国人入国者数3670万人、そして国内旅行を含む総観光収益3兆バーツという極めて高い水準を目標に定めた。
今回の戦略の核となるのは、単なる客数の回復ではなく、観光のあり方そのものを変革させることにある。その象徴として、タイ政府観光庁は新スローガン「Amazing Thailand: Healing is the New Luxury(癒やしこそが真のラグジュアリー)」を掲げている。これは、従来の豪華さや贅沢ではなく、タイの豊かな自然や伝統、ホスピタリティを通じて心身を癒やす「体験の価値」こそが、現代の旅行者にとっての真の贅沢であるという定義だ。
この方針のもと、タイ政府観光庁ははウェルネス観光や、夜間の消費を拡大させるナイトエコノミー、さらには知られざる地方都市の魅力を発信する地方観光の強化に注力する。特に欧米などの長距離市場に対しては、滞在の長期化と高付加価値な体験を促すことで、持続可能な観光経営のモデルケースを構築しようとしている。
【編集部コメント】
観光市場は“数字の好調”だけでは測れない
タイの2025年の観光動向は、観光産業が為替や国際情勢、自然災害、各国の政治的な空気に左右されやすい分野であることを改めて示した一年だった。
日本では訪日客数が過去最高を更新した一方で、中国市場を中心に、年後半から一部で旅行需要の鈍化が指摘されている。
政治的な発言や国際関係を巡る報道が、旅行者の心理に影響を与えるケースは決して珍しくない。2026年に向けても、特定の国や地域に依存しすぎない集客の重要性は、これまで以上に高まっている。
今は好調に見える市場であっても、環境が変われば状況は一変する。タイの事例は、日本の観光業界にとっても、長期的な視点での市場分散とリスク管理の必要性を示す一つのヒントとなるだろう。
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