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中国高所得層アウトバウンドは体験重視へ、ソロ旅行増と労働節が新たな需要期に

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中国の高所得層アウトバウンド市場は、量の回復を経て「体験競争」の段階へ移行している。

中国発デジタルマーケティング企業EternityXと、消費者ビッグデータ分析企業MoonFoxが発表したレポート『Powering 2026 Affluent China Outbound Travel: What Comes Next for Brands』は、中国人高所得層の海外旅行における行動特性や嗜好の違いを分析したものだ。

本レポートは、中国人高所得アウトバウンド旅行者へのオンラインアンケート(N=1404)に加え、モバイルアプリ分析プラットフォーム「Aurora MoonFox」によるアプリ利用ビッグデータ、さらに世帯年収150万元(約3300万円)以上の超富裕層(HNWI)13名への1対1インタビューを組み合わせた統合分析に基づいて行われたもの。

調査対象は、世帯年収50万元(約1100万円)以上の高所得アウトバウンド旅行者で、以下の3層に分類している。
・中間所得層:世帯年収50万〜100万元(約1100万〜2200万円)
・高所得層:100万〜150万元(約2200万〜3300万円)
・超富裕層(HNWI):150万元以上(約3300万円以上)
※為替は1人民元=約22円で概算

 

中国アウトバウンド市場は完全回復、成長の主役は地方都市旅行者へ

中国人の海外旅行市場は回復基調にある。レポートによると、中国からの海外旅行者数は2024年の約1億4600万人から2025年には約1億7500万人へ回復し、コロナ禍前の2019年(約1億6900万人)を上回ったとされる。さらに2026年には約2億2500万人規模に達すると予測されている。
また、2025年1〜8月の中国本土からの出入国回数ベースの延べ渡航回数は、前年同期比15.4%増の約2.2億件となった。

さらに、中国は158カ国と相互ビザ免除協定を締結しており、渡航環境も改善している(いずれも2026年2月のレポート発表時点の分析)。

こうした市場回復を背景に、高所得層のアウトバウンド需要も拡大している。同時に、海外旅行需要の中心都市にも変化が見られる。従来は北京、上海、広州、深圳といった一線都市の富裕層が中心だったが、現在は成都、武漢、杭州など二線・三線都市からビザ免除国への直行便が増加し、海外旅行需要を押し上げている。

2025年11月時点の海外旅行関連モバイルアプリ利用データ(Aurora MoonFoxのアプリ利用動向分析によるデータ)でも、一線都市と新一線都市がそれぞれ約23%、二線・三線都市が約16〜18%を占めており、市場は特定の大都市に依存せず、より広域へ拡大している状況が見て取れる。

▶︎高所得者層アウトバウンド旅行者の都市階層分布
左から一線都市、新一線都市、二線都市、三線都市、四線都市、その他

高所得者層アウトバウンド旅行者の都市階層分布

 

高所得層アウトバウンドは大型連休に集中、労働節が次の最大商機に

市場回復と並行して、旅行需要の偏りも鮮明になっている。調査によると、2026年の高所得層アウトバウンド旅行は、春節(2月)、労働節(5月)、国慶節(10月)に大きく集中する見通しだ。

祝日別の旅行意向では、労働節が39.0%と最も高く、冬休みおよび国慶節がそれぞれ35.3%、春節が33.1%で続く。従来は春節と国慶節が二大ピークだったが、2026年は労働節が新たな最大商機となる可能性が高い。

▶︎2026年高所得者層アウトバウンド旅行の祝日別需要
赤枠は左から春節、労働節、国慶節

2026年高所得者層アウトバウンド旅行の祝日別需要

実際に、中国の出入国者数予測でも同様の傾向が示されている。2026年の出入国者数は、春節が1150万人超、労働節が約1000万人、国慶節が1255万人超に達する見込みだ。特に労働節は前年から大きく伸びると予測されている。中長距離路線(欧州・中東)の回復や増便、気候条件の良さが背景にあるとされる。

需要は通年で回復しているものの、実際の旅行は大型連休により強く集中する構造へ移行している。

 

若年・高学歴層が中心、家族同伴の海外旅行も拡大

2026年の高所得層アウトバウンド市場を担うのは、若く高学歴で家族志向の強い層だ。調査では、海外旅行関連アプリ利用者の約39%が25歳未満、82.6%が学士号以上を保有。企業管理職も33.3%を占め、都市部のホワイトカラー層が中心になっている。

家族旅行の存在感も大きい。48.7%が既婚・子どもあり世帯で、全体の約30%が子どもと一緒に海外旅行をしている。海外旅行は個人消費ではなく、家族単位の支出として拡大している。

また、所得が高い層ほど渡航頻度は高い。世帯年収50万元以上の約70%が年1回以上海外旅行を実施し、2026年は「3〜5回」の渡航を予定する層が増えている。特に年収150万元(約3300万円)以上の超富裕層(HNWI)では複数回渡航が一般化している。

▶︎2026年所得階層別の海外旅行頻度
グレー:中間所得層、青色:高所得者層、黄色:超富裕層

所得階層別の海外旅行頻度(2026年予定)

旅行スタイルや予約行動にも階層差がある。中間所得層は短距離旅行を中心にOTAで直前予約する傾向が強い。一方、高所得層は中距離・長期滞在が増え、あらゆる方法で情報収集を行う。さらに超富裕層は長距離旅行や16日以上の長期滞在を好み、専門アドバイザーを通じた手配、プレミアムサービスを重視するなど、よりパーソナライズされた旅行行動が特徴となっている。

 

高所得層ほどソロ旅行志向、観光型から目的型旅行へ

渡航回数の回復と共に、中国の海外旅行市場は「誰と行くのか」「何を目的とするのか」という旅の質へと重心が移行している。

同行者構成を見ると、高所得者層全体ではパートナーや友人との旅行が約6割を占めるが、所得が上がるほど一人旅行の比率が高まる。超富裕層(HNWI)では単独旅行が約35%に達し、子ども連れは2割弱にとどまる。家族旅行は依然として市場を支える一方、上位層ほど「自分主導で設計する旅」を志向している。

旅行動機にも階層差が明確に表れている。今回の調査対象者全体の結果では「レジャー・リラクゼーション」「自然景観」が主要目的であるが、超富裕層(HNWI)では「友人・親族訪問」「スポーツ・エンターテインメントイベント」「地域限定ショッピング」「ビジネス渡航」など、目的特化型の比重が高い。従来の観光型から「目的型」旅行への転換が進んでいる。

▶︎超富裕層(HNWI)の旅行目的
上から「友人・親族訪問を目的とした旅行」「スポーツ・エンターテインメントイベント参加」「地域限定の体験・ショッピング」「ビジネス目的の渡航」「自己成長・自己研鑽目的の旅行」
※TGI(Target Group Index)は、特定の項目が全体平均に対してどの程度強いかを示す指数(100が平均)。図では平均以上の項目のみを表示している

超富裕層(HNWI)の旅行目的

 

安全は前提条件、差別化は体験設計へ

目的地選定で最も影響力が高いのは「安全保証」「観光資源の豊富さ」「衛生環境」。ただし、安全は競争優位ではなく“最低条件”である点が重要だ。

そのうえで、「独自文化体験」「交通利便性」「SNS上での話題性」などが意思決定を後押しする。つまり、安全性を満たした上で、いかに「没入できる体験」を設計できるかが差別化要因となる。

特に超富裕層(HNWI)では、招待制イベントやブランドコラボ、工場見学などの限定体験への評価が高い。また、入国支援やビザサポートなどのワンストップ高付加価値サービスに対する支払い意欲も強い。価格よりも「希少性」「安心」「手間削減」に価値を見出す傾向が強い。

 

最大の障壁は価格ではなく、情報不足とサービスの不透明さ

一方で、海外支出を抑制する要因として浮上したのは、価格そのものではなく情報不足とサービスの不透明さだ。

ビザ手続きの複雑さ、現地サービス品質のばらつき、追加費用の不明確さ、誇張されたオンライン情報、医療体制への不安などが、特に超富裕層(HNWI)の慎重な姿勢につながっている。

高価格帯市場において重要なのは値引きではなく、透明性の高さと信頼性の確保とされる。明確な料金体系、信頼できる安全情報、質の担保されたサービス設計が、消費拡大の前提条件となる。

 

【編集部コメント】

中国高所得層アウトバウンドは「体験価値競争」の時代へ

中国の高所得層アウトバウンド市場は、量的回復の段階を終え、旅行目的や体験価値を重視する成熟市場へ移行している。安全性や利便性を前提に、独自体験や高付加価値サービスをいかに提供できるかが、今後の競争力を左右する重要な要素となりそうだ。

 

(出典:EternityX/MoonFox,Powering 2026 Affluent China Outbound Travel: What Comes Next for Brands )

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