インタビュー
富裕旅行市場向け商談会として、2008年より世界規模で開催されている「Pure(ピュア)」のアジア版として、昨年よりスタートした「Further East(ファーザー・イースト)」。11月11日〜14日にインドネシアのバリで初めて開催された。アジアのコンテンツを扱うバイヤー、セラーが世界中から参加した商談会の様子を日本政府観光局(JNTO)・市場横断プロモーション部の小林大祐氏に伺った。
体験型に特化した富裕旅行市場向け商談会
—アジアエリアにフォーカスした富裕旅行市場向け商談会ということですが、同じく富裕旅行向けとして実施されているILTMなどと比べ、どのような特徴があるのでしょうか。
近年、富裕旅行市場が質的に変遷しており、物質的なラグジュアリーから精神的なラグジュアリーを求める傾向が高まってきています。Further Eastは、そのようなトレンドの変化に対応すべく、新しい富裕旅行商談会として、“精神的な豊かさにより繋がる特別な体験型コンテンツに特化した商談会”という位置づけです。
商談会は「体験型に特化」というコンセプトを、イベント運営側も強く意識しており、会場内には一般的なスタイルのアポイント制商談会の他、例えばプールサイドや海辺に面したソファなど、会場内のいたるところで自由に、カジュアルに、より自然なかたちでのネットワーキングを醸成させることを意識した運営になっていました。
—世界から何社ぐらいが集まり、日本からはどのような顔ぶれが参加したのでしょうか。
バイヤー側として、上記のような観点の体験型コンテンツを求める旅行会社、トラベルコンシェルジュ等が世界中から約210社、セラー側としてはアジア・パシフィック圏から約150社が集まりました。
日本からはホテルと旅行会社を中心に15社のセラーが参加しました。ホテルは「旅館くらしき」や「季譜の里」、「サンカラホテル&スパ屋久島」などの独自ブランドの個性的な宿泊施設が参加。旅行会社は小規模ながら完全に富裕層に特化した旅行提案やオペレーションを行っている企業が参加していました。
—今回のイベントには、日本だけが唯一、国として参加したということですが、それはどう実現させたのでしょうか。
富裕旅行市場への取り組みの拡大と発展に向け、JNTOでは市場調査を実施、グローバルで開催されている各種商談会のリサーチもしていました。そのような動きの中で認識していた、富裕旅行市場の新しいトレンド変化として体験型コンテンツを好むことと、Further Eastのコンセプトが合致することから、参加に向けて1年前から交渉を行っていました。当初はプレイヤーのみの参加可という条件でしたが、JNTOとして日本各地の魅力ある富裕層向けの体験型コンテンツの具体的な情報発信が可能であると伝えることで、今回唯一、国として特別に参加することができました。
JNTOでは、これまでのイベントでは漠然と日本のイメージを紹介をする場合が多かったのですが、最近実施している具体的な観光コンテンツを収集・発信するという取り組み(後述の「100 Experience」や、富裕層向けコンテンツを選りすぐった「Luxury Japan」というウェブサイトと冊子等の制作)と、主催者への働きかけが実った形です。
主催者としても、Further Eastがアジアにフォーカスした商談会であることから、今注目が高まっているJapanが参加することでイベント全体のプレゼンスが上がるという判断もあったではないかと推察しています。
富裕層のニーズは二極化
—JNTOの日本ブースに来た方は、どんな情報を求める方が多かったのでしょうか。
欧米豪、アジアの幅広い市場から商談会参加のリクエストが入ってきました。ニーズとしては二極化しており、1つは、東京や京都のような既に知られている都市における、まだ知られていない特別なコンテンツ情報を求める方。もう1つの流れは東京や京都以外の地域の新しいコンテンツ情報を求める方、というニーズの傾向がありました。いずれも共通して言えるのは、「まだ知られていない」「一般旅行者では体験できない」「その土地ならではの特別な経験ができるところ」というものでした。
—JNTOで作った日本全国で体験できるコンテンツをまとめた「100 Experience」や、富裕旅行者向けコンテンツだけを選んだ「Luxury Japan」という冊子とサイトがありますが、そちらへの反響はいかがでしたでしょうか。どんなコンテンツへの人気があったのでしょうか。
「100 Experience」「Luxury Japan」の冊子やサイトは、いずれも反響は非常に大きく、口を揃えて素晴らしいと好評でした。今回メディアやバイヤーとの会話に度々登場したキーワードとして印象だったのは「Forest Bathing(森林浴)」という言葉でした。自然と共存する日本人ならではの楽しみ方とForest Bathingは近いものがあります。
個別のコンテンツとしては屋久島の大自然や出羽三山、熊野古道など既に知名度が高いものですが評判が良く、大自然の中に位置する鹿児島の「天空の森ホテル」や竹林の中に離れが点在する熊本の「温泉旅館・竹ふえ」等への反応が多かったです。
世界から求められる、その地域ならではの具体的な情報提供
—世界の富裕層対応をしている企業から高評価だったものには、どんな特徴があるでしょうか。
やはり“日本ならではの文化や自然”という切り口への興味関心が高くありました。その上で特徴的だったのは、具体性が必須であること。JNTOでも、これまでは漠然と“日本文化”、“日本の自然”をPRしてきましたが、今回はより具体的に「その地域ならではの独特な地形と気候、文化が織りなす自然を、クライアントはどのようにして特別な体験として楽しむことができるのか」という情報提供を行いました。
具体的なコンテンツを見ながら説明することではじめて、バイヤーやメディアの人々に滞在のかたちをリアルに想起させることができることを実感。強い興味関心を促すことができたと手応えを感じました。
高い質と特別な対応=通常の観光とは何が違うのか、どう特別で何が提供できるのか、その具体性が非常に重要です。
富裕旅行向けコンテンツに必要な7つの指標
—富裕旅行者に向けた日本の対応として、求められているものは。日本が改善していかねばならぬと感じたことなどありましたら教えてください。
観光資源、観光コンテンツそのものの魅力は必須ですが、それだけでは不十分であることを強く感じました。JNTOでは過去の調査結果から、富裕旅行向けコンテンツの磨き上げに際し、下の表にある3つの軸「コアバリュー」「バリュー提供の工夫」「商品性」があり、さらにその中には7つの指標①〜⑦があると提言しています。7つの指標すべてを必ずしも満たさなければならないという訳ではありませんが、より多くの指標をより高いレベルで満たしていればいるほど、富裕旅行者により訴求するコンテンツになり得るということが、今回の商談を通じて改めて確認できました。
◆富裕旅行向けコンテンツの評価ポイント
また、3つの軸の中でより重要なポイントになると感じたのは、「バリュー提供の工夫」です。その道のプロ・エキスパートからの説明や手ほどき、そして貸し切り対応や時間外オープン、普段は見れない場所への入場、できないことの体験等の融通の利く体制など。バリュー提供が可能であることが重要です。
—今後、JNTOでは富裕層マーケットに向け、どのようなことを実施していく予定でしょうか。事業者に求めることもお知らせください。
JNTOは海外マーケットに対して日本の観光魅力を発信する立場。これまでは、漠然としたデスティネーションの魅力を発信していればよかったのですが、訪日市場が成熟し、富裕旅行市場が進化・変遷している今、日本のブランドイメージの訴求だけでは足りず、具体的な観光地、観光コンテンツの情報発信が求められています。しかし、JNTOは観光コンテンツを有しておらず、それを持っているのは地域の自治体、各地の施設、コンテンツホルダーの皆さんです。皆さんがより魅力的なコンテンツを開発し、より富裕層向けに磨き上げていただいた観光コンテンツを、JNTOが世界に発信します。
逆に、魅力的なコンテンツなくしてプロモーションは成り立ちません。これからの訪日観光プロモーションに際しては、各地の事業者の皆さんとの連携は必須であり、その連携が相乗効果を生み、今後のさらなる富裕旅行マーケットの取り込み拡大につながっていくものであると考えています。
今回の参加で、富裕旅行先としての日本の注目度の高まりを強く感じました。富裕旅行市場において、日本がアジアの中のリーディングカントリーとなるべく、事業者の皆さんと密に連携して、今後も富裕旅行市場に向けたプロモーション活動を強化していきたいと考えています。どうぞよろしくお願いいたします。
—世界を飛びまわりご多忙な中、ありがとうございました。富裕層向けの一大イベントとして12月2日〜5日にカンヌで開催されるILTMの様子も、またぜひ伺わせてください。
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