インバウンドコラム
4月28日~5月1日にアラブ首長国連邦の首都ドバイで開催された中東地域最大規模の商談会「アラブ・トラベル・マーケット2019ドバイ(Arabian Travel Market 略称:ATM)」に、JNTOが日系企業11社と共に初めて参加した。今回はその様子をセミナー・レポートとして紹介する。
富裕層マーケットとして期待される中東諸国の旅行業者が集結
1994年より年1回開催されているATMは、中東地区の旅行業界において最大規模かつ最も権威のあるイベントの一つであり、UAE(アラブ首長国連邦)はもとより、近隣の中東諸国から有力な旅行業者が集うB to B の商談会である。150を越す国と地域から約2800社の団体が出展、約2万8000社のバイヤーが、砂漠の都市・ドバイに一堂に会する大規模なイベントとなっている。
富裕層旅行市場として大いに期待される中東地域での市場拡大を目指し、プロモーション活動を本格始動したJNTOは、その皮切りとして今回のATMに、宿泊施設や運輸事業者、DMC(ディステネーション・マネージメント・カンパニー)などの11社と共に合同出展した。
「親日家が多いというデータは掴んではいましたが、観光目的地としての日本にどれだけ興味を持ってもらえるか。日本が有する観光コンテンツが中東でアピールしうるのか。初めての出展のため不安な要素がいくつもありました」。JNTO市場横断プロモーション部・小林大祐氏は準備段階での心境を語ってくれた。
「日本旅行のニーズは高いがよくわからないので、パートナーが欲しい」
いざイベントがスタートしてみると、日本ブースは商談を求める中東の旅行会社の人々で連日ごった返すほどの大盛況で、4日間で約1400件の商談を実施。公式プレスカンファレンスでは47の現地主要メディアが集まった。「イベント後、数多くのメディアに取り上げていただくなど現地の日本への関心の高さを実感。当初の目論見と期待を大きく上回る大反響の出展でした」と小林氏は振り返る。
実際の商談会ではどのようなリクエストが中東の旅行社からあったのだろうか。
「日本旅行へのニーズは増えているが、中東では日本の情報がほとんどない」
「顧客からのリクエストはあるが、自分自身も日本のことがよく分からないので手配ができない」
「富裕層の扱いがわかっているパートナーが欲しい」
「広く浅く、富裕層のいろんな要望に柔軟に応えてくれるDMCを知りたい」
このような声が商談会に参加した現地旅行会社から、あがってきたという。
お金はある、時間もある、日本への親近感もある。
残るは、旅行の目的地へと押し上げるプロモーションと受け入れ体制
超富裕層という印象の強い中東だが、その市場規模はどのようなものなのだろうか。中東を牽引しているGCC加盟の6カ国(UAE、バーレーン、クウェート、オマーン、カタール、サウジアラビア)を合算した総人口は5500万人と規模は大きくない。そのため、今後どんなに中東からの観光客が増えても、訪日客数ランキングの上位に入ることは難しいだろう。
しかし経済力は非常に高い。新卒の給料が1000万円で、40歳、50歳で定年となり年金もたっぷり貰える。お金もある、時間もある。そのため海外旅行へも年に何度も出掛けて行く。これまで中東からの訪日旅行者の消費額平均は63万830円と、全体の平均を大きく上回っている。旅行には家族に加え、使用人も連れていく場合が多く、5〜10人で移動することになる。
中東と日本は、歴史的にも政治的にもこれまで複雑な関係になかったために、日本に対して親近感を抱いている。原爆を落とされ焼け野原になった大戦から70余年で独自の文化を保ちつつ復興した日本に対して、親和性や神秘性すら感じているという。また「キャプテン翼」などが繰り返し放送されていたこともあり、アニメを通じ日本に親近感を感じて育った人も多い。
桜のピンク、木々のグリーン、紅葉の赤、雪の白。砂漠気候のため、日本の彩り鮮やかな四季に強い憧れを抱いているという。世界的に人気の日本食レストランは中東にもあるが、新鮮な食材が入手しづらいこともあり、ぜひ本場で食べてみたいと思っているそうだ。
これまで彼らの旅行先は、中東域内および欧州諸国への旅行が中心となっているが、日本への興味関心は非常に高く、今後訪日数および訪日消費額増大に寄与する可能性は高い。とはいえ旅行会社から寄せられたコメントにもあるように、極東の国・日本は、彼らから見ると未知の国で、訪れたら何があるのか、どんなことができるのかもわかっていない。
「必要なのは、漠然とした”日本”への興味関心を、”観光目的地としての日本”に昇華させること」という小林氏の言葉が示すように、JNTOは今年3月に訪日旅行の誘客プロモーション活動を強化する「準重点市場」に中東を選定。2020年を目標にドバイでの新事務所開設を目指すことも発表しており、現地に根ざした訪日プロモーションを展開していくという。
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