インタビュー
世界的視野でインバウンドを捉える旅行業界の“変革者”
プロフィール
80年(株)インターナショナルツアーズ(現(株)エイチ・アイ・エス)を創業。96年 オーストラリアに「The Watermark Hotel Gold Coast」をオープン。同年、スカイマークエアラインズ(株)(現スカイマーク(株))を設立、会長に就任。99年 協立証券㈱(現エイチ・エス証券(株))の代表取締役に就任。03年にはAG銀行(現ハーンバンク)の会長、07年 澤田ホールディングス(株)の代表取締役社長、09年 (株)エイチ・アイ・エスの代表取締役会長、10年 ハウステンボス(株)代表取締役社長に就任。
- 目次
- 来るべきインバウンド復興期に睨み「上海-長崎」航路でクルーズ船を運行開始
- 現在はアジアの方々が海外旅行を楽しみはじめる”夜明け前”
- 必要なのは観光資源のクオリティアップとプロモーション&インフラ整備
来るべきインバウンド復興期に睨み「上海-長崎」航路でクルーズ船を運行開始
村山
本日は、よろしくお願いします。さて、震災後のハウステンボスの状況はいかがでしょうか。
澤田
弊社が運営する長崎「ハウステンボス」においても、震災発生後2ヵ月間については、海外から訪問客が激減しました。これまでの経験上、早くて3ヵ月間、たとえテロなどの大きな政治事件が勃発しても、おおよそ6ヵ月で客足が戻ってくると予測していたのですが、今回はちょっと長いようですね。現在、ようやく震災前の3~4割ほどの外国人観光客の方が戻ってきたという状況です。
しかし、この3ヵ月間は発想を転換し、日本のお客様に喜んでいただこうと、国内セールスに集中し、その結果、前年よりも集客数を伸ばすことに成功しました。
アジアの方々の中では、まだまだ日本に行きたいという気持ちが根強く存在しています。福島の原発問題が収束するであろう来年の初頭には、再び日本観光への関心が高まっていくとみています。
村山
会長が予想されるインバウンドの再興期に向け、御社ではどのようなご準備がされているのでしょうか。
澤田
すでに新聞等々で発表しているように、来年の1月後半から、「上海-長崎」間でクルーズ船の運行を開始します。これにより、長崎までのアクセスの悪さを改善すると同時に、船に乗った瞬間から楽しい旅が提供できる”エンターテインメント・ローコストシップ”という概念を打ち出していきます。
もちろん、段階を踏んでということですが、船内でMRIなどの検査ができる”医療観光”を網羅するなど、独自のアイディアを検討しています。将来的にはカジノのオープンも視野に入れるなど、そのエンターテイメント性の充実を図っていくつもりです。
飛行機に比べても輸送力があることで、今後、来るべきアジアの方々の旅行熱が高まってくる時代には、船が大いに役立つ時代がやってくると思っています。
村山
それは大変興味深い取り組みですね。
澤田
さらに、長崎に来ていただいてからの楽しみ方も積極的なカタチでご提案していきたいと考えています。
そのために現在でも着々と計画を進めているのが、「ハウステンボス」周辺にある温泉地や観光スポットとの連携。
焼き物で有名な有田や、有数の温泉地である雲仙、嬉野、平戸などの観光協会や関連機関とコラボレートしながら、各地の魅力をアピールしつつ、それぞれをリーズナブルに繋げる直行バスを用意しています。
アジアの方は温泉が好きですからね。ハウステンボスで一泊した後に、近隣の温泉を便利に回るとなれば、外国人観光客も喜ぶでしょうし、地域観光の活性化にも繋がるはずです。
現在はアジアの方々が海外旅行を楽しみはじめる”夜明け前”
村山
ワールドワイドに展開をされている御社においては、海外拠点を活用されたインバウンド対策にも注力をされているのではないでしょうか。
澤田
各国によって温度差はありますが、当社のタイ支店は、現地の方々の訪日旅行への関心の高さも影響してか、現地の旅行会社としてナンバーワンの規模と評価をいただいています。
元々は、日本からのチャーター便の帰路を有効活用し、席を埋めようという発想からスタートしたのですが、その取り組みが話題となり、タイの方々が日本に訪れる多くの機会を創出することとなりました。
このようにイン&アウトの両方を拡充していくという手法は、今後も他国の支店でも適用できるでしょうし、訪日観光だけにこだわることなく、例えばタイからバリ、バリからトルコという具合に、支店のある国と国を繋ぐという方法論もあります。
とにかく、海外支店をフレキシブルに活用しつつ、世界を相手に営業を進めていく必要があるということです。
村山
もはや”日本のHIS”という概念で留まってはいないということですね。
澤田
現在はちょうど、アジアの方々が海外旅行を楽しみはじめる”夜明け前”のような状況。所得は上がっていますし、インターネットの普及でこれだけたくさんの情報が入手できるようになっていますから。
日本の旅行産業が奮わないという状況に甘んじているだけでなく、海外で爆発しそうな需要に目を向けるべきでしょう。
そういった意味でも、日本を基準としたインバウンドのみならず、各国の支店を基軸としたインバウンドそれぞれの成功・失敗事例を共有しながら取り組んでいく必要があると考えています。
村山
HISグループが一丸となり、これまでの経験を活かしつつ、インバウンドに取り組むとなれば、それはかなりのインパクトを各国の旅行者に与えそうです。来年には大きく状況が動いていきそうですね。
澤田
アジアの方々の半数が動いたとして、約15億人もの人数になります。日本人の10倍ですからね。
彼らが日本に興味があったとしても、アクセス上の問題があって行くことができないとなったら、間違いなく他国へと流れていってしまいます。
先にお話した上海-長崎航路におけるクルーズ船運行開始は、そんな来るべき大量送客時代への準備ですし、ほかにも中国インバウンドに強い旅行会社と業務提携を進めるなど体制を整えているところです。
今は円高と震災後の影響により、一時的にインバウンドが停滞しているだけに過ぎないと捉え、あらゆる手を尽くし準備を進めておくべきだと考えています。
必要なのは観光資源のクオリティアップとプロモーション&インフラ整備
村山
澤田会長が考えられる、インバウンド成功のポイントを教えていただけますでしょうか。
澤田
日本は、せっかく素晴らしい歴史的建造物や美しい自然環境などの観光資源を有しているのも関わらず、観光地や街ごとの個性が感じられず、全体的なセンスが悪いように思えます。
例えばイタリアであれば、フィレンツェやベニスなど、それぞれ街ごとに雰囲気が違うし、それぞれにセンスが良い。街全体がトータルコーディネイトされている印象があります。
大切な観光資源のクオリティアップ、デザインアップを図り、それぞれの街がトータルとしての個性的な魅力を表現できるようになることが必要です。
それには、総合的なプロデュースのできる人材の存在が必要不可欠でしょう。何が足りないのかをしっかりマーケティングして、どこをどのように強化するのかコーディネイトできる力を持っている人の力が必要ですね。
村山
しかし、そのような人材を見つけ出すのは難しそうですね。
澤田
業界全体で意識して育成していく必要があるのではないでしょうか。これもひとつの課題ですね。しっかりと取り組んでいけば、これからのインバウンドはかなり成長が期待できる分野だと思っています。
しかし、ひとつひとつの段階を踏むことなく急激に増やしてしまうと、インフラやアクセス、サービスといったものが追いつかずに不足してしまう可能性が生じます。
村山
観光庁が提唱する”2019年に2500万人”という目標は、急すぎるということでしょうか。
澤田
もちろん、目標を設定するのは良いことですし、それを達成するために我々も全面的に協力をしていきたいと思っています。
しかし、せっかく日本に来てくれたのに、ホテルが足りない、飛行機が足りない、サービスが充分じゃないなどの理由で相手をがっかりさせてしまったら、恐らくもう二度とは来てくれませんよね。
その目標値のお客さんをスムーズに受け入れて満足してもらうためには、いま何をしなくてはならないか。
それをしっかり議論する必要があると思います。そしてなによりもまず、日本の良さを知ってもらうためのプロモーション活動が必要でしょう。
インターネットの活用、各国の旅行会社へのアプローチ、さらにはTVや映画などメディア戦略など、あらゆる手段を尽くして、正確で魅力的な情報を提供し続けることです。
村山
インバウンドの全面的な復興に向けて、我々がやるべきことは山積ですが、澤田会長のお話を聞いて、確実に光が見えてきたような気がします。
今日はお忙しい中ありがとうございました。今後も日本のインバウンド、ひいては観光業界全体を牽引し続けて下さい。
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