インバウンド特集レポート
市場が変わる兆し?
中国発クルーズ客船の受入を始めた2008年からすでに10年がたち、ようやくより良い方向に市場が変わる兆しが出てきたと語る声もある。
日本側でも、新しい動きはある。
たとえば、外国船による博多港発着の日本海側定点クルーズだ。これは日本海側の国内および韓国、そしてウラジオストクやサハリンなどの極東ロシアの寄港地を周遊するもので、2016年から始まっている。クルーズ市場を政治に影響されやすい「中国頼み」にするのではなく、国内客を取り込む取り組みだ。
寄港地観光の中身を変えようとする動きもある。2016年7月に福岡市郊外にオープンした「KISS福岡」は、九州各県の郷土料理が味わえる10店の飲食店が入った大型フードコートで、目玉は1日6回行われる日本舞踊のショーだ。
左:福岡KISSは民間レベルで中国のクルーズ客を迎え入れるために生まれた初めての施設といえる
右:クルーズ客は食事をしながら舞踊を楽しめる
現地を訪ねた日も、1日60台の中国クルーズ客を乗せたバスが入店した。オーナーは地元在住の中国系実業家で、飲食やショーの観劇だけでなく、マグロ解体ショーやすしづくり体験も行っている。「団体客にももっと日本を体験してほしい」というのが設立の目的だという。
昨年より国土交通省が進めていた「官民連携による国際クルーズ拠点形成計画」に国内6港(横浜港、清水港、佐世保港、八代港、本部港、平良港)が選定され、それぞれの特色を生かした寄港地形成の取り組みも始まっている。
FITクルーズ客のニーズとは
すでに見たとおり、船会社は中国のビジネスモデルにすっかり身を預けてしまった結果、これまでの数年間のように市場が拡大し続けることにも疑問を感じ始めているようだ。
それだけに「FITはいつ増えるのか?」という日本の港湾関係者の空気を読まないコメントに対して「ではあなたたちは中国のクルーズ客、そしてFITのニーズについて自ら知ろうとする努力をどれだけしてきましたか」。そう問いかけるパネリストもいた。
実際、そのような取り組みは日本ではほとんど行われているとは思えない。では、クルーズ客のFITのニーズに応えるためには何が求められているのだろうか。最後に会場で知り合ったひとりのクルーズ関係者の話をしたい。
その方は、日本を訪れるクルーズ客の寄港地観光に関するサービスを提供するクルーズポート・ナビゲーション(CPN)という旅行会社を立ち上げたヘザー・ホブキンズ・クレメントさんだ。
求められるのは、港から始まる日本案内
アメリカ出身の彼女は、大学院でジャパンスタディを専攻した後、プリンスクルーズの船上ツアーコンダクターとして主に北米客に日本の寄港地のレクチャーやガイドを行ってきた。
その後、独立し、ロサンゼルスにある同社の支社を小田原に設立した。
「クルーズ船で日本を訪れる北米客の多くが困っているのは、寄港地の情報がないこと。空港から市内へのアクセスの情報はあっても、港から市内へのアクセスが説明されている情報はない。そこで、弊社が提供しているのは、日本各地の寄港地観光アプリ。ポケットWi-Fiを必要とされている方が多いので、事前予約でレンタルサービスを始めている。地元の通訳案内士と提携したプライベートガイドの手配も行うことにした。その3つが彼らのニーズだからだ」
左:同社の制作したアプリ
右:レンタルWi-Fiサービス
100以上ものクルーズ受入港をもつ日本でできること
興味深いのは、日本には港から始まる観光案内がないという彼女の指摘だ。これはあくまでFITの多い北米クルーズ市場だからこそいえる話で、これまで述べてきた中国市場ではすぐに適用できないと思うかもしれない。だが、アプリを使った情報提供は、むしろ日本より中国のほうが進んでいる分野といえる。航空便による訪日中国客の多くが、団体であれ個人であれ、SNSを使った情報共有を進めていることはすでに知られているとおりだ。
クレメントさんは「日本は100以上ものクルーズ船受入港のあるユニークな国。こんなに多くの港がある国はない。たとえ、無名の港でも、情報さえあればクルーズ客は寄港地観光が楽しめる。そのために用意できることはたくさんあるはずだ」と語る。
寄港地観光を盛り上げるためには、彼女のように乗客に直接アクセスできるソフトな情報提供にもっと力を注ぐべきではないだろうか。
欧米で発展したクルーズ文化をいち早くアジアで取り入れた日本だが、市場はそれほど拡大しなかった。その後中国のクルーズ市場が急拡大し、東アジアにおいて主導権を握るに至っている。ただし、その市場は特異なもので、すでに調整期に入りつつある。リピーターを作ることが出来なかったからだ。
今後は、寄港地の市民と上陸客の交流が生まれるようなクルーズ旅行を目指すべきだ。港湾整備とともに、ソフト面でやるべきことはたくさんある。
Text:中村正人
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