インバウンド特集レポート
外国人旅行者の日本で消費増にもつながるとして注目を集めるナイトエンターテイメント。これまで、新宿で外国人に大人気のロボットレストランや、都内各所で実施されている飲み歩きツアーの様子を紹介してきた。最終回となる本編では、昨年12月に「食旅」をコンセプトとして新宿区荒木町にオープンした「Tadaima Japan新宿旅館」を紹介。宿を起点とした近隣施設との連携についてみていく。
個人経営の飲み屋が、ユニークな体験になる!
西荻窪は、個性的な個人経営の飲み屋が多く、そこが、井口氏が気に入った点だそう。以前は、港区に住んでいたが、わざわざ西荻窪まで飲みに通っていたという。またお店のマスターの個性も好きな点。2軒目のスナックは楽しい年配のマスター。更に常連さんたちがいて、いつも盛り上げてくれる。
参加人数は、5人に抑えているが、それは、大人数だと個人店には入りきらないからだ。もっとも大きいチェーン店なら入ることもできるが、それだと西荻窪である必然性がなくなってしまう。
ツアーに参加した外国人観光客の中には、気に入って翌日一人でそのお店に行ったという方もいる。それだけ、喜んでもらえたのだろう。
新宿のホテルに泊まっている人だけでなく、わざわざ、浅草や赤羽、品川など、都内でも遠隔地からやってくる外国人観光客も多い。客層は、欧米系が多いがアジア系も来る。また学生からファミリー、エンジニアの一人旅、医者や年配のカップルまで幅が広いのが特徴だ。
他ではできないローカルな体験を提供
井口氏が、このプログラムを実施してわかってきたことは、特に日本食にこだわる必要がないことだという。それよりも、他では体験できない環境が重要だ。「そもそも東京のレストランは、競争が激しい中で勝ち残っているので、不味い料理のお店を探すのが困難。西荻窪のような体験プログラムに参加する外国人は、美食よりもユニークな体験を求めてくる。とことんローカルなものこそ、彼らの求めていることなのだ。自分も世界を回ってきて、ローカルな体験が一番楽しかったのでこのような体験を提供しようと考えました」。
新宿や渋谷は、すでに海外でもよく知られている。しかし、西荻窪は、ほとんどの外国人が知らない。それをこのエアービーアンドビーというプラットホームを活用して、飲み歩き体験を組むことで、情報発信につながる。今後、エアービーアンドビーをインバウンドマーケティングツールとして地域ビジネスに活用できればと考え、西荻窪で実験中だという。
飲み屋街の新宿荒木町に宿がオープン!
近隣に個人経営の飲食店が密集することを強みにした、新しいスタイルの日本旅館が、新宿区荒木町にできた。
それは昨年12月にオープンした、「株式会社コムブレインズ」と「ただいまジャパン株式会社」による簡易宿泊施設、「Tadaima Japan 新宿旅館」だ。土間から続く小上がりの奥に畳の部屋、という純和風旅館の風情を、都心でリーズナブルに体験してもらう施設だ。
ここでは、近隣の飲食店との連携を強化している。
荒木町は、もともと2つの商店街があり、約350の飲食店がひしめきあっているが、ほとんどが個人経営の店で、チェーン店が少ないのも特徴である。
また、ミシュランの星がついている飲食店が4つか5つあると株式会社コムブレインズ取締役の那須氏。ユニークな飲み屋も多い。
例えば、サイエンスバーでは、ビーカーをグラスとして使い、実験をするようにフラスコの火であぶるメニューがある。また坊主バーでは、現役のお坊さんがお店にいて説教をしてくれる。またタイニーレストランといって、狭い一角を上手に使っているお店が数多くある。さらにモツ焼料理の専門店「のんき」など、価格帯がリーズナブルなお店もある。
地元商店会への加盟が、近隣飲食店との連携のきっかけに
Tadaima Japan 新宿旅館は、オープン前に荒木町商店会に加入したことで、近隣の店舗と知り合う機会が増えた。そういったなかで、外国人OKのウエルカム店と連携し、積極的に送客するようになった。飲食店の英語メニューづくりのサポートもしていると那須氏。さらに4月には荒木町の飲食街歩きマップも作成予定だ。
また宿泊施設のフロントには、近隣のおすすめ飲食店をファイルした冊子が置いてあり、ページごとに英語での案内がある。写真を多めに使い、食べるものがイメージできるよう工夫されている。
夕方、出かけようとしているお客さんに声掛けして、レストラン情報を提供するように心がけている。何が食べたいのか、カウンセリングをするように、そのファイルをめくりながら案内する。
場合によっては、スタッフがお客さんを実際にお店まで案内することもあり、特に人気なのは、お寿司、焼肉、お好み焼き、とんかつ、割烹などだ。
口コミを通じて宿の特徴が明確に
より深く街を楽しんでいただくために、現在、旅館のスタッフが荒木町ナイトツアー、はしご酒も計画している。また、近くのお寿司屋さんが店舗で実施する「寿司にぎり体験」も積極的に案内している。より日本食に興味を持ってもらえるような取り組みだ。
ここ最近、予約サイトのレビューが増えてきたおかげか、宿の客層とのマッチングがうまくいっていると那須氏。口コミを通して宿が特徴づけられてきたのだ。近隣には多くの飲食店があるとの書き込みがあり、それによって、グルメなお客さんが増えている。
建物には、和のテイストをしっかりと打ち出し、入口にはのれん、浮世絵を飾り、畳体験もできる茶室のような個室になっている。近年快適性よりも和文化体験の経験を重視する外国人観光客が増え、そのような日本の文化体験を求めている人は、日本食に対する興味が高いこともわかってきたと担当の服部さん。
食と地域を結び、インバウンドの可能性を探る
この地は、もともと寺町だったことや、由緒ある神社仏閣が残っていて、ここに泊まることそのものが和文化体験であるとして、それを求める客層が増えてきた。結果として、それが近隣の飲食店への送客につながっていったのだ。
もしも普通の2段ベッドが並ぶゲストハウスだったならば、安さ重視の客層のため、せっかくこだわりある飲食店の多い荒木町の良さとのミスマッチがおきていたかもしれない。
コムブレインズは、もともと地域活性の仕事に関わっている。「そこで、我々としては、ここで実体験を積んで、今後は地方に対して提案できるようになりたい。今は、この荒木町でまちぐるみでトライをして、その経験値を蓄積して、地方に還元したい。」と担当の服部さん。
開業前、どのような宿にするか社内で議論が繰り返され、その結果コンセプトを「食旅」にしたという。今後は、荒木町から食旅というコンセプトを地方に展開する予定だ。
飲み歩きは、インバウンドにとって夜のエンターテインメントになり、飲み屋街を軸にした可能性が広がりを見せつつある。今後が楽しみだ。
Text:此松武彦
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