インバウンド特集レポート
旅行者が情報収集に使うのは、個人のブログやSNS、親族・友人、旅行会社や宿泊施設のホームページなど様々ある。観光庁が発表した2017年の訪日外国人動向調査によると、「出発前に得た旅行情報源で役に立ったもの」の中で最も多かったのは個人のブログで31.2%。それに対し、旅行ガイドブックをあげた人は14.6%。遡って2010年の調査では前者が19.9%で後者が31.1%だった。数字的には逆転したが、インターネット全盛のこの時期にも、ある一定の層はまだ紙媒体の旅行ガイドブックを利用する人がいるということだ。欧米の旅行者はロンリープラネットやミシュラングリーン・ガイドなどガイドブックを使う人が多いが、今回はアジアの中から、香港と韓国の最近のガイドブックを覗いてみた。
活字好きの香港人
活字好きの香港人には今も変わらず、旅行情報を紙媒体で求める人も少なくない。その証拠に、毎年7月に行われるブックフェア(今年は7月18日〜24日)には100万人ほどが訪れる。統計によるとフェアでの一人当たりの消費額は813香港ドル(約1万1300円)で、そのうち29%の人が旅行ガイドブックを求めているという。また、日本の出展者のブースでパンフレットをもらうなどして情報を収集している姿もよく見かける。
ただし香港は書店の数は少ない。日本でも町の本屋さんは年々数を減らしているように思えるが、香港はさらに少なく、街頭で目にするのは新聞雑誌を売るキオスクタイプの店ばかり。大型書店は商務印書館のチェーンが20店舗ほどあるのみだったが、2012年に台湾で人気の誠品書店が初上陸し、2015年には尖沙咀のスターフェリー乗り場の正面のビルに2号店を設けた。ここは場所柄か大勢の人で賑わっているし、ビクトリア湾を眺めながら本を読めたりもするので、待ち合わせの場所としても、よく利用されている。

その売り場でもっとも目立つのが、旅行ガイドブック売り場に並んだ圧倒的な数の日本のガイドブック。リピーターが多い香港だけに、日本全般というよりも、地域や都市に特化したものもがほとんど。中には『東京無料100』というタイトルで、東京の住人ですら気がつかないような無料の施設が100カ所紹介されているようなニッチな本まであった。こちらは台湾オリジナルだが、香港と台湾は書き文字は同じ繁体字を使うので、台湾で出版された本は香港で問題なく売れるし、その逆もまた然りとなっている。
その中の一冊、『箱根・伊豆・軽井沢・熱海達人天書』のページをめくっていくと、編集部のおすすめモデルコースがいくつか紹介されている。そのモデルコースの中には、東京にはあえて宿泊せずに、1泊目と最終日に小江戸との別名を持つ川越に宿泊する「6泊7日の東京近郊温泉巡り」というコースが掲載されている。
訪日客は川越市を目指す
埼玉県川越市によると、2017年に同市を訪れた観光客は、雨の影響で祭りの人出が減ったこともあり前年を約41万人下回る662万8000人だった。ところが、外国人観光客は前年から15%増の19万7000人。特に、台湾や中国、香港、タイなどからの訪問が目立ったという。

都心から30kmの川越市は、2012年に観光庁の『訪日外国人旅行者の受入環境整備事業の地方拠点』に選定されたことをきっかけに、公益社団法人小江戸川越観光協会のホームページを多言語にリニューアル。また、東京オリンピックのゴルフ競技の会場予定地になったのを受け、街歩きマップを9言語に増やしたり、Wifiスポットを増設したりと、積極的にインバウンド施策を行ってきた。
土蔵造りの商家が軒を連ねる一番街商店街では、人力車が行き交い、レンタル着物に身を包んだ外国人客が散策する姿も目にする。特に、東京から電車で1時間前後というアクセスの良さから、日帰りで訪れる人も多く、訪日客数は右肩上がりで増加している。

川越市観光課の担当者によれば、「訪れる外国人客の数は4年で4倍以上に増えている。東京からのアクセスのよさと古き良き江戸の街並みを味わえるからと、個人の旅行者が多い」ということだ。海外へのアピールは、埼玉県と川越に乗り入れているJR、東武、西武の鉄道3社が現地の旅行博などで行なっているという。
見どころたっぷりのルート
それではここで、香港のガイドブックがお薦めする「6泊7日の東京近郊温泉巡り」のルートを見てみよう。

この充実ぶりはどうだろう。東京に長年住む日本人ならば、川越には日帰り、軽井沢、草津、伊香保などへは1、2泊での短い日程での旅行を繰り返すのだろう。せっかくの日本旅行ということで見どころが1週間の旅程にぎっしり詰まったルートとなっている。このガイドブックでは、後半のページで川越市を20ページにわたって紹介するなど、訪問先の詳細な説明も掲載。他にもツアー例として5泊6日の熱海伊豆、3泊4日の千葉県周遊や河口湖と箱根なども紹介している。

左は『東京無料100』、右は『箱根・伊豆・軽井沢・熱海達人天書』の川越を紹介したページ
このガイドブックのシリーズには、外国人誘致に成功している城崎温泉がタイトルに入っている『琵琶湖・京都府・城崎達人天書』もある。城崎は欧米豪をメインターゲットに2011年からの5年間で宿泊者数を40倍に伸ばした実績をもち、単独で名前が載るほど知名度が高いことがわかる。浴衣姿の訪日客が外湯めぐりをする姿でも有名だ。
おしゃれな韓国のガイドブック
昨年の訪日客数は前年度比40.3%という大きな伸び率で、中国に匹敵するほどの数の人が日本を訪れた韓国。日本よりもネット社会としては先じんている韓国だが、信頼性の高い情報を求める人には、ガイドブックの需要もまだまだ大きい。

今回取り上げたガイドブックは、『쉬운 도쿄 여행 이지도쿄(「気軽な東京旅行」の意)』。香港と同様にリピーター率の高い韓国だけあって、もはやありきたりの情報ではつまらない。まずは、夜景ポイント、高層ビルからの風景、横丁ツアー、高架下ツアー、東京の代表的な祭、アニメキャラ、ラーメン、日本食、スイーツなどのカテゴリーで紹介し、続いてエリアごとにおすすめルート、さらにエリアごとのショップやカフェ、見どころについての詳細な解説を掲載。辞書のような厚さだが、余白を多用したクールな紙面作りで、持っているだけでオシャレに見えるのが韓国人に好評だという。
香港、韓国に限らず、各国で発売されているガイドブックには、その国の旅行スタイルのトレンドを見ることができる。ターゲットを知ることはインバウンドビジネスを進める上の一助になるので、機会があればぜひ手にとっていただければと思う。
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