インバウンド特集レポート

インバウンドには、データに基づくマーケティング戦略が欠かせない

2018.06.06

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インバウンド業界では、ビッグデータ等、数値を用いたマーケティング戦略に舵を切っている。それは、訪日外国人の旅行スタイルが、年々変化していることに起因する。かつては、団体旅行が個人旅行よりも主流だったので、団体ツアーを手配する旅行会社に、どの時期にどんなコースが人気か、どこからの国が多いのか等、ヒアリング調査すれば、訪日観光の状況が即座にわかった。しかし昨今、個人旅行が多くなってくるにつれ、実態が掴みづらくなってきた。
そこで数年前から始まっているのが、モバイルデータやアプリのデータなどの動向調査、さらにwebサイトのアクセスによるニーズの掘り起しだ。小売店も免税売上をデータ化して、売上げアップのヒントにしようと取り組んでいる。
昨年、首相官邸では、観光におけるデジタルマーケティング推進への指針を示した。観光立国に向けたデジタルマーケティングへの取り組みをレポートする。

 

国はデジタルマーケティングへの予算を確保

日本政府観光局(JNTO)は、昨年の秋にデジタルマーケティング室を開設した。観光に知見があり、かつデジタルマーケティングの実務経験がある人材を外部に求め、約10人が集結した。この組織を統括する室長の吉田憲司氏は、新卒でJTBに入社し、その後CCI(サイバー・コミュニケーションズ)に在籍していた。

この部署が立ち上がった背景には、もともと、政府の提言である「観光戦略実行推進タスクフォース」がある。観光業界はデータに基づく科学的なマーケティングができていないという課題が上がっていたからだ。それに応える形で、新しい取り組みがJNTO内で始まった。デジタルマーケティング専任部署の新設、ICT(情報通信技術)人材の配置、ICT専門人材の中途採用があった。Webサイトの検索データなどを解析し、潜在需要をきめ細かく把握する仕組みの活用や、潜在需要に対し効果的に訪日意欲をかきたてるICTによるプロモーションの展開を目指すという。

政府の提言だけではなく、実際に観光市場がIT化の流れが進んでいて、このタイミングで手を打たないと手遅れにさえなりかねない状況だった。現代の潮流は、台頭するミレニアル世代の新しい旅行トレンドが出現し、例えばモバイルブッキング、OTAの活用、民泊(現地に溶け込むような旅)、チャットの活用など、観光を取り巻く状況は激しく変化している。

 

オールジャパンとして広くデータの収集と共有へ

この部署が、今後進めることは、大きく分けて4つあるという。

1)情報発信基盤の整備

データ収集する以前に良質なコンテンツが揃わないと、有益な分析ができない。そのため、webサイトは、従来の富士山、桜、寺社仏閣といった典型的なイメージに加え、アウトドアアクティビティや自然など、訪日意欲をかきたてる多様なコンテンツの発信を強化した。またwebサイトの制作において日本語オリジナル原稿を外国語翻訳にする方式から、プロの外国人ライターの自国語書き下ろしで制作する方式へ切り替えも図った。旅行者目線を徹底し、わかりやすくするための全面改善を行ったのだ。

2)データの収集

JNTOのウェブサイトやスマホ向けアプリの訪問者データを一元的に収集、蓄積して、さらに外部のビッグデータ保有事業者や訪日旅行関連消費に係る事業者との連携で、データの質と量の拡充を図る。これまで同業他社だと情報交換がしづらかったが、JNTOがオールジャパンの名の下、データを共有して次の戦略に生かすことも可能になる。また、現在のJNTOのwebサイトは、15言語対応の21サイトを運営し、市場ごとにサーバーを置き、海外事務所ごとにデータ収集管理を委ねていたのを本部で集約していくことも検討している。

3)データの分析

JNTOのwebサイトやSNSにおいて定常的なデータ分析を行い、ユーザーの属性や興味関心等を的確に把握する「個別分析」を行う。一方、本部に一元的なデータを集約することで「全体分析」も行える。これまでは、市場毎にプロモーションを実施し、分析を行っていたが、専門部署の設立により横串化され、体系的なデータ分析が可能となる。今後、この分析結果や成功事例を地方自治体や観光協会等、JNTO内外に展開し、情報共有を進める予定だ。

4)データの活用

各プロモーションの効果の定量的把握や次回事業実施に向けての改善点の検討が可能となり、キャンペーンの最適化が図れるようになる。またJNTOのwebサイトやSNSへのコンテンツへも反映させていける。

以上の4つを継続的にループさせ、より効果的な観光戦略を練り上げていく。

 

サイト改善によって良質なデータが集まりつつある

デジタルマーケティング室が開設され、現状は、1つ目の「情報発信基盤の整備」に訴求ポイントを置いたフェーズだ。

公的機関ということもあり、SEO的には検索順位は上位にランクされているものの、文章が教科書的、写真が古い、スマホ対応が立ち遅れているなど、基本的なことの再構築を進めている。結果、webサイト回遊率があがり、滞在時間も増えているようだ。分析するための良質なデータ収集が進んでいる。

「JNTOの立ち位置は、以前と変わらず、海外において旅行目的地としての日本の認知度を高め、訪日需要を喚起することです。同時に、日本各地の魅力や現地のお店、ツアーなど、細かい観光素材を旅行者へ提供することも重要です。集まったデータをオールジャパンとして外部とも共有することで、各地方自治体や民間の観光事業者等の情報発信へ役立てて欲しい」と吉田氏は抱負を語る。また、2018年度中には、データを分析して、4つ目の「データの活用」に向けた方針まで打ち出したいと意欲を述べていた。

(次号へ続く)

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