インバウンド特集レポート
「訪日外国人旅行者の地方への伸びが著しい」と言われる中に、事例として紹介されることが多い佐賀県。受入環境の整備などを着々とすすめてきた佐賀県では、2018年3月から来年の1月14日まで、『肥前さが幕末維新博覧会』が開催されている。もちろん、インバウンドがメインではないが、そこには外国人にも伝わる魅力とポイントがあった。
2017年の外国人宿泊者伸び率全国第3位
佐賀県といえば、誘致したタイの映画やドラマのヒットにより「実は外国人に人気のスポット」として有名に。タイ語ほか6カ国語のおみくじがある鹿島市の祐徳稲荷神社では、周辺で着付けてもらった着物をまとい歩く外国人の姿もみられる、
実際に2017年の佐賀県への外国人宿泊者数は約38万人。前年からの伸び率51.9%は青森県、大分県についで全国3位となっている。
この伸びは単なるブームによるものでなく、九州佐賀国際空港への路線誘致、2014年からタイ語もある多言語の観光アプリや24時間コールセンターなど、受入環境の整備も地道に行ってきたことに裏打ちされている。
「明治維新150年」歴史をテーマにした博覧会
平成30年は明治維新から150年にあたる。明治維新の立役者は「薩長土肥」といわれるが、現在開催されている博覧会『肥前さが幕末維新博覧会』では「肥前=佐賀藩」は当時国内最先端の最新技術を有し、維新の鍵を握り、いかに未来を見据えていたかというシンプルなメッセージが全体を貫いている。
特に幕末期の佐賀藩主・鍋島直正が推進した技術改革(西洋式の鉄砲大砲を鋳造するための反射炉、日本初の蒸気船、海軍養成)や、教育を重視する先見性にフォーカス。国内ではなく、世界と向き合うために日本に何が必要かをどのように直正が見極め、実行したかが端的に描かれている。また、大隈重信や江藤新平など佐賀出身の賢人を「弘道館」という藩校でいかに育てたかも体感できる。
これらを佐賀市内のメイン会場をはじめ、唐津や鳥栖のサテライト館など全16会場で紹介している。
英語の解説、直感的にわかる展示
ここまでの概要でおわかりかと思うが、日本人であっても「歴史、明治維新」というテーマは誰もがわかりやすく、共感できる内容ではない。ましてや外国人ならなおさらである。だが、この博覧会では映像で分かりやすく体感でき、体験型も多いため直感的に楽しめる。また、解説や注意などはアイコンと日本語、英語でミニマムに付けられている。つまり、老若男女、国籍に問わずいろんな人が共感できる構成になっている。
メイン会場となる幕末維新記念館の「体感シアター」では、アニメーションで150年前の当時へと、来場者を誘う。外国人旅行者は英語の字幕で楽しめる。からくり劇場「技」では、生のパフォーマンスとデジタル映像をショー感覚で楽しめる。
佐賀市柳町は長崎街道沿いに明治や大正期の建造物が立ち並び、風情あふれるエリア。その中の旧古賀家を会場にした「リアル弘道館」では、佐賀藩が改革を行う優れた人材育成を目指した藩校の様子を体験できる。
「葉隠みらい館」では、現在も世界中で読まれている、300年前に佐賀藩の武士としての心得をまとめた書籍「葉隠」の言葉を体感できる。浮かんでは消えるメッセージには現在を生きるヒントが隠されていて、英語でも表現されている。華道や書道といった武士のたしなみをデジタル映像技術でトライでき、外国人でも簡単に楽しめる。
佐賀のみどころを再認識する機会に
博覧会の入場者数は8月11日に当初の目標であった100万人を突破、当初の予想を大きく上回る形となった。そのうち4%程度は外国人旅行者というが、先に紹介した3館は有料であり(3館共通館1,200円)、佐賀城本丸歴史館など無料のスポットに、外国人旅行者は多く足を運んでいる傾向にあるという。
「あなたが一生行くことがないだろうと思う都道府県は?」で1位に選ばれたこともあり(学生向け就職情報誌 フレッシャーズ調べ 2015年)、全国的に認知が低い印象の強い佐賀県。現在、開催されている博覧会を観る+まちを散策することで、市民も旅行者も佐賀の誇れる文化や魅力を改めて感じることができる仕組みが用意されている。
佐賀県全体を使って、既存の施設を活かしながら、国内トップレベルの上質な展示が行われているが、特に佐賀市内では、徒歩で散策するのに気持ちのいいスポットがたくさん発見できる。佐賀とオランダのコラボプロジェクトを展示した「オランダハウス」横の水路、県庁がある濠の風景からメインの「幕末維新記念館」横の図書館や緑のある風景、旧家が並ぶ柳町、佐賀城本丸歴史館など。その間におしゃれなカフェや雑貨ショップ、古民家などがあり、ゆったりとした時間を楽しむことができる。昔ながらの風情が残る、日本らしい街並みは外国人観光客であればなおさら楽しく感じられると思う(どうして?)
「何もないのではなく、今ある魅力を」気づかせてくれるきっかけになっている。
人の情熱が人を呼びこむ
この博覧会の事務局次長である田中裕之さんに順調な発進のポイントをきいてみた。田中さんには、2016年のやまとごころのフォーラムで「タイ人観光客急増の理由」を講演いただいた(当時 文化・スポーツ交流局 副局長)。
「博覧会スタートまで正味10ヵ月という短い期間でしたが、自分でも古文書を古本屋から購入して熟読、地元の歴史家とコンセプトを徹底的に検討しました。展示アドバイザーの洪恒夫さん(東京大学総合研究博物館 特任教授)とは、2005年の愛知万博の国際赤十字・赤新月館を手がけられた方ですが、県庁で以前“文化”を担当していたこともあって、そこでできたネットワークを使うことで、生み出されたものもたくさんあります。展示ができあがるまでは、担当者と喧々諤々話し合いましたよ。来場したみなさんの心に届く見せ方には特に苦心しました。
外国人の方にももっとみてもらいたいです。インバウンドでは自分が関わったフィルム・コミッションのタイ映画・ドラマ誘致も功奏し、のびていますが、まだまだです。佐賀の水辺や水路など今あるコンテンツで活かせるものもたくさんありますから、活性化していきたいと考えています」と博覧会のみならず次から次へとアイデアが生まれてくる。
「自分たちの住んでいる佐賀は素晴らしい」という意識は、会場スタッフや住民にも伝播し、街中が博覧会で盛り上がっている。外国人にも笑顔で対応している。10月20日には、時代行列や踊りが盛り込まれた新しい祭り「さが維新まつり」も開催される。また、秋からは世界で活躍する佐賀県出身の現代アーティストの展覧会も佐賀県立美術館(※1)で開催されるなど、アートでも博覧会に花をそえる。一人ひとりの情熱が集まって、さらにその地域が魅力的になる好例を佐賀にみることができるのではないだろうか。
※1
①三人展—明日への眼差しー 9月30日〜11月18日
池田学、葉山有樹、八谷和彦
②吉岡徳仁ガラスの茶室—光庵 11月28日〜2019年2月11日
吉岡徳仁はIssey Miyakeをはじめ、Cartier、Swarovski、Louis Vuitton、Hermès、Toyotaなどと、コラボレーションを行い、作品は、ニューヨーク近代美術館(MoMA)やポンピドゥーセンター、ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館(V&A)など、世界の主要美術館に永久所蔵されている
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