インバウンド特集レポート
訪日外国人の増加にともない、キャッシュレス化推進の動きが各地で起きている。2019年7月、キャッシュレス先進国の中国を訪ねた筆者が現地で実際に体験した最新事情をお届けする。日本のインバウンドがそこから学べるものは何か。課題とともに考えてみたい。(執筆:中村正人)
キャッシュレス化推進の取り組みがようやく動き出し始めている。
2019年7月、経済産業省が立ち上げたキャッシュレス推進協議会は、従来のキャッシュレス決済比率40%の目標を2025年と前倒しし、産学官で推進していくという。福岡市では、6月29日から11月30日まで実施する実証実験の一環で、市内の博物館や動物園など公共施設でキャッシュレス化を導入。8月16日からはご当地名物の屋台でも「楽天ペイ」や「LINE Pay」、中国系の「アリペイ」などの導入が始まっている。
注目される中国系モバイル決済アプリ
一般にキャッシュレスには、クレジットカード(後払い)、デビットカードやQRコードを利用した決済(即時払い)、Suicaのような交通・流通系で電子マネーをポイント化するプリペイドカード(前払い)がある。
なかでも注目されているのは、訪日客数や日本国内での消費額の多い中国で普及しているモバイル決済アプリの「WeChat Pay」や「アリペイ」だ。これらはQRコードを利用した決済である。
筆者は7月、中国の地方都市をいくつか訪問する機会があり、実際に現地で「WeChat Pay」や「アリペイ」を利用した。これらの決済サービスは、以前外国人は利用できなかったが、昨年頃から国際クレジットカードによる認証でアカウントを取得できるようになっている(ただし、日本国内では利用できない)。
中国のキャッシュレス化の現状やそれに連動した各種アプリサービスは、ひとりの外国人旅行者からみて、どんなところが優れているのか。またどこに課題があるのか。以下、検証してみたい。はたして日本のインバウンドはそこから何を学べるだろうか。
超便利で使えるTrip.com

▲中国旅行や出張に欠かせないTrip.com
最初に確認しておきたいことがある。確かにいま中国ではモバイル決済が広く普及しているが、中国の人たちの生活を大きく変えているのは、そのせいだけではない。スマホによる決済システムに連動したさまざまな生活サポートアプリが登場し、サービスを競い合っているからだ。
中国を旅行するなら、外国人であっても、それらを使わない手はない。なかでも役立つのが、中国のオンライン旅行大手Ctripが提供するTrip.comだ。これはCtripの国際版(日本語版、英語版などある)で、中国国内のホテルや航空券、鉄道の予約が簡単にでき、その場でモバイル決済できる。このアプリは日本で簡単に取得でき、クレジットカード決済になる。
国内線や高速鉄道の予約、チケット購入は、現地の旅行会社や駅の窓口でもできるが、友人・知人との食事や打ち合わせが長引き、直前まで何時の列車に乗ればいいか決められないことも多い。そういうとき、Trip.comを使えば、最速の便をスマホ予約できるので便利だ。
アプリ先進国ゆえのサービスのきめこまさも
こうした移動手段のお手軽スマホ予約・決済は中国ではいまや常識となっている。
ただし、外国人には不便な点もある。Trip.comで列車の予約と決済を済ませても、実際に中国で鉄道に乗るにはeチケットではなく、紙のチケットを入手しなければならない。中国の人たちは個人身分証を使えば、駅にあるチケット発券機で入手できるが、外国パスポートは対応していない。外国人はいまだに駅の窓口か町にある鉄道チケット売場に行かなければ発券できないのだ。
どんな国でも、最新のサービスを導入する際、自国民の利用を優先するのは当然だ。だが、Trip.comは外国人の利便性を高めるための次のようなサービスを開発している。
駅の窓口で予約したチケットを受け取る際、乗客はパスポートと予約番号を駅員に提示する必要があり、その前段階でスマホで決済すると、自動的にアプリに乗客の「出発地」「目的地」「予約番号」を表示したページが出てくる。乗客は窓口でパスポートとそのページを見せるだけなので、手続きが簡便になった。以前は、手書きのメモを作るなどの手間があったが、中国語の会話も必要なく、スムーズに発券できる。

▲「こちらを窓口の係員に提示してください」
中国の駅や窓口がどれだけ混雑しているかを知らないと、この機能のありがたみがわかりにくいかもしれないが、外国人にとってこのきめこまやかな配慮は、サービス提供者が利用者の実情をよく分析してこそできること。アプリサービス先進国ならではのものだと思う。
旅行者こそ便利なシェアサイクル
中国の都市部では、乗り捨て自由のシェアサイクルが普及し、市民の足となっている。料金も格安で、30分乗って1元(約16円)ほど。
最近では、上海などの大都市圏で過当競争による自転車の大量投入が問題となっているが、実をいうと、後発でシェアサイクルの始まった地方都市ではそこまで問題となっていない。自転車が適度に投入されているからだ(それで採算が合うかどうかは別の話。確かに中国では最近このサービスに関する否定的な見方も増えている)。
だとしても、シェアサイクルほど、旅行者にとって便利な足はない。本来、その土地に暮らす人たちではなく、よそから来た人たちのために制度設計すべきものだったかもしれない。
▲QRコードでスキャンして自転車の鍵を開けて利用する

▲GPSで自転車がどこにあるか地図上に表示される
日本人が中国でシェアサイクルを利用するのは意外に簡単だ。中国で最も普及しているオレンジ色の車体が目印のMobike(摩拝単車)のサービスが日本の一部の地域で始まっていることから、日本国内でアプリをダウンロードして登録すれば、中国でも使えるようになっている。
今回、筆者は瀋陽市でMobikeを利用したが、地下鉄駅から少し離れた場所に行くとき、重宝した。現地の友人と一緒に自転車で見知らぬ街を気ままに走るのも楽しかった。シェアサイクルは旅行者にこそ、便利でうれしいサービスであることを実感した。
次回は、なぜ中国でキャッシュレスが支持されているのかをレポートする。
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