インバウンド特集レポート
2019年9月20日のラグビーワールドカップ(RWC)開幕まであと1年。参加20チームのうち、11月に決定する敗者復活予選優勝チームを除いた、19チームの顔ぶれが揃った。プール戦(いわゆるグループリーグ)終了まで使用される59自治体52件の公認チームキャンプ地も内定している。
2019RWCのプール
A | アイルランド | B | ニュージーランド |
スコットランド | 南アフリカ | ||
日本 | イタリア | ||
ロシア | ナミビア | ||
サモア | 敗者復活予選勝者(*) | ||
C | イングランド | D | 豪州 |
フランス | ウェールズ | ||
アルゼンチン | ジョージア | ||
米国 | フィジー | ||
トンガ | ウルグアイ |
オリンピックやワールドカップなどの大きなスポーツイベントが開催されると、そのレガシーが話題になる。新たに建築された最新設備のスタジアムもあれば、高速道路整備などもその一つだ。さらには、ホストタウンやキャンプ地として選ばれた自治体がその後も様々な形で出場国との草の根国際交流を深めるという例もある。
草の根国際交流は重要なレガシー
2002年日韓ワールドカップでは、大分県日田郡の中津江村という人口1000人程度の小さな村が、カメルーン代表チームのキャンプ地として選ばれ、日本中の話題をさらったことがあった。代表チームの来日が遅れるなどのトラブルもあって連日報道されたからだ。一躍時の人となった坂本休村長には翌年、カメルーンから両国の友好に貢献したとして勲章が贈られ、スター選手のエムボマは引退表明後に中津江村でサッカー教室を開いた。
イタリアがキャンプを行った仙台では、2003年から2010年まで「仙台カップ国際ユースサッカー大会」を開催し、ユース世代の国際舞台を提供した。デヴィッド・ベッカム選手の人気がピークにあったイングランド代表は兵庫県淡路市でキャンプをおこなったが、その際の印象がよかったという理由で、2017年に韓国で行われたU−20(20歳以下)ワールドカップでも事前合宿地に選んでいる。
このように様々なエピソードがある中でも最も注目したいのが、現在に至るまでクロアチアとの友好関係が続いている新潟県十日町市だ。スポーツで国際交流を目指す自治体へ格好の手本となるだろう。
日韓ワールドカップが結んだ十日町市とクロアチアの友好
国内有数の豪雪地帯である十日町市は2002年の日韓ワールドカップの際に、「子どもたちに夢を与えたいと」と公認キャンプ地に立候補。誘致活動や代表団の視察を通して、当初はスペインとポーランドの代表チームから仮予約をもらった。ところが、組み合わせ抽選会で両チームともグループリーグを韓国で行うことになったため、誘致運動のすべてが無に帰するかと思われた。しかし、それからわずか3日後、スペイン、ポーランドの推薦もありクロアチア・サッカー協会の関係者がキャンプ地の当間高原リゾートベルナティオを初めて訪れ、ピッチや付帯施設を高く評価したのだ。5日後、二度目の視察で十日町市はクロアチアのキャンプ地に決まった。
14日間のキャンプ期間中は公開練習やサッカー教室が行われ、クロアチア独特の美しいプレーに魅了されるファンが日に日に増えていった。一方の代表チームも十日町市の心のこもったもてなしに感動し、「クロアチアチームが優勝するのは難しいかもしれない。しかし、ワールドカップにはもう一つの優勝がある。ホストとなってくれた十日町市の人々と友情を育み、素晴らしい思い出を残すことが、優勝にも値する大切なことだ」との言葉を残した。
以来、十日町市は、キャンプの行われたピッチをクロアチアピッチと命名し、クロアチアカップサッカーフェスティバルを開催するなど、毎年のようにクロアチア大使館関係者の出席のもと、交流を深めてきている。今年のワールドカップロシア大会に出場したクロアチア代表には、十日町市の小学生が千羽鶴を送り、決勝の日には市民ホールで行われたパブリックビューイングに市長をはじめ大勢の住民が集まって応援した。チームは惜しくも準優勝に終わったがその健闘ぶりは記憶に残るところだ。なお、十日町市は2020年東京オリンピック・パラリンピックのクロアチのホストタウンとしても登録されている。
アジア初開催のラグビーワールドカップ
さて、RWCに話を戻そう。今回、公認キャンプ地に選ばれた自治体は以下の表の通り。試合会場や移動に合わせて、各チームに複数の公認キャンプ地が設定されている。なお、試合会場のある北海道、岩手県、埼玉県、東京都、神奈川県、静岡県、愛知県、大阪府、兵庫県、福岡県、熊本県、大分県に加え、試合会場のない10県にも公認キャンプ地が設けられたこともあり、広域での盛り上がりも期待される。
RWC公認チームキャンプ地に内定した自治体 | ||
所在地 | 自治体 | チーム名 |
北海道 | 北海道・江別市 | 豪州 |
札幌市(3カ所) | イングランド、トンガ、フィジー | |
網走市 | フィジー | |
岩手県 | 岩手県・釜石市 | ウルグアイ、敗者復活予選勝者* |
岩手県・宮古市 | フィジー、ナミビア | |
盛岡市 | ナミビア | |
北上市 | ウルグアイ | |
山形県 | 山形県・山形市・天童市 | サモア |
福島県 | 福島県 | アルゼンチン |
埼玉県 | 埼玉県・熊谷市(2カ所) | ロシア、アルゼンチン、米国、トンガ、ジョージア、ウルグアイ、サモア |
さいたま市 | ロシア | |
千葉県 | 市原市 | アイルランド |
浦安市 | ニュージーランド、南アフリカ、豪州 | |
東京都 | 東京都(3カ所) | 日本、スコットランド、ニュージーランド、イングランド、フランス、アルゼンチン、豪州、ウェールズ |
武蔵野市 | ロシア | |
府中市 | イングランド、フランス | |
町田市 | ナミビア | |
神奈川県 | 横浜市 | アイルランド、スコットランド |
海老名市 | ロシア | |
山梨県 | 富士吉田市・富士河口湖町 | フランス |
静岡県 | 静岡市 | イタリア |
浜松市 | 日本、スコットランド | |
掛川市・磐田市 | アイルランド、ロシア、豪州 | |
御前崎市 | 南アフリカ、ジョージア | |
愛知県 | 名古屋市 | ジョージア、サモア |
一宮市 | ニュージーランド、南アフリカ | |
豊田市 | イタリア、ウェールズ、ナミビア | |
滋賀県 | 大津市 | ウェールズ、フィジー |
大阪府 | 大阪府・東大阪市 | アルゼンチン、トンガ、フィジー、ナミビア |
堺市 | イタリア、米国、トンガ、ジョージア | |
兵庫県 | 神戸市・兵庫県 | スコットランド、敗者復活予選勝者* |
神戸市 | アイルランド、南アフリカ、イングランド | |
淡路市・兵庫県、 | ロシア、サモア | |
和歌山県 | 和歌山県・上富田町 | ナミビア |
山口県 | 長門市 | 敗者復活予選(*) 勝者 |
福岡県 | 福岡県・福岡市 | イタリア、米国、サモア |
北九州市 | ウェールズ | |
春日市 | アイルランド、敗者復活予選勝者* | |
長崎県 | 長崎県・長崎市 | スコットランド |
長崎県・島原市 | トンガ | |
熊本県 | 熊本県・熊本市(2カ所) | フランス、トンガ、ウェールズ、ウルグアイ |
大分県 | 大分県・別府市 | 敗者復活予選勝者* |
別府市 | ニュージーランド、豪州、ウェールズ | |
大分市 | フィジー、ウルグアイ | |
宮崎県 | 宮崎県・宮崎市 | イングランド |
沖縄県 | 読谷村 | 米国 |
*敗者復活戦は2018年11月開催 |
フィジーの公認キャンプ地で、ラグビー日本代表チームの事前キャンプ地(応募した自治体の中から組織委員会が選定する公認キャンプ地と異なり、事前キャンプ地は自治体がチームと直接交渉できる)にも決まった網走市が、スポーツ合宿を受け入れたのは今からちょうど30年前の1988年だった。ソウル五輪の合宿でボートなど4競技が参加。同年7月には法政大学ラグビー部が合宿を行った。
それ以来、網走市は施設整備や受け入れ態勢の充実を図り、数多くの競技団体が合宿を行ってきた。特に、ラグビーオールジャパンから日本一の芝生と絶賛され、今年の7月、8月にも11団体776名が参加したラグビー合宿が行われるなど、いまでは「ラグビー合宿の聖地」と呼ばれている。水谷洋一市長は「今まで30年間ラグビー合宿を行ってきた評価が今回につながったと思っています」とコメントしている。
地域に利益をもたらす公認キャンプ地へ
世界ランク1位で大会3連覇を狙うニュージーランドと南アフリカ代表のキャンプ地に内定した愛知県一宮市は、中野正康市長が、「頂点を目指す両チームには、最高のパフォーマンスを引き出せる環境を提供してまいります。市民が世界のトップチームを間近に見ることができる機会などをとおして、ラグビーの普及やスポーツ振興への機運を高め、もっと元気な一宮市へとつながることを期待しています」して、地域の活性化にも期待した。
公認キャンプ地の発表に際し、ワールドラグビー会長ビル・ボーモント氏は、次にように語った。
「ラグビーワールドカップ2019日本大会は、日本の皆さんが大会に積極的に関わり、開催国としてチームやファンに格別なおもてなしができる一生に一度の機会となります。キャンプ地はチームが大会期間を過ごす上での要となる場所であり、故郷から遠く離れた第二の我が家となります。また、大会がより多くの人や地域と関わり、絆を深めていくきっかけにもなります。大会に向けて整備が進んだインフラは、地域にとって末永く利益をもたらすことでしょう」
スポーツをきっかけに国際交流を深める。それが各自治体に有形無形のレガシーを残していく。これこそがRWC公認キャンプ地、東京オリンピック・パラリンピックのホストタウンが目指すものとなる。
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