インバウンド特集レポート
2018年も残すところ、あと1カ月をきった。今年を振り返ると、多くの自然災害に見舞われた年だったと言える。順調に伸びていた訪日観光客数は、9月に対前年同月比ダウンと、5年8カ月ぶりの事態となったが、その原因は、自然災害だった。今回は、今年の自然災害を振り返る。そして、現場の生々しい声を拾いつつ、インバウンドにどう影響したのか、またどういった新しい取り組みをもたらしたのかをまとめた。
順調に伸びていた訪日客数が、5年8カ月ぶりに前年同月比を下回る事態に!
JNTO(日本政府観光局)が発表した2018 年 9 月の訪日外客数は、2017年9 月の228 万人を12万人下回る前年同月比5.3%減の216万人だった、と速報が駆け巡った。2013年1月以降、5年8カ月ぶりに前年同月比を下回ったのだ。
JNTOのレポートでは、台風21号や北海道胆振東部地震の影響によるという。それは、関西空港の閉鎖、さらに北海道胆振東部地震の影響による新千歳空港での航空便の欠航が発生し、結果として多くの旅行がキャンセルされた。なかでも訪日外客数の7割を占める東アジア市場においては、関西、北海道への訪問者も多く、これにより東アジア市場から両地域への訪日需要が停滞したことが、訪日外客数全体が前年同月を下回る一因となったと結論づけている。
確かに、各市場別を見ていくと、東南アジア市場や欧米市場は実は9月も伸びていて、オーストラリアでは約10%の伸びとなっている。
一方、東アジアは以下の通りだ。韓国は、前年同月比 13.9%減の 47万9700 人。中国は、前年同月比 3.8%減の 65万2700 人。台湾は、前年同月比 5.4%減の 32万9100 人。香港にいたっては、前年同月比23.8%減の12万6200人となった。
北海道の大地震と全道ブラックアウトによる観光業への損害
では、その9月に起きた自然災害について振り返ろう。まずは北海道胆振東部地震についてだ。
地震は、9月6日の深夜、3時7分に北海道胆振地方中東部の深さ約35kmを震源として、最大震度7を観測し、被害を伴った。 特に観光に影響を与えたのが停電だった。
新千歳空港では設備の破損や停電が発生、またターミナルビルで多数の水漏れなどが発生したことにより、終日閉鎖し、当日の運行を全て見合わせた。
9月16日時点で、北海道庁がまとめた被害は、宿泊において、全道で94万2000件のキャンセルが生じ、被害額は約117億2500万円。また、観光バス関係で4000人、約3億7400万円と発表している。
自家発電装置が、インフラを維持し冷静な対応を促した
現場では、どのような対応をしていたのだろうか。富良野ナチュラクスホテルの石平清美専務取締役に当時の状況をうかがった。
「9月6日は、ほぼ満室のご宿泊でした。地震発生後すぐ、ほとんどのお客様は、非常用の懐中電灯を使い、1Fレストランラウンジまで降りてきました。明け方までいらっしゃる方もいましたが、パニックになることなく朝を迎えました。水道と電気は止まり、数時間の自家発電でトイレ等は出来ましたが、その後は1階のみを使用していただくよう、お願いしました。
6日のご朝食は通常通り提供致しましたが、水道がまだなので、洗浄が思うようにできず、レストランはその後2日間はお休みし、ガスは通常でしたので、カップラーメンとおにぎりのご提供を致しました。
その後、停電は9月6日の24時までの約20時間続き、事前決済の方には返金し、現状でのご宿泊ご希望のお客様には3,000円でご利用頂きました」
このように、自家発電設備を持っていたことが混乱を招かず、最低限のインフラを持てたのだろう。
また、被害状況についてもうかがった。
「停電後はパソコンも使えず、ホテルシステム、FAXもすべて停止しました。水道・電気の停止後の回復で、温水管が故障し、レストラン・事務所内に大量の水漏れが発生し、被害額は約700万円です。9月はまだ紅葉の季節なので稼働が高い月ですが、地震発生後のキャンセルは、約2000万円相当です。9、10月は全滅でした。冬のご予約は、ほぼ通常に戻りましたが…」
やはり、具体的な被害額が算出されていた。
またニセコのコンドミニアム運営会社にも問い合わせところ、同じく冬のスキー客は問題なく予約が入っていて、特にキャンセルもないそうだ。冬以降への影響は当初から少なかったようだ。
停電の2日間、不眠不休の臨戦態勢で、ゲストをサポートし続けた!
そして同じく北海道から、小樽で不動産仲介と民泊代行サービスをしている日本信達株式会社の石井秀幸CEOに当時の様子をうかがった。
「9月6日は、ちょうど中国から不動産購入視察ツアーの31名を受け入れしていたのですが、その2日前は、大型の台風21号が襲来し、ダブルパンチとなりました。
ゲストには、7つの民泊登録の戸建てに分かれて泊まってもらっていました。電気は、その地区では2日間止まってしまいましたが、水が止まらなかったのが幸いでした。マンションタイプですと電気でポンプを組み上げるため、水も止まっていたようです。
深夜帯でしたが、緊急連絡でスタッフは一旦会社に集まり、分担して対応をすることに。まず、懐中電灯やローソクを配り灯りの確保をしました。
また市立病院に近い物件は、幸い電気がすぐに回復したので、ここを拠点にしました。携帯電話の充電サービスも提供しました」
電源確保できたところを効果的に利用できたと石井氏は当時を振り返る。次は、その場所を拠点に食事の確保に動いたそうだ。
「ここでご飯を炊き、おにぎりの炊き出しをして、お客様を訪ねて配りました」
彼らは、この炊き出しの活動を電気が回復するまで2日間、対応したそうだ。またカセットコンロとガスボンベを配布して、カップラーメンを作れる環境を整えた。
電気が止まり、観光施設も営業していないので、外国人観光客はのんびりと過ごしていたようだ。日本人よりも外国人客のほうが落ち着いているのが印象的だったと石井氏。
3日目に電気が復旧して、31人のうち1人は、希望があったので早く帰れるよう手配をしたが、他のゲストはそのまま小樽に留まることに。
4日目は、大型バスをチャーターして、日帰り観光を提供した。北海道のツアーキャンセルが続出したのでバスが余っていて、すぐに手配ができた。電気さえ回復すれば、観光について札幌・小樽方面は地震の影響は全くなく、参加者はウィーチャットで安全な様子を中国本土に伝えてくれた。
キャンセルが出たのはその後、1週間ほどだったが、外国人の個人旅行者は、自分で情報収集して問題ないと判断して来てもらった。
石井氏を含め、今回の災害発生が冬でなかったのが良かった、というのが道民関係者の声だ。もし真冬に暖房が喪失する事態になるとゾッとするという。そういうこともあり、電源確保の課題等、冬に向けた災害対策もすでに始まっていた。
大型の台風21号は、関西国際空港を完全閉鎖に追い込んだ
次に9月に発生した、台風21号の影響について。沖縄から北海道まで、全国各地で被害をもたらしたが、特に関西国際空港の被害は、そのインパクトを国外に与えた。
当時、台風21号は非常に強い勢力で4日午後に徳島市に上陸した後、神戸市付近に再上陸し、日本海へ抜ける進路だった。大阪湾では強風で流されたタンカーが関西国際空港連絡橋に衝突、橋の一部が破損。また高潮で関西国際空港は、午後3時から空港全体を閉鎖し、滑走路は正午すぎから閉鎖した。
空港への連絡橋の損傷により、空港内には3000人が取り残され、その中には多くの外国人観光客が含まれていた。翌日の5日午後から順次、バスと船で空港外への脱出の手配ができたが、最終的には深夜までかかり、それによって中国人が優遇されたというフェイクニュースも飛び交っていたほどだ。孤立状態が長引けば、パニックになっていた可能性も否めない。
このように、北海道全域でのブラックアウト、関西国際空港の水没等が同時期に発生し、9月の訪日観光客数に影響を及ぼしたのだ。
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