インバウンド特集レポート

ピンチをチャンスに! ゴルフツーリズムでインバウンド促進。岡山・兵庫が連携し、豪州向けツアーを造成

2019.02.21

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昨年7月に中国地方を襲った豪雨からの復興と中国地方の消費拡大に向けて始まった「HASHIWATASHIプロジェクト」。専門家派遣を通じて地域の支援を行うプロデュース支援事業では、観光・インバウンドをテーマにしたプロジェクトが3つ採択された。前回は、高知県物部川流域で始まった訪日台湾ファミリー層誘客プロジェクトの様子を紹介。今回は、岡山・兵庫で始まったゴルフツーリズムによるインバウンド促進プロジェクトの様子を紹介する。

 

晴れの国の危機! ピンチをチャンスととらえ、ゴルフツーリズムを推進

岡山県は北部に山と温泉、南部は穏やかな瀬戸内海に恵まれ、温暖な気候を生かし、果物がとれることで知られている。県内には54ものゴルフコースがあり、国内のゴルフ好きが数多く訪れる。高速道路網に新幹線、岡山空港と交通基盤も充実。近年は後楽園や岡山城が海外旅行ガイドから好評を得て、外国人の訪問者数を伸ばしていた。

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▲岡山県玉野市にある東児が丘マリンヒルズゴルフクラブ

雨が降る日の少なさから「晴れの国」として知られる岡山に、暗い影をもたらしたのが昨夏の豪雨だ。県内の死者行方不明者数は64名、8千を超す住宅建物が全半壊した。とくに倉敷市の真備町地域の浸水が大きく報道されたことをきっかけに、風評被害から、観光客が激減してしまった。

この事態に奮起したのが、岡山県東児が丘マリンヒルズゴルフクラブ支配人の川野日出生氏だ。県内のゴルフコースは豪雨でダメージを受け、予約のキャンセルも相次いでいたが、川野氏はこのピンチをチャンスと捉え、これまで検討してきたインバウンドのゴルファーを受け入れるゴルフツーリズムを加速させることを決断した。

 

ターゲット設定と、ニーズに応じた旅行商品造成からプロジェクトスタート

とはいえ、岡山県にはインバウンドゴルファーの知見はなく、受入整備もこれからである。どこから手をつけるべきか、イメージが浮かばない。そこで以前から親交のあった、ゴルフツーリズムの実践的分野で活躍する札幌国際大学教授・北海道大学観光学高等研究センター客員教授の遠藤正氏に、ゴルフとインバウンドをどのように推進すべきか相談を持ちかけた。

遠藤氏によると「インバウンドゴルファーと一口にいっても、対象は広範囲にわたる。まずは近隣空港も含めた国際線の状況を踏まえてターゲット国を絞ること。その上で、質を追求するツアーを目指すのか、入り込み数を追求するツアーなのか。旅行商品の方向性を絞ってスタートすべきだ」。

このアドバイスを受けて川野氏は、すぐさま組織づくりと事業企画の作成に着手した。「外国人観光客に西日本広域で楽しんでもらうためには、近隣のゴルフ場と連携してはどうか」という遠藤氏のアドバイスのもと、岡山県と同じく豪雨被害を受けた兵庫県の北播磨県民局に打診、兵庫県のゴルフ場と連携してのゴルフツアー商品造成を決めた。

▲岡山県赤磐市の山陽ゴルフ倶楽部

事業面では、すでに実践経験のある遠藤氏をプロデユーサーに指名するとともに、日本でゴルフツーリズムを推進する日本ゴルフツーリズム推進協会も本プロジェクトに参画となった。関係者間で議論した結果、ターゲット市場を観光庁も強力に誘客を推進している欧米豪、さらには、時差など現実的な観光客の動きも考慮して、豪州を最初のターゲットとすることが決まった。

 

ゴルフ場と観光名所を巡る1週間の視察旅行を実施

さて、豪州をターゲットと言っても、そのゴルファーの特性や観光の嗜好など日本側だけではイメージできないことはたくさんある。そこで、遠藤氏の意見も参考に、豪州のゴルフツアーを催行する旅行会社を招聘して直接意見を聞くことにした。

年明け間もない1月上旬、豪州のゴルフツアー会社であるAYM Golf Tours社の代表取締役シェリ・ユウ氏が訪日した。遠藤氏による事前視察とプロデュースを経て、同氏は岡山県と兵庫県の7つのゴルフ場を視察、倉敷市の美観地区を観光したり、兵庫では紙漉き体験やイチゴ狩り、醤油蔵やビール工場を訪れたりした。さらには旅館やホテルの建物調査など、およそ1週間をかけて入念に視察が行われた。

▲ゴルフツアーの合間に日本文化を体験をするシェリ・ユウ氏

 

バイヤー目線のフィードバックで、日本のゴルフ場の魅力と課題が明らかに

視察旅行と同時に、岡山県と兵庫県のゴルフ場関係者を招いてセミナーも実施した。遠藤氏からは日本のゴルフツーリズムの現状報告や受入体制の整備、シェリ・ユウ氏からは海外バイヤーから見た両県でのゴルフツーリズムの強みと弱み、アジア各国のゴルフ場との差別化についても話された。

また、調査最終日には商品造成の会議が行われ、どのようなゴルフツアーがオーストラリアのゴルファーに適しているのか、活発な議論が交わされた。シェリ・ユウ氏からは「どのゴルフ場も整備が行き届いており、キャディーさんが笑顔で正確な仕事を行うのも魅力」とのこと。一方では課題も明らかになった。ホームページをはじめとする英語による情報発信だ。これはインバウンドを目指すゴルフ場にとって早急に整備すべき共通の課題だろう。

▲ゴルフ場関係者を招いてのセミナー後の集合写真

 

豪州ゴルファーの嗜好を抑えた旅行商品の造成へ

また、豪州顧客の嗜好についても新鮮な学びがあったと関係者は話す。当初はゴルフプレーの後、効率的に様々な観光名所を巡るプランが響くだろうと考えていたが、シェリ・ユウ氏からは、逆の提案が出された。「複数の観光名所を巡るよりも、むしろ時間的に余裕をもって、リラックスできるような行程が豪州の顧客を満足させる」。日本側だけでは思いつかないバイヤー目線のアドバイスを得て、地元関係者は奮起していく。真冬の議論は熱く盛り上がり、有益な商品造成が期待できる会議となった。

今後は、AYM社が岡山県・兵庫県へのゴルフツアー商品を造成し、豪州市場に向けて販売していく。2019年はラグビーW杯開催、2020年は東京オリンピック・パラリンピックなど日本でスポーツツーリズムの機運が高まりつつある。こうした大会観戦を兼ねて、日本でゴルフを楽しんでもらえれば、と関係者は一丸となり、プロモーションと受入整備に取り組んでいく。西日本の魅力を生かしたゴルフツアーが、外国人ゴルファーを満足させるものになることを期待したい。

※次回は、島根県江の川流域アドベンチャーツーリズムプロジェクトの様子を紹介します(2/28公開予定)

 

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