インバウンド特集レポート

2019.02.28

日本の神話が根づく地域、島根・江の川でアドベンチャー・ツーリズムを活かし欧米豪インバウンド客の誘致へ

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昨年7月に甚大な被害をもたらした西日本豪雨からの復興と、地域の魅力発信による消費拡大を目指す「HASHIWATASHIプロジェクト」。そのなかには、専門家の派遣によって被害を受けた地域を支援する「プロデュース支援事業」がある。ここではそのうち、観光・インバウンドをテーマにした3つのプロジェクトを紹介。これまでは、高知県物部川流域で始まった訪日台湾ファミリー層誘客プロジェクトや、岡山・兵庫で始まったゴルフツーリズムによるインバウンド促進プロジェクトを紹介してきた。第3弾となる今回は、中国地方・江の川流域のアドベンチャー・ツーリズムプロジェクトを追いかけた。

 

豊富な自然のもと、太古の神秘を感じさせる人気のエリア

広島県の三次市から島根県の江津市へ、地域の要所を結ぶように流れる江の川は、中国太郎の愛称で親しまれる中国地方最大の一級河川だ。かつては石見銀山で採掘された銀や伝統技法「たたら製鉄」で造られた鉄、薪炭、食糧や生活物資などを輸送する「川の道」として栄え、その流域にはかつての隆盛を思わせる街並みや文化、豊かな自然が残っている。

代表的な観光スポットは、鉱山遺跡としてアジアで初めて世界遺産に登録された石見銀山、絢爛豪華な衣装と火花やスモークを使った演出が見ものの石見神楽も人気だ。このほか、かつての宿場町・美郷町、「天空の駅舎」と呼ばれ海外の鉄道ファンも訪れる旧JR三江線・宇津井駅(三江線は2018年3月に廃線)、4月に2200本の花桃が咲き誇り「天国に一番近い里」と呼ばれる邑南町(おおなんちょう)川角(かいずみ)集落など、豊富な観光資源が残っている。

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▲10万球のイルミネーションでライトアップされた宇津井駅

そんな地域にも、西日本豪雨は大きな被害をもたらした。江の川には、広島県の山々からいくつもの支川が流れ込んでいるため、周囲は浸水被害が相次ぎ、観光にもダメージを与えた。石見銀山への2018年の観光客数は前年比24.2%減と、世界遺産登録後最低の数字に。宇津井駅には、廃線後も多くの鉄道ファンが訪れていたが、近隣のJR芸備線の鉄橋が落ちたことで広島からの交通手段が断たれてしまい、観光客数は大きく落ち込んだ。

この状況を改善すべくスタートしたのが「江の川流域アドベンチャー・ツーリズムプロジェクト」だ。江の川と寄り添うようにして広がる雄大な自然と観光資源を活かして、インバウンド客を誘致するための商品を造成し、広島県と島根県を結ぶ新たな広域観光産業を創出するというもの。プロデューサーには、NPO法人江の川鐡道の要望で、島根県を中心とした地域の企画・プロデュースの専門家である肥後淳平氏が招かれた。

 

アドベンチャー・ツーリズムを活かした商品造成に向けてプロジェクトスタート

「アクティビティ」「自然」「異文化体験」の3要素のうち、2要素以上で構成されるアドベンチャー・ツーリズムは、欧米豪を中心に人気が高く、歴史・文化に関心を寄せる人々が多いのも特徴だ。豊かな自然と日本の精神文化にまつわる多様なコンテンツを持つ江の川流域は、まさにアドベンチャー・ツーリズムに必要な要素を兼ね備えている。
プロジェクトでは、まず12月から1月にかけて、現地調査や文献調査が進められた。そして、欧米豪のターゲットに刺さる観光資源をピックアップし、関係者へのヒヤリング等をベースにモデルルートの開発が行われた。2月からは、モデルルートにあるコンテンツの強みと弱みを評価し、商品化に向けて磨きをかけるために、インバウンド専門家を招いて2泊3日のブートキャンプ(合宿型勉強会)が実施された。

江の川_専門家やプロデューサー

▲プロデューサー、専門家をはじめとする関係者が集まった

招聘された専門家は、日本のあまり知られていないスポットを欧米豪の富裕層に紹介するサイトを運営し、日本旅行のコンサルタントも務めるサンドラ・イサカ氏、島根県立大学の異文化交流学の講師として島根の歴史と文化に精通し、地域活動にも積極的に関わるダスティン・キッド氏、欧米豪向けのアドベンチャー・ツーリズム旅行企画会社を運営する澤野啓次郎氏とニコラ・アキコ・ミクレム氏、広島市内で外国人観光客向けにサイクリングツアーを実施している石飛 聡司氏と、地域文化とアドベンチャー・ツーリズムへの知見を持つメンバーだ。

 

ツアー造成にはオンリーワンのストーリーが重要なポイントに

ブートキャンプ で25の観光スポットや施設を訪れたサンドラ氏は、「島根の観光資源にはインバウンド誘致のポテンシャルが十分にある」と評価。ただし、商品造成に向けては、コンセプト設定とストーリー作りが重要だと話す。

「世界では島根の名前は知られていない。そのような中で、出雲大社や石見銀山について調べる欧米人は非常に限られている。大切なのは、地域が持つオンリーワンのコンテンツは何なのかをクリアにすること。例えば、江戸時代に石見銀山の銀を広島の尾道へと運ぶために使われ、現在も当時のまま残る「やなしお道」は、歴史ある貴重な場所。これらのコンテンツを紡いで、“ここにしかない” “ここでしか見られない”ストーリーのある商品を造り、集客につなげることだ。テーマとなるストーリーが完成したら、その世界観をツアーに関わる者、地域住民で完璧に造りあげていく。その作業は、“さながら時代劇の撮影準備のよう”」という。

 

自然と異文化体験で、日本の精神性を欧米豪の富裕層にアピール

「時代劇の世界に冷蔵庫があるとおかしい。通りを歩いていて工事中を示す赤いコーンが見えたら興ざめだ。観光客は侍映画や黒澤映画の世界をイメージして訪れるが、プラスチック製の器など現代の製品が見えると日本人が思う以上にガッカリする。エリア全体で統一したストーリーをテーマに、それにふさわしくない物は裏に隠す。そこまで徹底することが“ここにしかない”商品造成につながる」とのアドバイスがあった。

最終日は参加メンバー全員でのワークショップを行った。江の川アドベンチャー・ツーリズムが一本の映画だとしたら、掲げるテーマは何か、グループに分かれてディスカッションが行われた。活発にアイデアが行き交った後、『Modern Life in Mythic Japan(日本神話が息づく現代の暮らし)』というテーマが満場一致で決まった。

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▲現地視察後のワークショップでは、活発な議論が行われた

 

アドベンチャー・ツーリズムプロの視点で、商品の更なる磨き上げ

その後、テーマにふさわしいコンテンツを織り込み、アドベンチャー・ツーリズムを扱う欧米豪の旅行会社6社を招いての視察が2月15日から行われた。7日間の行程には、出雲大社や石見銀山はもちろん、奥出雲たたらと刀剣館での見学と体験、銀山街道や武家・町家ゾーン、地元の暮らしが垣間見える中山間地集落でのウォーキング、さらには夜神楽鑑賞やカヌー、日本酒のテイスティングなど体験コンテンツも豊富に盛り込まれた。

視察に訪れた旅行会社からは「江の川の美しい自然の中でのカヤックが素晴らしかった」「地域住民からの歓迎のもてなしがあり楽しかった」との感想が得られた一方で、「豪雨により発生した瓦礫が散乱していたり、川や海にゴミが浮かんでいる状態が見受けられた。カヌーやカヤックは、自然の中で楽しむスポーツ。このような状態を改善すれば、よい旅行商品を探しているお客様に積極的に紹介できる」というコメントもあった。今回視察に訪れたアドベンチャー・ツーリズムのプロならではの視点を受けて、関係者の間で今後の対応方法について検討をしている。

今後は実際のツアー商品へとつなげ、テーマと共にターゲットに向かって発信、集客へとつなげていく予定だ。

 

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