インバウンド特集レポート
国内では空き家が大きな問題となっている。そこで、古民家を活用して宿にするプロジェクトが全国的に盛り上がりつつある。外国人による宿泊体験も人気コンテンツの一つだ。前編では、東京は入谷にオープンした古民家宿「toco.」を、中編では、富山県の八尾の宿とカフェが一体となった古民家施設を紹介。後編では、中編に引き続き、古料亭を古旅館へと改築した、横浜の金沢八景にたたずむ旅館「喜多屋」について紹介する。
古料亭から古旅館へと生まれ変わる
外国人留学生向けシェアハウスを運営する会社「エー・アイ・ジェイ」の喜多正顕(きたまさあき)社長とそのビジネスパートナーの山本博氏の2人でスタートした古旅館プロジェクト。特に外国人にはウケが良いという経験から、山本氏自身が推進役の支配人として関わった。
山本氏によると、旅館開業までの手続きに非常に苦労した、と当時を振り返る。現在の旅館業法の基準をクリアすることと、特に耐震性がボトルネックになって、開業時期が遅れてしまったのだ。横浜市は、文化財を維持するために、彼らに宿運営を提案したものの、旅館業法の基準をクリアしなければならないという、古料亭には高いハードルが待っていた。基準をクリアすることだけを目的に施設を改築してしまうと、開放的な南側に耐震壁を加えることとなり、無粋な建物になってしまう。そこで見た目は現在の様子を変えることなく耐震性がクリアできないか、構造計算、およびコンピュータによるシミュレーションを約30回も繰り返した。

実際、東日本大震災でも、この施設は倒壊はしなかった。大きく揺れはしたものの、免震構造になっていたので無事だったのだろう。下手に耐震性を高めると、かえって破損のリスクもあるという専門家からの意見も参考にした。
こうして、シミュレーションしたデータと専門家の意見書を添えて横浜市に提出。耐震性があると判断され、開業の準備がいっきに進んだという。
古旅館に泊まることそのものが、日本文化体験に!
外国人は、古民家を、大きいくくりでは”日本文化を体験できる旅館”として考えており、それが古民家に泊まる魅力になっている、と山本氏はみている。そのため、古民家にどの程度和のテイストがあるかが肝になるという。日本人は、かつて人が生活をしていた「古民家」と「古い旅館」の違いを見分けることができるかもしれないが、外国人にとって、その違いを判断することは難しい。
観光庁が定期的に実施している訪日外国人消費動向調査結果によると、次回に来日した際にしたいことのランキングの上位には、旅館への宿泊がある。例えば、畳の上での裸足の感覚が気持ち良い、靴を脱ぐ際の開放感がある、などだ。つまり、旅館の宿泊自体が日本文化体験になっているのだ。外国人にとって、旅館「喜多屋」という文化財に泊まるということが、最大の目的となると山本氏はみている。どれだけ「ザ・ニホン」を体験できるかかが訴求ポイントだ。

マッチングサイトで宿を選ぶポイントは、主に3つあると山本氏は指摘する。施設の写真、値段、場所だ。喜多屋に関しては、立地は決して良いとはいえないが、施設の写真に関しては、特徴を出すことができる。また寝具の準備や片付けなどのサービスを省くことで、価格をおさえることができた。すべての条件において満点を狙うのではなく、訴求ポイントを絞った結果、集客に至ったのだろう。
編集後記:
全国で取り壊すしかないと思っていた古民家が、価値ある建築物として変身できるのかどうか。それは、運営者、地域などの尽力によるところが大きい。今後、このような古民家の取り組みはますます増える可能性が高く、機会をみて取材を継続したいと思う。
Text:此松タケヒコ
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