インバウンド特集レポート
宿泊だけでなく、個人が提供する体験のマッチングや予約にAirbnb(エアービーアンドビー)などのマッチングサイトが参入してきたこと、また、2018年に通訳案内士に関する法律が改正され、誰でも有償で外国人にガイドできるようになったことで、日本でも様々なガイドが個性的なツアーを企画し、ガイドをするようになってきている。今回は、ショッピングツアーの石塚博之さんの体験プログラムをご紹介しよう。
Part1:個人事業者の参入により、多様化や盛り上がりを見せるインバウンド向け体験プログラム
ファッションのプロがガイドデビュー
石塚博之さんの体験プログラムについて紹介しよう。銀座と渋谷・原宿でパーソナルショッピングとショッピングの体験を提供している。ターゲットは主に欧米系の富裕層で、2時間のショッピングをお供するというものだ。

石塚さんは、もともとはグッチのセールスで、国内1位の販売実績もある方だ。しかし、やりきった感もあり、第一線を退きイベント関連の仕事をしていたところ、たまたま縁があってAirbnbの日本でのエクスペリエンスの立ち上げ時に声がかかったそうだ。ファッションに対して見識が高いので、ショッピングツアーのプロデュースとアテンドをした。さらに接客に対しておもてなしのスキルがある。2016年8月にトライアルとしてスタートした。
その当時は、まさか、それが本当に商売になるとは半信半疑だったそうだ。好評となり、継続していくうちに、手ごたえを感じるようになったという。誰も手をつけていなかった訪日パーソナルショッピングというテーマに可能性を見出したのだ。ショッピングという領域は、まだまだ深掘りできることがあると石塚さん。
想像以上にパーソナルショッピングの利用者が多く、この業務にシフトしていった。
さて、コース内容について詳しくみていこう。
募集は、銀座は2名、渋谷・原宿は最大5名で案内していて、Airbnbのみから受け付けている。案内するのは、ジュエリー、時計、服飾、皮革カバン、靴などのファッション領域のみ。スタート時には、一人2時間5000円だったが、現在は、一人1万800円になった。2名まで参加が可能で、もし貸切り案内が希望の場合は3万円、渋谷・原宿は2時間半で1人7500円、貸切り4万円で対応する。
人脈と知識をフルにいかし、事前準備にもおこたりなく
銀座でのパーソナルショッピングにおいて、石塚さんは、事前のヒアリングをしていて、3つの質問の回答によってコースを変えるそうだ。その質問とは「好きなブランド」「好きなスタイル」「日本滞在中に買いたいもの」の3つ。
銀座のブランドショップの品ぞろえや在庫状況が、石塚さんの頭の中にインプットされていて、アップデートも頻繁にしているので、コースのイメージがつくという。さらにブランドのデザイナー、各店舗のマネージャーや店長とも普段からコミュニケーションを取っているので、事前にいろいろな情報や質問もでき、空振りが少ない。もちろん、要望によって、途中でのイレギュラー対応もしている。

この2時間のコースを石塚さんは、1日に、2回から3回をまわる。1回あたりで、ブランド数としては、15~20は最低限まわり、そのうち、実際に5~6店舗でゲストはショッピングをするそうだ。もし、2時間を超えてしまうと、ゲストは、かなり疲れてしまうので、2時間で終わるように心掛けている。
これまで、石塚さんのパーソナルショッピングに42か国から1000人以上が参加した。6歳から76歳の方と幅広く、2年半で合計8000万円以上の売上に貢献しているそうだ。通販にはない、リアルなショッピングは、さわる、匂う、など感情が動き、思い出に残り、簡単に捨てられないものにもなるそうだ。
オンラインショッピングで代替は不可であろう。
ガイドのライフスタイルも重要ポイント
またショッピング体験が終わった後、どこのレストランがおすすめかと質問もされ、その方に合うお店を提案する。さらには、どこの美術館がおすすめかとの質問にも答える。事前にヒアリングしたことで、ゲストの嗜好を把握しているからだ。
一方、ゲストから石塚さんが個人的に好きなお店を聞かれた場合、後からお店リストを送るそうだ。まさにこのセレクトにゲストが合致すると、石塚さんのライフスタイルに共感し、今後、長いお付き合いになる可能性も。
ここが、インバウンドのガイドに個人の参入が重要な点だろう。人間的な関係性でつながることができるのだ。一方、旅行会社の企画では、自分の好みやライフスタイルよりも、人気や売れ筋などマスを狙うことになる。その結果、ありきたりな無難な企画に陥ってしまい、ゲストとの深い共感が期待できないケースもある。
さて、銀座以外の拠点として、渋谷・原宿がある。こちらは、客層も異なり、案内の仕方も変えている。カジュアルさ、楽しさをコンセプトに組み立て、ブランドの世界観を味わえるストリート系のファッションブランドの路面店を案内する。

石塚さんは、一切、お店からキックバックはもらわないという。だから、ゲストの好みに合致するかどうかの真剣勝負に徹していられるのだ。
海外富裕層の生の声を間近に知る
このように毎日のように、外国人ゲストを案内することで、彼らの生の声を聞くことができ、ノウハウが積みあがってきているそうだ。
そのなかの一部を披露してくれた。

世界のファッショントレンドは、ミニマリズムへと向かっていて、サスティナブルが世界観だという。つまり持続可能な社会を実現できるものが求められている。例えば、自然素材としてのコットン、ウールなどがあげられ、実は、世界的レベルでも日本の商品は高品質で安価といえると石塚さん。
モンクレールというフランスのブランドが仕入れている合繊織物の生地は、実は福井の郊外にあり東京から4時間以上かかる会社が製造をしている。シャネルは、日本全国をまわって協力企業を探し、提携している。つまり、日本の素材、縫製、洗いなどの技術が高いことを欧米の富裕層は知っていて、彼等をターゲットとする欧米系ラグジュアリーブランドはその価値を高く評価している。メイドインジャパンは求められているのだ。
日本ではあまり知られていないブランドでも、実は技術が高く、目が肥えた彼らは、その価値に気づくという。メイドインジャパンが海外では人気なのだ。
このパーソナルショッピングに参加したゲストの満足度は高いそうだ。それは、短い時間で買いたいものが見つかるからだ。銀座は在庫が充実していると石塚さんは話す。
ゲストは、銀座を想像以上に宝石箱のようだったと例えるそうだ。通常、ファッションのお店は海外では路面店に限られ、上層階にはないのだが、日本では、ビルの4階、5階にも魅力的な店があったりする。日本では、ショッピングの楽しみ方が違うことを参加者は認識するという。
購入したゲストの中には、世界のVIPもいるそうだ。記者発表会において、日本で購入した服を着たり、パーティーでも着たりする。そこで、彼らにとって珍しい日本のブランドが、話のきっかけになることもある。服とはコミュニケーションのためのツールだと石塚さん。多様性を認めあい、セルフブランディングの道具にしている。服の趣味が似ていたりするとアイスブレークにつながるのだ。
コラボ企画が始まり、次なる展開は?
石塚さんは、キックバックを一切もらわないので、そこで恩義に感じたショップからはコラボ企画の提案をもらったそうだ。日本の有名ブランドとデニムのストールコートを作ってGINZA SIXの2周年記念限定アイテムとして販売した。外国人客が好む石塚さんのノウハウがいかされていて、すべて完売した。
また別の有名ブランドでは、オーダーのリメイクデニムジャケットを販売し、こちらも高価格ながら売れているそうだ。
今後は、アテンドしたビジネスのエグゼクティブとのネットワークを更に強くしたいと考えている。日本の若手職人やデザイナーにダイレクトにつなげることで、日本の素晴らしさを伝えたい。人と人を結びつけることで、若手の成功がかなうよう応援したいそうだ。
石塚さんはパーソナルショッピングという新しいジャンルを開拓し、さらなる可能性を模索していた。
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