インバウンド特集レポート
前回は、ファッションのプロが企画したショッピングツアーの体験プログラムを紹介した。ゲストにとって、自分のために考えられた内容のツアーは満足度も高く、個人同士の人間的な関係性でつながることができるのも、こうした個人の提供する体験の良さと言えるだろう。最後に、ラーメン食べ歩きツアーを行っているフランク・ストリーグルさんのラーメンツアーへの同行レポートをご紹介しよう。
ラーメン好きアメリカ人が立ち上がった!
次に紹介するのは、アメリカ人のフランク・ストリーグルさんだ。ラーメン食べ歩きツアーを2018年10月からスタートした。まさに、法改正によって活躍できる外国人材の登場である。
フランクさんは、アメリカ国籍だが、親の仕事の都合で日本に少年期から住んでいて、大学のときにアメリカのミネソタ州に渡ったが、卒業後、日本に戻った。ラーメンとの出会いは、少年期にまでさかのぼり、家ではインスタントラーメンを食べるなど、日本の食文化に接していた。まさに普通の日本人男性と同じようにラーメン好きになった。昔はこってり系の豚骨が大好きだったが、最近はあっさり系など、いろいろな味を楽しむようになったそうだ。
東京でラーメンの食べ歩きをしていて、その様子を2016年に開設した英語ブログに投稿している。都内のいろいろなラーメン店にも精通していることがわかる。
Airbnbのラーメン食べ歩きツアーは、2018年1月に開始した。それまでの通訳案内士制度が壁になって、資格がないので、ガイドをすることはなかったが、法律が変わり、誰でも報酬を受けて案内ができるようになったのが大きなきっかけだった。
当時、ガイドを始めることに何の躊躇もなかったそうだ。それまで営業職をしていたので、人とのコミュニケーション力には自信があった。さらに、東京に長く住んでいたので日本語もでき、知識も豊富だ。
特に、このインバウンドについても、まだまだ成長市場であることを知っていたので、これからやるには、ベストなタイミングだと考えた。
ラーメン食べ歩きツアーが試行錯誤で完成!
現在は、Airbnbからの引き合いが多く、このツアーを始めたタイミングで会社を立ち上げた。3時間のコース参加費は一人12,000円だ。自社のラーメンブログのページなど、ダイレクトブッキングのページもあり、そちらからの予約もあるという。また最近では、旅行会社からの相談も増えつつある。ツアー商品にも加えたいというニーズだ。
ツアーづくりにあたっては、フランクさんは、気に入ったラーメン店に何度も足を運び、協力してもらう交渉を進めた。そしてまず、友人を招いたモニターツアーを実施したところ、いろいろな意見があがり、そこで大きく変わったのが、まわる順番だ。当初はスタートが中目黒で、次に渋谷、最後に恵比寿だったのだが、中目黒、恵比寿、渋谷の順番になった。解散が渋谷のほうが、その後どこかへ遊びに行くにも、宿泊先に帰るにも便利な場所だからだ。
ツアー客は、3~4月が一番多く、国別だと一番多いのがアメリカだ。ついでオーストラリア、イギリスと続く。アジアからも増えているが、基本、英語を話せる方のみの対応だ。
レビューにも多くの投稿があり、楽しかったという意見が多い。単純に食べ歩くのではなく、日本のラーメン文化を伝えるなどのオリジナリティやエンターテイメント性があり、喜んでもらえる工夫もあるからだろう。
3時間に6杯のラーメンを食べる!
7月上旬、フランクさんのラーメンツアーに同行した際の様子をレポートしよう。
集合は、東急東横線の中目黒駅だ。今回は、オフシーズンということもあり、参加はアメリカ人のカップルのみ。参加者が多い桜のシーズンは、10名近くになることも珍しくないそうだ。
今回の参加者はニューヨークから観光目的で10日間ほど日本に滞在し、東京以外に京都や大阪へも行く。ラーメンが大好きで、ニューヨークでも時々食べていたという。
ラーメンツアーのコースは、中目黒駅近くのラーメン店で2種類、恵比寿駅近くのラーメン店で2種類、最後に渋谷駅界隈のラーメン店でこれまた2種類を食べる。合計で6種類のラーメンを約3時間のツアー中に食べることができる。もっとも、このツアー用に開発された小型どんぶりになっていて、若い参加者なら軽くたいらげてしまうようだ。
このツアーの特徴は、フランクさんによるラーメン解説が付くことだろう。それもわかりやすくイラスト入りの図解した小型のパネルを持ってきている。ラーメンの歴史、ラーメンの種類、味の構成、最近のラーメンのトレンドなどを紹介している。
海外で普及している日本のラーメンは、ほとんどが豚骨ラーメンだ。だから醤油や味噌、鶏ガラ、魚出汁という存在に驚かれる。
このツアーでも、そんな日本のラーメンのバラエティーさを体験できる仕組みになっている。例えば、中目黒の「ラーメン恵本将裕」は魚出汁が特徴だ。それをベースに塩ラーメン、担々麵、醤油があり、そのうちの2つをチョイスする。初めての味にアメリカ人カップルは大喜びだった。
次に地下鉄に乗って恵比寿へ向かい入ったのは、カレーラーメンのお店「しゅういち恵比寿店」だ。ここはラーメンの味を残しつつバランス良くカレーとのハーモニーを実現している。辛い味、味噌、ゴマなどの味があり、その中から2つを選ぶ。
ラーメンが出てくるまでの待ち時間、自分だったらどんなラーメンを作るかというアンケートがあり、麺、出汁、味、トッピングなど、好みを選ぶ。それをみんなに発表するのだ。アメリカ人の女性は、アボガドを入れたいと提案。なるほど、日本人にはない発想に驚く。
さて、次に向かったのは、渋谷駅。移動中、電車の中ではお客さんからの日本の食文化事情や東京の観光全般など、いろいろな質問にフランクさんは対応している。
多彩な豚骨ラーメンに外国人客はビックリ!
渋谷駅を降りて、金王坂方面にある「ラーメン凪」へ向かう。ここは豚骨ラーメンで、それも赤、黒、白、緑の4色から選ぶのだ。赤は、辛い豚骨、黒はゴマ豚骨、白は一般の豚骨、緑はバジル入りのイタリア風豚骨だ。豚骨ラーメンだけでも実にバラエティーに富んでいて、ニューヨークのカップルは、2種類ずつ合計4種類のすべてをチョイス。食べ比べとなった。
豚骨といっても全部味が違うことに驚いていたそのカップル。私も味見をさせていただくと、黒ゴマの甘みが美味だった。初めての味わいだ。
アメリカではラーメンはますます人気になっていると参加者の方はいう。ニューヨークのラーメンは20~25ドルもして、なかには行列のラーメン店もあり、長いと2時間も待つことがあるそうだ。だから日本は割安感があって嬉しいと言う。そして、いろいろな味が楽しめるこのコースは大満足のようす。
このようにエッジがきいた体験プログラムを開発する外国人ガイドが増えることで、ディープな日本を紹介できるだろう。
インバウンドは個人のフェーズへと広がっている。バラエティーに富んだ日本の魅力を紹介する人材がさらに増えれば、訪日観光客の満足度アップにつながるだろう。今後の展開を期待したい。
(完)
最新のインバウンド特集レポート
香港の日常に溶け込む「日本」、香港人の消費行動から見えるその魅力とは? (2024.09.30)
地方を旅する香港人旅行者の最新トレンド、柔軟な旅スタイルで新たな魅力を発掘 (2024.09.06)
酒造りからマラソンまで、ディープな日本を楽しむ台湾人観光客。新規旅行商品造成のノウハウとは? (2024.08.30)
専門家が語る、深化する中国人旅行者のニッチ旅のトレンド。地方誘致の秘訣とは? (2024.08.29)
最高の旅を演出する「スーパーガイド」表彰で、通訳ガイドを誇れる職業に (2024.06.24)
お好み焼き、カレー、ラーメン…一見すると普通のツアーに参加者が大満足。10日で150万円の特別な訪日旅行の中身 (2024.05.31)
大阪万博まで1年、深刻化するバス・タクシー人手不足の現状と解決策、ライドシェアの効果は? (2024.05.16)
失敗事例から学ぶ観光DXの本質、成果を出すため2つのポイント (2024.04.24)
全8市町がグリーン・デスティネーションズのラベル獲得。日本「持続可能な観光」地域協議会が歩んだ3年間の取り組みと成果 (2024.03.29)
歴史的資源を活用した観光まちづくり推進事業、住民主体の地域づくりの足掛かりに (2024.03.22)
「守るべきは屋根の下のくらし」京都 美山かやぶきの里が模索する、持続可能な地域の在り方とは (2024.03.14)
【対談】被災した和倉温泉の旅館「加賀屋」が、400人の宿泊客を避難させるために取った行動とは (2024.03.14)