インバウンド特集レポート
大阪・新世界は、昭和の雰囲気を感じさせるノスタルジックな街並みが人気を集めている。通天閣と「づぼらや」のちょうちんを背に、自撮りの場所決めをしている外国人の姿は日常のひとコマである。大阪観光局によると2018年に大阪を訪れた外国人は1141万人。国別では1位が中国人で455万人。中国人の訪日客の半数以上が大阪を訪れている。2位の韓国人は239万人、3位は台湾人122万。ここ数年の訪日外国人の伸び率はすさまじい。時代の変遷をへた今の新世界をお伝えしたい。(執筆:仲底まゆみ)
観光地として変化を遂げる新世界
新世界は時代によってまちのイメージが違う。その生い立ちは、1903年(明治36年)に開かれた第5回内国勧業博覧会にさかのぼる。その名は、ドボルザークの交響曲「新世界より(From The New World)」に由来する。第二次大戦後前までは「ルナパーク」という遊園地をはじめ、演劇場や映画館、飲食店が建ち並ぶ歓楽街としてにぎわった。かつて「ガラが悪い」というイメージもあったが、まちの人は変化をどう感じているのだろうか?新世界町会連合会の副会長であり、親子三世代で商いをつづける近藤正孝さん(50代)はこう語る。
「戦後の新世界は、おっちゃんの遊び場でした。朝から飲んで、将棋にパチンコ。東宝や東映、大映など名だたる映画館がすべてあって、男一人で遊べるまちでしたね。近隣の釜ヶ崎暴動の影響でイメージが悪かった。学生時代、このまちで生まれ育ったことをなかなか言い出せなかったんですよ。今では、外国人のお客さんもたくさん来てくれるようになって“観光のまち”と言われるほどに変化しました。インバウンド対応に取り組んでいるお店が増え、個々の看板やメニューにも工夫が見られます」
新世界はこの半世紀の間にも、カラーテレビの普及により映画館が淘汰された。多い時には13店舗もあったパチンコ店も消え、入れ替わるように大型の串かつ店や、広い店内で釣り体験ができる居酒屋などが出店。近隣の「ドヤ」と呼ばれる日雇い労働者の簡易宿泊所も減り、ゲストハウスへと形を変えている。
まちを歩くと、外国人向けに表記した看板が目に留まる。外国人にもわかりやすいセットメニューや、多言語対応のPOP。飲料水の自動販売機には、用意する小銭が視覚的に理解しやすいイラスト入りである。おなじみ串カツの「二度づけ禁止」は、Please do not dip the sauce twice―とある。近藤さんが教えてくれたとおり、わかりやすく親切である。
いまや新世界は、若者から家族づれ、さらに外国人観光客も安心して楽しめるまちに変貌を遂げている。変化はとどまることなく、2022年に高級ホテルの星野リゾートが運営する「OMO7(オモセブン)大阪新今宮」が開業予定である。
ガイドブックだけでは伝わらない新世界発信のためにサイトをオープン
新世界は通天閣を中心に放射状に商店街がのび、いく筋もの商店街や横丁から成り立つ。東西300メートル、南北600メートルというエリアに20もの町会が密集する小さなエリアである。人と人のつながりを色濃く感じさせる純喫茶や囲碁将棋サロン、昔ながらの遊技場であるスマートボール、大衆演劇の芝居小屋、朝のモーニングからはじまる立ち呑み屋など個性的なお店がひしめきあっている。
「通天閣や串カツだけでない、第二・第三のみどころを見つけてもらうきっかけを」と、新世界107回目の誕生日に合わせ2019年7月に公式サイトをオープンした。およそ400店ある店舗紹介を日本語・英語・中国語・韓国語の4カ国語で閲覧できるサイトを段階へて構築中である。さらに地元・浪速区や新世界地域活動協議会とも連携。防犯や災害時のライフライン、まちの情報をアップデートし、地域住民とも共有していく。
公式サイトができるきっかけは何だったのだろうか?
発案者で宿泊施設を経営する、台湾華僑・三代目の朝倉優さんは(30代)こう語る。
「この街は新しいお店が増えています。日本人だけでなく、海外から来る人にもっと新世界の魅力を知ってもらいたい。そのために、まち全体で統一感のある情報発信ができないか?また、問い合わせ窓口も必要ではないかと、町会長らが集まる席で働きかけました。ホームページに関する理解は、世代によってもまちまちですが、“必要や”という点においてはみんな一緒でした」と、振り返る。
ホームページの運営委員は、近藤さん、朝倉さんをはじめ全12名。メンバーは、商店街の店主をはじめ、まちづくりの担い手やベテラン、ホームページの制作担当者や新世界以外からのファンなどさまざま。一人でも多く公式サイトの意義を理解してもらいたいと、運営委員らが直接お店や企業に出向き掲載を募っていった。
「新世界は、これまでの歴史のなかでも新しいものをどんどん取り入れてきました。このまちには、どんな人にもチャンスがあり、チャレンジできる風土があります。みんなのアイディアと力で育てていくホームページをそれぞれが応援できるようなあったかいものにしたい」と、近藤さん。新しい公認サイトを起爆剤に、もっと新世界を盛り上げようと意気込む。
新世界ならではの体験を。着物姿がカラフルな街に溶け込む
昭和レトロ、大阪グルメ、大衆演劇などいろいろな楽しさが詰まった新世界。なかでも、外国人観光客にうけている体験型のサービスを紹介する。
新世界人力車俥天力
大阪の下町を案内する人力車。コースは、通天閣の周辺から足を伸ばして、一心寺、あべのハルカスなど人気の名所から穴場まで見どころをおさえて一巡する。新世界・天王寺遊覧コースは10分から60分まで。俥夫は、留学経験者をはじめ元ダイバーや吉本所属の芸人などそれぞれ個性的。着物×人力車の姿は、インスタ映えするだけでなく色鮮やか街にマッチすると写真を撮る外国人観光客も多い。
新世界で西川流日本舞踊体験
大阪観光局が支援するDeep Experience OSAKAの体験プログラムのひとつ。古き良き日本の文化を、美しい立ち居振る舞いで表現する日舞体験の会場は宿泊施設「ホームホステル大阪」の畳スペース。着物は、簡易着物の和美換(わびかえ)で2分で着ることができる。日舞体験のあとは、着物で新世界のまちを歩くことができ外国人観光客からも喜ばれている。
最新のインバウンド特集レポート
香港の日常に溶け込む「日本」、香港人の消費行動から見えるその魅力とは? (2024.09.30)
地方を旅する香港人旅行者の最新トレンド、柔軟な旅スタイルで新たな魅力を発掘 (2024.09.06)
酒造りからマラソンまで、ディープな日本を楽しむ台湾人観光客。新規旅行商品造成のノウハウとは? (2024.08.30)
専門家が語る、深化する中国人旅行者のニッチ旅のトレンド。地方誘致の秘訣とは? (2024.08.29)
最高の旅を演出する「スーパーガイド」表彰で、通訳ガイドを誇れる職業に (2024.06.24)
お好み焼き、カレー、ラーメン…一見すると普通のツアーに参加者が大満足。10日で150万円の特別な訪日旅行の中身 (2024.05.31)
大阪万博まで1年、深刻化するバス・タクシー人手不足の現状と解決策、ライドシェアの効果は? (2024.05.16)
失敗事例から学ぶ観光DXの本質、成果を出すため2つのポイント (2024.04.24)
全8市町がグリーン・デスティネーションズのラベル獲得。日本「持続可能な観光」地域協議会が歩んだ3年間の取り組みと成果 (2024.03.29)
歴史的資源を活用した観光まちづくり推進事業、住民主体の地域づくりの足掛かりに (2024.03.22)
「守るべきは屋根の下のくらし」京都 美山かやぶきの里が模索する、持続可能な地域の在り方とは (2024.03.14)
【対談】被災した和倉温泉の旅館「加賀屋」が、400人の宿泊客を避難させるために取った行動とは (2024.03.14)