インバウンド特集レポート
近年、インバウンド誘致を目的に、日本各地の空港が海外からの航空路線拡大に力を注いでいる。しかし、ターゲット国の航空会社から直行便を誘致し、それを継続していくことは容易なことではない。今回は、日本政府観光局(JNTO)・市場横断プロモーション部の小林大祐氏に取材させていただいた内容を基に、世界と日本における航空市場のトレンド情報や、JNTOが長年に渡って蓄積してきたデータに基づく効果的なエアポートセールスなど、様々な角度から国際線誘致に必要な視点をお伝えする。
世界の航空市場は、25年間成長し続けている
まずは、世界的な航空市場のトレンドについて見ていきたい。「世界の航空旅客数の推移」(下図)を参照すると、アメリカ同時多発テロ事件(以下、9.11事件)が起きた2001年、そしてリーマンショックが起きた2008年を除くと、1991年から2017年の25年間で右肩上がりに成長を続けていることがわかる。また近年のトレンドとして、アジア諸国をはじめとした新興市場の航空旅客数は、グローバル化や経済成長が追い風となり、欧米諸国の成長率をはるかに上回る速度で伸びている。
世界における航空旅客数増加の要因となっているのが、LCCであると言っても過言ではない。2000年と2018年とを比較するとLCCの座席数は5倍以上となり、2018年にはLCCのシェアが29%にまで達している。下図に書かれている「FSC」とは「フルサービスキャリア」のことを指し、日本国内ではJALやANAがこれに当てはる。2000年以前はFSCが寡占的に市場を占めていたが、現在はLCCと共に堅調な成長を続けている。
LCC成長の背景には、航続距離が短く機内が狭い一方で、低コストで運行ができる「ナローボディ機」が新興市場で大きく広がったという潮流がある。従来のナローボディ機は例えば「東京-香港」「東京-マニラ」間などを直行で飛ぶ短距離型が多かったのに対し、近年は「東京-シンガポール」「東京-デリー」間などを直行で飛ぶ中距離型も広まりつつある。
今後20年間における世界の航空需要の予測を見ると、増加する世界の旅客数の半数以上をアジア・太平洋地域が占めており、地理的に日本のインバウンド需要を後押しする可能性が高い。中でも人口の多い中国、インド、インドネシアの3カ国の伸びが著しく、中国は2025年に米国を追い越し、旅客数ベースでは世界最大の航空市場となると見られている。
日本の航空市場拡大は、オープンスカイ(航空自由化)が後押し
世界の航空市場が成長を続ける中、日本の航空市場のトレンドはどうなっているのだろうか。日本の国際線旅客数では、世界の市場と同じく9.11事件が起きた2001年とリーマンショックが起きた2008年、さらにSARSが流行した2003年と東日本大震災が発生した2011年に一時的な落ち込みが見られた。しかし、関西国際空港の開港(1994年)と羽田国際線ターミナルの開業(2010年)、オープンスカイ協定をはじめとする政策や、近年のインバウンド市場の拡大によって、急激な成長を遂げている。
オープンスカイ協定とは、国際線の路線や便数、運賃などの規制を撤廃して自由化することで、合意した国・地域の間では原則的に航空会社が自由に路線を設定できるようになる。日本は島国のため、インバウンド需要を取り込むためには航空路線を拡大する必要がある。2010年にアメリカとオープンスカイ協定を締結したことを皮切りに、現在は世界33カ国と締結し、近年のインバウンド市場の急速な拡大に寄与している。
日本のLCC市場は、過去10年間で著しく成長
世界のトレンドからは少し遅れたものの、日本のLCC市場も著しく成長し、近年のインバウンド増加に貢献している。かつて日本の国際線は欧米をはじめとする長距離路線が多かったが、過去10年間で LCCの就航便数が増加し、近隣国との交流人口が拡大している。
日本発着の国際線は、メインとなる成田、羽田、関西、中部の4空港が依然として多いものの、それ以外の地方空港の便数も増加している。国際線の新規就航路線数のデータだけで見ると、直近2年では4空港以外の地方空港が41%を占めているため、今後も地方空港の路線拡大が期待できそうだ。
後編では世界のLCCトレンドから見る、日本のインバウンドにおける可能性や、「エアポートセールス」の成功要因と課題などを解いていく。
『第3回 日本路線誘致促進フォーラム』 JNTO会員向けに、国際航空ネットワーク拡充を目指す地方空港や自治体、地域観光団体向けのフォーラムが開催されます。詳しくは下記にお問い合せください。 日時:2月10日(月) |
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