インバウンド特集レポート
インバウンド業界は、新型コロナウイルスの影響で厳しい状況が強いられている。一方でコロナの収束が見えないなか、新しい動きも出てきた。オンラインの活用だ。オンライン宿泊やオンライン体験、オンライン研修にオンライン商談会とインバウンド業界を取り巻く環境は、今まさに大きく変わろうとしている。オンラインを活用した取り組みの現状を追った。
海外の商談会やイベントのブース出展もオンラインで開催
インバウンド業界のオンラインへのシフトは、インバウンド業界向けのB to Bの動きと、一般の旅行客向けのB to Cの動きとが2つあるが、まずは業界向けのB to Bの動きを紹介しよう。1つは、海外でのFIT化の流れを受け、アジアで開催されるイベントや商談会のオンライン化があげられる。比較的早い段階でオンライン開催に切り替わることが決まった。
例えば、世界各国に広がったジャパンエキスポのマレーシア版JAPAN EXPO MALAYSIA 2020 “GOES VIRTUAL”は、7月18日から19日まで開催するバーチャルイベントで生中継を行う。これまでは、マレーシアの首都クアラルンプールのパビリオンで開催しており、過去にはぴこ太郎を招聘するなどして成功をおさめてきた。パビリオンには7年前に開業した「TOKYOストリート」と呼ばれる日本関連を集めたフロアがあるが、日本好きのマレーシア人には人気の場所だ。
ジャパンエキスポ・マレーシアの主催者は、早い段階でオンラインに切り替える方針を打ち出し、現在、出展ブースやゲストアーティストの参加を呼び掛けている。今回のオンライン開催には、マレーシア、日本、タイの3ヵ国の会場をオンラインでつないで開催する。現地企業の主催者は、世の中の状況を見てスピーディーに対応していて、各国の財界や政界の要人からのコメントを取りつけて、オンライン化に対してポジティブな発信をしている。
例年、ジャパンエキスポ・マレーシアの現地開催にあたって連携している日本の会社の担当者は、これまでブース出展してきた日本企業や自治体は、イベントのオンライン化について反応が消極的だと言う。しかし一方で、アーティスト側は発表の場が持てるということで、前向きな声もあるそうだ。
さらに、タイでは、9月4日~6日まで、タイ最大総合日本展示会『バンコク日本博2020』をオンラインで開催する。タイへビジネスを展開する日本の企業・団体を対象に、一般タイ人消費者に向けた広報、販売、市場調査、並びに商談会による販路開拓など、従来イベントで実施していた活動をすべてオンラインのみで行うというものだ。出展者の自社商品のタイへの市場拡大、インバウンド旅行者獲得、認知度向上を図ることを目的としている。
このように海外の商談会は、もはやオンラインに取って変わりつつあるようだ。インバウンドのB to B市場でも、動きが加速している。
ガイド研修でも、インバウンド業界でもメリットがあるオンラインに移行
次に紹介するのは、ガイド研修のオンライン化、そしてオンラインのツアーづくりについても詳しく見ていこう。
このオンライン化を推進しているのは、インバウンドに特化した個人旅行者向けのツアー商品を販売する株式会社ノットワールドだ。ツアーで案内するガイド育成も手掛けており、オンラインツアーや研修の知見をを着々と高めている。ガイド研修にもオンラインに向いているものと不向きなものがあるため、新型コロナウイルスが収束してもオンラインで継続して行うテーマもあると株式会社ノットワールド代表の佐々木氏は話す。
同社は、ツアーのクオリティーの向上にはガイドの育成が必要だと、設立当初から訴え、自社でのガイド研修に力を入れてきた。佐々木氏によると、当初今年は、オリンピックイヤーということもあり、期待を持って取り組めると考えていたが、厳しい状況に変わったと振り返る。今年の2月ごろから、コロナの影響が出始め、それでも夏には落ち着くだろうと考えていた。しかし3月の半ばあたりには、いち早く金融機関に相談して借り入れを行い、財務基盤を整備するとともに、5月については完全休業を決めた。
オンライン研修のクオリティアップに向けて試行錯誤の繰り返し
休業の間、幹部で会議を行い、コロナの影響によってこれまで取り組んできたインバウンドビジネスと同様の形は、当分は難しいと考えた。そこで、新しい事業創出を検討するなかでの一つがオンライン研修だった。オンラインのガイド研修もブラッシュアップをしながら進めることで、知見を高めているそうだ。ゲスト講師と参加者、そして参加者同士の良好な関係を作り出すにはどういったやり方がよいのかなど、試行錯誤を繰り返した。
オンライン研修のメリットは、講師が各参加者と対面しているように感じられるため、音声や資料が全員にしっかり伝わり、知識型の研修には向いている。この分野はスムーズに慣れていった。
一方で、ディスカッションなど、コミュニケーションを必要とするものは、慣れるのに苦労したそうだ。オンラインだとどうしても参加者同士の距離感が生まれてしまい、場の流れを読めないもどかしさもある。またオンラインならではのファシリテーション能力が問われるなど、これまでとは別のスキルも必要と感じた。
オンライン研修が、新しいニーズの掘り起こしや開拓にも
例えば、リアルの研修であれば、場の空気を読んだ上で、発表は時計回りに順番にしようなど臨機応変に対応できるが、オンライン研修の場合、どの順番で発言してもらうかもわかりづらい。そこで参加者の名前を呼ぶようにし、研修で利用するzoomの名前をニックネームに変更してもらうと、お互い気軽にニックネームで呼びあうことで、場の空気が軽くなって発言も活発になった。
オンライン研修を通じた得た気づきは、地方在住の方や、小さくて目が離せない子供がいる方、長時間外に出られないガイドの方など、リアル研修であれば参加が難しかった方の申し込みが増えたことだ。参加の敷居が低いというのがオンラインのメリットだ。
オンラインは東京在住のガイドの方が、地方、例えば白川郷に関する研修をするのにも、便利だという。地域の方とオンラインで繋いだ研修も可能なので、書籍やブログよりも情報の鮮度が高いものが得られるからだ。
研修とエンターテイメント性の両立で新しいオンラインツアーを開発!
なお、エアービーアンドビーのオンライン体験などにも可能性を感じ、独自のオンライン体験もラインナップとして加えていった。佐々木氏によると、座学のように教科書で学ぶのではなく、その時間を楽しみながら、その結果、学んでいたというのが理想となる。研修というもの自体にもエンターテイメント性を含めれば、一般の参加者も楽しめると考えたのだ。
そこでガイド研修でもあり、一般の参加者も参加できるプランを開発しているのも特長だろう。例えば、ノットワールドが提供するツアーの一つに、日本橋を知るツアーがある。「江戸っ子が御神輿を担ぐ楽しさ教えます!~オンラインでワッショイ~」というタイトルで、両国で生まれ両国で育ち、御神輿を担いで20年以上の同社の女性スタッフが案内する。一般の方が参加しても楽しいプログラムだが、ガイド研修にもなっている。
さらに、先日好評となったのが那智勝浦のまぐろ市場の体験だ。募集したところすぐに満席になったので、枠を追加した。参加者は、事前にまぐろ市場からマグロを取り寄せ、プロの仲買人がzoomを使って案内し、マグロをさばくことも伝授するというもの。
このツアーでは、那智勝浦の仲卸、桜子さんから那智勝浦の生マグロが美味しい秘密、環境にやさしいマグロ漁などなど、マグロについて一緒に学び、さらに、桜子さんが美味しい刺身の切り方も伝授してくれる。また地元産のこだわりの醤油とお塩でマグロの食べ比べもする。
ちなみに桜子さんは、鮮魚・生マグロ仲買「市場ごはん しげ」のオーナー兼料理人で、水産省「海の宝!水産女子の元気プロジェクト」の水産女子メンバーだ。実家もマグロ屋ということもあり、プロ中のプロから教わるのはプレミアムな体験になる。
オンライン企画のコツ「学び」と「エンターテイメント」の融合
那智勝浦の市場見学ツアーにも言えることだが、「学び」と「エンターテイメント」の境目がなくなりつつある。
例えば、オンライン観光と、オフラインの飲食がセットになったツアーを開発した。地元の方々がオンラインで地元の食べ物や観光を紹介するのを見ながら、実際に家に届いた地方の逸品を楽しむ、という新しい形のツアーを展開しつつある。今後も、同様のラインナップを増やしていく予定だ。
佐々木氏は、オンライン地方応援ツアーとして今後もバリエーションを増やし、さらに盛り上げたいと抱負を語る。オンラインツアーは、地域と手軽につながれ、関係人口の拡大にも貢献できるとみる。まさに新しいスタイルの地方活性化だ。例えば、2カ月に1回ぐらいオンラインツアーに参加してもらい、3年に1回に実際に現地に行ってもらう。地域と都市部とで関係性を維持するプラットフォームにしたいという。
オンラインを通じて事前に人と地域が繋がることで、移住、定住、旅行などとリンクする。その仕組みがオンラインのコンテンツでは優れている。新型コロナウイルスの影響による副産物として、ITリテラシーの向上があると佐々木氏は話す。そこへの可能性が高まっている。
ITリテラシーが一段向上した環境で、次々と新しい仕掛けが始まっている。インバウンド業界もピンチをチャンスに変える機会と言えるかもしれない。
(次回へ続く)
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