インバウンド特集レポート
外国人向けのパンフレットやポスター、看板、案内表示、手書きのポップ、webサイトに間違いだらけの外国語があふれている。前編では、日本に住む外国人から見たおかしな外国語表示を紹介、中編では、なぜこのような誤った外国語表示が散見されるのか、誤表示をなくすためにどうすればよいのか、専門家の視点から詳しく紹介した。後編では、多言語対応の先進事例、ビックカメラの取組を紹介し、多言語対応がどのレベルまで必要なのかを考えていく。 [text:中村正人]
外国人は日本を知らないという認識の欠如
多言語化の取り組みにおいて、前提としなければならないのは、外国人は日本の社会や文化、歴史の背景をほぼ知らないということだ。その認識に、多くの日本人は気づいていないのではないか。ある日本在住の外国人によると、国内の観光地の外国語の解説の多くが、日本人向けの文章をただ翻訳しただけで、外国人にはまったく伝わっていないという。これは英語やタイ語など、すべての言語について共通している。
これまで挙げた例によって、筆者は誰かの揚げ足を取ったり、貶めようとする意図はない。
外国人たちから、いま日本で見られる多言語化のお寒い現状を指摘されることは残念であり、これをいかに改善できるか、筆者自身がもっと知りたいのである。
外国人によるチェック態勢を構築
では、どうすればこの問題を解決できるのだろうか。
外国客に対する情報発信の場合、日本人にとって当たり前のことでも、一からていねいに説明するという手間が必要で、これを惜しんではいけないということだ。ポイントは、外国人によるチェック態勢をいかに構築するか。前述したとおり、外国人であれば誰でもいいというわけではない。現場の環境や顧客対象、伝えるべき内容や目的を明確にしたうえで、外国語表示を担当する外国人との綿密な打ち合わせが必要だろう。
さらにいえば、外国語表示をどこまで進めるかも再検討し、なにがなんでもやらなければならないという考え方は見直すべきかもしれない。これまでみてきたとおり、中途半端な外国語は逆効果で、イメージダウンをもたらすこともあるからだ。
多言語表示対応が進むビックカメラの取り組み
この点、日々多くの外国客と接している量販店は対応が進んでいる。なかでも多くの外国人スタッフがいるビックカメラの外国語表示には定評がある。たとえば、都内の同店に行くと、商品によって中国語の簡体字と繁体字が使い分けられている。つまり、中国客が好んで買う商品には簡体字、台湾客がよく買う商品は繁体字の説明があるのだ。
この点を最初に指摘したのは、台湾の日本薬粧研究家の鄭世彬氏だが、こうしたことが可能になるのも、売り場のスタッフが国別の売れ筋商品を把握しているからだろう。
株式会社ビックカメラ広告宣伝部インバウンド室の松本真室長によると「個別の商品の多言語表示については、どの国からの来店が多いのか、店舗の特徴に合わせて表記しています。限られた時間の中でいかにお客様に買い物を楽しんでいただけるか。インバウンド客向けの取り組みのポイントは、何より会計回りの対応です。いかに現場の声に応えていくかが大事」という。
2014年10月、外国客向けの免税枠が拡大され、翌15年5月には最低購入額の引き下げの改正があるなど制度面での変更、突然の中国客の「爆買い」の収束など、小売業を取り巻く環境の変化は激しい。同社は日本ではまだ普及していない海外の決済サービスとして、中国のアリペイ(2016年6月)やウイチャットペイ(2016年10月。ただし一部店舗)などの導入もいち早く進めている。
こうした現場で揉まれる量販店の多言語表示が進化するのは当然だろう。一方、自治体や公共交通などの公的機関の場合、外国客にどこまでメッセージが届いているかを検証する機会は少ないかもしれない。筆者が始めたブログでは、今後も多言語化の現状を観察していきたいと考えている。ぜひアクセスしていただきたい。
ブログ:
街で見かけた《お恥ずかしい》中国語表示
筆者プロフィール:
中村正人(なかむら・まさと)
参与観察家。出版社勤務を経て2004年独立。インバウンド関連ビジネス全般を扱う株式会社エイエスエス所属。専門はインバウンド・ツーリズム。主に参与観察しているフィールドは、訪日外国人旅行マーケットの動向
著書:
『ポスト爆買い』時代のインバウンド戦略(扶桑社刊)
インバウンドの明暗を統計データや観光業界の長期的観察から読み解いた一冊。外国人観光客をめぐるストレスや葛藤の解決策が満載
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