インバウンド特集レポート

日本ならではの宿泊体験を求めて、宿坊に泊まりたいというニーズが高まっている。ゴージャスな5つ星であっても、世界中どこも同じ。その反対に日本の文化が垣間見られる宿坊が人気なのだろう。ここ最近は、お寺に泊まる、さらには禅道場に泊まるなど、裾野が広がりつつあり、その現状を報告する。
高野山の宿坊体験の人気が続く
高野山は、弘法大師によって開かれた真言密教の修行道場で、高野山真言宗の総本山でもある。標高約900メートルの山上に広がる盆地には、117もの寺院が立ち並び、その半数が宿坊を兼ねている。

宿坊を利用する外国人が増加傾向で、内訳としては、1位がフランス人、2位がアメリカ人、3位がオーストラリア・ニュージーランド人と、圧倒的に欧米で人気となっている。
通常は1泊で帰るそうだ。
やはり宿坊に泊まることが、高野山の歴史・文化に触れると共に日本文化体験そのものになっている。例えば、畳の部屋、美しい襖絵、歴史を感じる調度品。精進料理によるもてなし。どれもホテルでは経験できない。
ある宿坊では、毎朝6時から7時15分まで朝の勤行を行っていて、般若心経を一緒に唱える。護摩を焚く宿坊もある。
かつて、ロンリープラネット(※1)の紹介では、高野山は足を延ばしていく場所として小さな囲み記事がある程度。それでも、好奇心旺盛な京都や奈良滞在の欧米人バックパッカーが訪ねてくるようになった。
(※1:欧米圏で圧倒的人気を誇るバックパッカー向けのガイドブック)
その後、口コミで人気が高まり、ミシュランガイドブックでは、「わざわざ訪れる価値のある場所」として3つ星を獲得。「浮世と全く違う時間が流れている。西洋人にとって神秘的」と紹介された。
それを反映するように、人気のスポットが「奥の院」だ。開祖の弘法大師空海を祀っている。
この空気感に外国人旅行者が、感動するという。
特に夜、灯籠の灯りを頼りに、御廟に参拝にいく。夜の静けさに、言葉にはならない畏敬の念を抱く。口コミで夜の「奥の院」詣でが人気となっていった。
通常は、奥の院にある燈籠堂の中へは17時以降は入れない。建物の外を回周し大師御廟へ参拝する。
このように夜の奥の院を体験するには、やはり宿坊に泊まる必要がありそうだ。
やはり宿泊してこそ、その精神性に触れられる。
欧米人が増えつつあるお遍路宿
高野山と同じように、弘法大師空海のゆかりの聖地といえば、四国八十八カ所のお遍路だ。
「外国人による四国お遍路」の研究をしている徳島大学のモートン氏によると、ここ数年外国人観光客が増えているという。お寺に併設された宿坊を利用するケースも多いのだ。
しかし、急激に外国人が増えたため、宿坊の受入整備としては課題も多いと言う。
モートン氏の外国人お遍路への聞き取り調査によると、以下のような不満点が浮かび上がってきた。もっとも日本人とのシェアで比較すると1%にも満たないため、要望をすべて対応するかどうかは悩ましい判断と言えるが。
- フリーWiFi設置
- 洗濯機、乾燥機、アイロン等の使い方の英語表記
- 休憩所の椅子等の増設
- 安価な宿泊施設の増加
- 緊急の場合の連絡方法
- 外国人向け霊場のパンフレットの準備
ところで、モートン氏による伸び率調査については、香川県さぬき市にある「前山おへんろ交流サロン(※1)」で行われた。入場されたお遍路さんが記入する名簿帳があり、2007年は年間約70名だが、2012年ではその倍を超える150名、そして2015年には400名と急伸している。

また館内には、自由にコメントを書けるノートがある。モートン氏が記入者99名を調べたところ、内訳は、フランスが21名と最も多く、米国15名、オーストラリア13名、ドイツ9名とつづくそうだ。
最近では、中国からのお遍路ツアーも増えつつある。四国の山間の小さなお寺であっても、国際化の波が来ているのだ。今後の対応、またはそのサポートが望まれる。
永平寺がZENの里として宿坊も生まれ変わる!
福井県にある永平寺が宿坊を拡充する動きがある。
現在整備を進めている新しい宿泊施設のコンセプトは、福井県からの要請があり、外国人対応を含め、一般の旅行者が泊まることができるスタイルを想定している。まだプランの段階だが、旅館と境内にある大部屋スタイルの宿坊の中間的な施設を目指し、座禅や精進料理といった禅寺ならではの体験もしてもらうものだ。
この動きは、永平寺の門前町の活性化事業と歩調を合わせる形で進んでいる。
永平寺の参拝者数は、1989年の141万人をピークに、2014年は3分の1の47万人まで減少している。そこで、地元では頭を悩ませていて、2011年、打開に向けて、門前地区が中心になって新しい組織が立ち上がった。
それが地域主体の「禅の里」まちづくり実行委員会だ。
これは、永平寺、門前地区、永平寺町および地域住民が座組みに加わり、永平寺の賑わい復活を目指すというものだ。

そして、2012年、永平寺門前再構築プロジェクトが立ち上がった。役割を分担し、境内・宿泊施設をお寺、参道を町、川を県が担当することになった。
地域を上げて、ZENの故郷としてブランディングを目指していて、永平寺の中に、魅力的な宿坊が登場するだろう。開業が楽しみである。
そして、2012年、永平寺門前再構築プロジェクトが立ち上がった。役割を分担し、境内・宿泊施設をお寺、参道を町、川を県が担当することになった。
地域を上げて、ZENの故郷としてブランディングを目指していて、永平寺の中に、魅力的な宿坊が登場するだろう。開業が楽しみである。
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