インバウンド特集レポート

調査結果から解説 在日外国人の日本の旅行スタイル、訪日客とどう違うのか?|在日外国人特集

2021.08.12 公開日

2021.08.27 最終更新日

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訪日外国人客の受け入れ開始が待たれるなか、観光業界では日本に暮らす在日外国人の存在が注目を集めている。

今回『やまとごころ.jp』は、2021年6月22日から7月2日にかけて、全国の在日外国人を対象にアンケートを行い、121人から回答を得た。回答者の国籍・地域は、以下のような割合だった。

なお、2020年12月末時点の「在留外国人統計(法務省 出入国在留管理庁)」によれば、約289万人の在日外国人のうち、アジアに国籍を持つ人が84.3%だった。調査規模や回答者の国籍・地域の比率から、今回の結果が在日外国人全体の旅行動向を反映しているとは言えないが、調査から伺えたのは、在日外国人の旅行動向は、訪日客よりもむしろ日本人に近いことだった。

端的に表れているところを見ていきたい。

 

在日外国人の旅行への期待、日本人の典型的な旅行スタイルの影響色濃く

下記グラフは、今回調査の在日外国人と観光庁の調査による訪日客の“日本での旅行に期待すること“の割合を表したものである。

在日外国人が日本での旅行に期待することは、上から順に「自然・景勝地観光」「日本食を食べる」「歴史、伝統文化を楽しむ」「温泉入浴」「季節を楽しむ」「自然体験、農漁村体験」だった。

訪日客の場合、そのうち「歴史、伝統文化を楽しむ」「温泉入浴」「季節を楽しむ」「自然体験、農漁村体験」が旅行目的にあまり挙げられていないのが分かるだろう。

特に「温泉入浴」「季節を楽しむ」は日本人にとっては国内旅行の醍醐味と言えるものであり、日本人の影響を強く受けた可能性がある。

また「典型的な日本食ではなく、B級グルメなどのローカルなグルメやクラフトビールを楽しむ(アメリカ・20代/30代)」といったコメントが複数見られた。これもまずは日本食と考える訪日客にはあまり見かけない旅行目的だ。

在日外国人にとっての興味が「自然・景勝地観光」が1位であることについて、筆者なりに理由を考えてみた。ワーケーションや留学で何度かヨーロッパに滞在した経験があり、週末などに国内旅行をしていたのだが、景勝地のほか地形や植物の特徴など自然物に興味を感じた。既に自国とは違う外国の景色(とくに建造物)に日々触れていたせいか、その土地の特徴が出やすく、違いが分かりやすいのが“自然”だったからのように思う。

 

在日外国人の宿泊は旅館が人気

次に、彼らがよく利用する宿泊施設のアンケート結果に注目して欲しい。

一般的に、外国人は旅館に泊まるのは体験としての1日程度でよくて、慣れたスタイルであるホテルを好むと聞いたことがあったので、ホテルの選択が多いことを予想していた。

実際、観光庁が行ったデータによると、訪日客が利用する宿泊施設は「ホテル(75.1%)」「旅館(18.2%)」「有償での住宅宿泊(12.4%)」という結果だった(観光庁、訪日外国人消費動向調査トピックス分析、「平成29年7-9月期の宿泊施設利用率(複数選択可)」)。

しかし、結果は「旅館」が一番人気で60.3%が選択しており、訪日客の18.2%と大きな差が出た。

前のアンケートで彼らが「歴史、伝統文化を楽しむ」「温泉入浴」「季節を楽しむ」を旅行に期待していると出たが、それらは旅館の建造物、温泉、食事、庭の景色などを通じて味わえるからだろうし、旅館文化を愛する日本人の影響があるように思われる。

 

旅行情報の集め方

実際、彼らは「日本人の友人知人」から旅行情報を受けている人が多く、65人(53.7%)に上った。

「YouTubeなどの動画 67人(55.4%)」「検索エンジン 66人(54.5%)」「インスタグラムやツイッター61人(50.4%)」などインターネットで得られるものも目立った。観光庁の2019年の調査によると、訪日客の情報収集としては、個人ブログが上位に入っていたが、ここでは28人(23.1%)に留まった。

「在日で自国/地域出身の友人知人 51人(42.2%)」や「日本人や自国以外の在日の友人知人 38人(31.5%)」といった在日外国人のコミュニティを通じた情報収集もしているが、日本人の友人知人ほどではない。

なお、旅行の情報収集にあたって参考にするメディアの言語比率を日本語:英語:その他(母国語含む)で合計100になるよう回答してもらったところ、「ネイティブレベル」もしくは「ビジネスレベル」と回答した51名の平均は、日本語が57.7、英語が31.6だった。全体の平均は日本語が33.8、英語が58.3であったことから、やはり日本語力が高い人ほど日本語の旅行メディアを利用していることが分かる。

 

日本に暮らすようになって変わった旅行スタイル

今回の調査では、彼らが訪日客だった頃から在日外国人として旅行するようになることで、どんな旅行スタイルの変化があったのかを聞いている。

移住してからのプライベートの旅行回数は、「20回以上」が28.1%、「10~19回」が23.1%、「7~9回」が16.5%と、旅慣れた旅行者の意見でもある。

「観光地ではないマイナーな場所にも足を運ぶようになった」のは、国内旅行経験が多いことの証であるし、「体験サービスよりも、街歩きや自然などを楽しむ機会が増えた」のは在住者だからであろう。典型的な観光はある程度経験し、その一歩上、在住者らしく、肩ひじ張らない旅行スタイルに移行していると言える。

「宿泊を伴わない日帰り旅行の回数が増えた」が突出していることについては、単純に近場にも魅力的なスポットが沢山あるとも考えられるが、彼らの多くは社会人であり、日本に来て休暇が減っていることも関係していそうだ。

小さなことかもしれないが、海外で暮らしていると、旅行中にも家賃を払っていることに意識が行きやすいように思う。欧米では休暇の間に部屋を又貸しすることも珍しくないし、家の交換をする人もいる。それが浸透していない日本、という背景も考えられる。

それでも泊まるときにはしっかり楽しみたいもの。お金のかけ方については、「宿泊や飲食などにお金をかけるようになった」「お土産を買うことが減った」「体験サービスにお金をかけるようになった」人も多く、全体的に“豊かなひととき”を求める傾向がある。

 

最も印象に残った旅先、訪日客に人気の地並ぶが違いも

彼らが多く国内旅行をしたなかで、最も印象に残った場所を見てみよう。

旅行で訪れたことがあるのは、多い順に「東京(112)」「京都(100)」「大阪(97)」「神奈川(83)」「千葉(80)」「奈良(73)」「埼玉(68)」「長野(65)」「北海道(62)」「広島、兵庫(61)」となっており、首都圏については現住所の影響が大きい。

一方、一番印象に残ったのは、「北海道」「京都」「沖縄」。北海道は65.0%、京都は71.4%、沖縄が58.3%のリピート率だった。

北海道は、「朝も昼も夜も、とにかく自然が綺麗すぎ!(中国・20代)」など、スキーよりも大自然を絶賛する声が目立った。

京都は、「京都は息をのむほどの美しさ。見どころがありすぎて、何度も来ているけれど、まだほんのかじっただけのように感じられる(ドイツ・20代)」など、安定の人気だ。

沖縄に関しては、海の美しさのほか「自身が住む関東とは人から建物までかなり違って違う国のよう(ネパール・10代)」といった意見もあった。

訪日客にも人気の地が並んだわけだが、TOP10以外で多角的に評価されたのが、福島県。「震災からまだまだ復活のために頑張っている地域も、会津みたいな昔のまま、歴史などいっぱい楽しめるところもあって感動した(アメリカ・20代)」「初めて日本の田舎を体験できた場所(シンガポール・20代)」「海も自然も極めて美しい。(インド・20代)」。

意外なことに、神奈川は東京近郊にありながら、ペースがまったく違うと好印象の意見が見られた。

 

在日外国人ならではのとまどいも…

彼らが日本を旅して感じるのは、日本人の親切さやホスピタリティであり、これは訪日客と同じである。

日本人は言葉の壁があることに不安を覚えがちなので、彼らのなかにはお店で不安な顔をされたり、無視されたり、入店を拒否された経験がある人もいる。これも訪日客と同じだろう。

また宗教上の習慣への対応やLGBTQ+などへの理解が進んでいないことも言及されている。

「宗教上食事選びが難しく、コンビニでおにぎりを買うことが多い。もっとムスリムフレンドリーなレストランがあればいいのに(トルコ・20代)」

「1ベッドの部屋を予約していたが、男性ふたりだったのを見てツインに変更されたことがある。予約通りで大丈夫だと説明しなければならなかった(オーストラリア・30代)」

在日外国人独自の悩みもある。それはホテルチェックインに関すること。日本国内に住んでいる外国人は、宿泊施設での身分証明書の提出を義務付けられていないのだが、訪日客と同様にパスポートの提出を求められたり、在住であることを確認するためか在留カードの提出を求められ、不快に感じた人も複数いた。今のうちに改めて対応方法の確認や整備をしておきたい。

在住なのに外国人という存在がいまだに地方で驚かれやすいことにも、とまどいを感じているようだ。

 

コロナ禍でも旅行する在日外国人の体験と発信こそ活用できる

訪日客と在日外国人の旅行上の喜びや悩みは似通っている部分が確かにあるものの、得られる情報の影響のせいか、ニーズは日本人に近い。

訪日客が2泊3日の滞在ではたどり着けないような場所へ行き、経験できるのが在日外国人。訪日客時代に比べ日本語が使えるようになって、土地の魅力を理解しやすいという特徴もある。

彼らはコロナ禍においても8割以上が旅行している。

「旅行回数が減った/旅行をしなくなった」「日帰り旅行や近場観光に変わった」が目立つものの、1年強で「2~3回」した人が最も多く、Go To トラベルを利用した人も半数程度いた。

訪日客が戻ってくるよりも先に、Go To トラベル再開により日本人だけでなく在日外国人による国内旅行が回復することはほぼ確実だ。いまの時期は、在日外国人を対象とした動画プロモーションやSNSでディープな観光情報を提供することに尽力してもいいのかもしれない。

彼らが実際に旅行をし、発信することで、訪日客と日本の橋渡しになる。筆者自身、在住者の発するSNSを参考にしていた経験もある。在日外国人の体験と発信が訪日客の満足度向上や単価アップにつながっていくことも忘れないようにしたい。

(文/鳴海汐)


<在日外国人への旅行動向調査概要>

調査実施時期:2021年6月22日~7月2日
調査対象:日本に住む外国人(N=121)
調査手法:オンライン
アンケート回答者属性:


 

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