インバウンド特集レポート
インターネット上に構築された仮想空間で、自分の分身である「アバター」を介してその空間に入り、他の利用者とコミュニケーションをとることができる場として、注目を集めるメタバース。コロナ前から、既にゲームやイベントなどを中心に活用されてきたが、コロナ禍で会議や商談といったビジネスの場におけるニーズも顕在化し、より多様な使い方が模索されている。
観光におけるメタバースの動きや2022年のトレンドなど、現在のメタバースの概況と共に見ていく。
世界中で加速する地域観光xメタバースの動き
地域が主体となってメタバースを観光にも取り入れようとする動きは世界でも見られる。
韓国ソウル市では、メタバース・ソウル計画を構築すると発表。教育、経済、文化、観光、市民サービスなどの行政サービスを提供するメタバースプラットフォームを複数の段階に分けて構築する。中国でも、湖南省張家界市の観光地 武陵源区で「張家界メタバース研究センター」が開設した。日本でも、2025年の大阪・関西万博や統合型リゾートの誘致を見据えた大阪、常に新しい施策を展開する渋谷など、大都市を中心に地域でバーチャルを取り入れる動きが出てきている。
そのようななか、2019年には過去最多となる1016万人の観光客を迎え入れた沖縄県では、2021年4月に「バーチャルOKINAWA」を立ち上げた。
プロジェクトを立ち上げたのは、沖縄発のエンターテインメントコンテンツ企業である、株式会社あしびかんぱにー。ゲーム開発や制作を手掛けつつ、料理や文化、観光など沖縄ならではの魅力を世界に発信するバーチャルタレントグループ「おきなわ部」を立ち上げ、エンタメの視点で沖縄の活性化に取り組んでいる。
沖縄発のメタバース観光「バーチャルOKINAWA」とは?
バーチャル上に、国際通り商店街やビーチなど沖縄の様々な観光地を再現した「バーチャルOKINAWA」は、アバターを使って世界中の人と交流できるソーシャルプラットフォーム「VRChat」をパソコンなどにダウンロードすることで、使用できる。
株式会社あしびかんぱにーでXR・VTuber事業部の責任者を務める佐橋直幸氏によると、「コロナ前からバーチャルで沖縄を再現し、観光業を盛り上げたいと考えていた」という。
ただ、当時はオーバーツーリズムなどの課題もあり、観光業の足並みも揃わず、実現出来ずにいた。コロナ禍で観光客が激減し、業界全体が大打撃を受けるなか、観光を盛り上げる新しい形として注目され、2020年の春より、実現に向けて動きだした。
バーチャルOKINAWAでは、コロナ禍で中止になった音楽イベントを多くの人に楽しんでもらおうと、さまざまなイベントを仕掛けている。
例えばバーチャル上でライブコマースを開催したり、バーチャル上でビラを配ってイベントの告知をしたり、お店の物販に繋げたいと、通販サイトをつないで購買に繋げる試みも行った。さらに、参加者同士がアバターで記念撮影をしたり、朝には参加者が集まってラジオ体操を開催しているほか、沖縄でガイド業に従事していた方が、コロナ禍で観光客が来られないなかでも沖縄を知ってほしいと、バーチャル上でガイドを務めるなど、人々の気軽な交流の場としても活用されている。
2022年、地域のメタバース観光市場創出に向けた挑戦
既に、様々なイベントや取り組みがなされているバーチャルOKINAWAだが、参加者は、普段からバーチャルOKINAWAに必要なソフトウェア「VRチャット」に使い慣れた層が中心で、参加のハードルが高いのが課題だと佐橋氏は話す。
バーチャル上でライブイベントをする際には、1人でも多くの人に参加してもらおうと、YouTubeでもライブ配信し、バーチャルとあわせて1万人を集客したこともある。ただし、それでは参加者間の交流も限定的で、十分とは言えない。
「現在はPCあるいはVRゴーグルでしか、バーチャルOKINAWAには参加できませんが、スマホからでも参加できるよう開発中です。2022年の春には立ち上げる予定。より多くの人に楽しんでもらえるサービスにしていきたい」
同社が目指すのは、バーチャル上ですべて完結させようというものではない。「バーチャル上での体験を購買や実際の訪問などバーチャルとリアルを融合させ、沖縄の観光を盛り上げていきたい」佐橋氏は強調する。
メタバースを如何にしてビジネスにつなげるか
バーチャルで地域観光できるようにする動きは、形になりつつある。バーチャル市場の今後はどうなるのだろう。
2021年、Meta Platforms(旧Facebook)社が仮想空間の会議サービス「Horizon Workrooms」を発表した。VRゴーグルOcculus使用すれば、まるでその場に皆が集まっているかのような感覚を得られると話題を集めている。
とはいえ、コロナ禍で、サービスや体験が対面やリアルからオンラインに切り替わっているなか、あたかもその場にいるかのような没入感を得られるサービスは動き始めたばかりだ。今後、メタバースが広く普及するには、性能向上サービスのラインナップ拡充なども欠かせず、テクノロジーの進化がカギになる。Appleメガネや複合現実(MR)ヘッドセットを開発中というApple社の動向も目が離せない。
同時に、これは観光に限ったことではないが、メタバースがさらに普及すれば、いかにしてビジネス化、マネタイズしていくのかも重要となる。
例えば、1泊何十万円もする高級リゾートや飛行機のファーストクラスなどハイクラスのサービスなどを、バーチャル上で提供しようと思えば可能だ。こうたサービスをバーチャル上で疑似体験してもらった後、実際のリアルなサービス購入に繋げることもできる。
バーチャル技術を使って、いかにしてビジネスに繋げるか。どれだけ高単価の商品やサービスの販売に繋げられるかが、メタバース活用の成否を握るといえるだろう。
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