インバウンド特集レポート
世界各国で持続可能な観光地マネジメントの重要性が高まっていることを受け、日本でもサステナブルツーリズムの潮流の兆しが見え始めている。サステナブルなまちづくりに向けて志を同じくする自治体やDMOが、広域連携を通じて日本での取り組みを牽引し市場を創出しようと、2021年7月、日本「持続可能な観光」地域協議会を発足した。
初年度は北海道から九州まで8つの市町が参画。各地域がそれぞれに描く豊かな未来図に向かって取り組みを進めながら、互いに知識や情報を共有して支え合い高め合う組織を目指しているという。今回は日本「持続可能な観光」地域協議会が何を目指していくのか、発足の経緯や事業内容と共に掘り下げていく。
日本「持続可能な観光」地域協議会はどのようにして生まれたのか
話は、まだサステナイブルツーリズムという言葉が日本に広く普及する以前の2017年に遡る。この年、フロントランナーとして持続可能な観光地づくりに向けて立ち上がったのが、岩手県釜石市だ。同市は観光振興ビジョンの中でGSTC認定認証の取得を目標に掲げ、取り組みをスタート。2018年、オランダの国際認証団体グリーン・デスティネーションズによる表彰制度「世界の持続可能な観光地100選(以下、TOP100)」に、日本で初めて選出された。
釜石市の持続可能な観光は、東日本大震災後の市民の誇りの再生を掲げてスタートした先駆的な取り組みだった。
しかし、当時の日本の観光業界はサステナブルツーリズムへの関心がまだ薄く、国際的な表彰を取得したインパクトは決して強いとは言えなかった。
持続可能な観光を日本で普及していくためには、もっと多くの人の関心や関わりが必要になる。それには、釜石市単独で動くよりも全国規模で展開し、ひとつのムーブメントを生み出せばいいのではないだろうか。こう考えた釜石市は、次の一手に踏み出した。
釜石市が呼びかけ人となり日本の北から南まで幅広い地域への声掛けを行って、一緒に持続可能な観光地経営を目指す仲間を募っていった。その結果、7つの地域が想いに賛同した。
▲参画する8地域の横のつながりを強化すための研修も行っている
これらの地域には、“自分たちのまちをこうしたい”という強い想いがあった。地域の課題やサステナブルなまちづくりへの理解もあり、早い段階で国際認証にアンテナを立てているケースも多かった。
また、呼びかけのタイミングで、観光庁の「日本版持続可能な観光ガイドライン(JSTS-D)」の策定がはじまったことも追い風になった。日本のサステナブルツーリズムが加速していくことの確かな裏付けとして、大きな役割を果たしたという。
こうして8つの自治体が一丸となって、国際基準を活用した持続可能な観光地域づくりに向けての広域連携を図ることになった。2021年7月、日本「持続可能な観光」地域協議会が設立される。
協議会に参画するにあたって求められる条件とは
設立時の協議会に名を連ねるのは、代表幹事である岩手県釜石市、そして北海道弟子屈町、北海道虻田郡ニセコ町、長野県小布施町、京都府宮津市、徳島県三好市、熊本県阿蘇郡小国町、鹿児島県大島郡与論町の8自治体だ。
各地域に共通しているのは、高い意欲と実行力。参画にあたっては、国際基準を取り入れた観光地域づくりを実践すること。舵取り役としてDMOまたは、それに準ずるような組織があること。協議会として全体の事業を行うための会費を支払うことなどが基本条件として挙げられており、各地域が主体性を持って取り組みを推進ができるかが重要視されている。
▲日本持続可能な観光協議会に参画する自治体やDMOのメンバーたち
また、サステナブルツーリズムの本質的な理解も必要だ。表彰や国際認証の取得を目標に掲げてはいるが、あくまでそれは手段のひとつ。表彰や国際認証による誘客効果だけを期待するのではなく、取り組みのプロセスにこそ価値があると理解した上でなければ、事業が形骸化してしまう可能性が高いからだ。
地域によってスタート段階での取り組み状況に違いはあるが、連携を活かして他の地域を参考にしたり、先進地域からアドバイスを受けたりできる点も、参画のメリットとして挙げられる。
地域の持続可能な地域づくりを支援する協議会のプログラム
日本「持続可能な観光」地域協議会では、有識者が集まるプラットフォーム機関である観光SDGs支援センター(中核法人・一般社団法人地域観光研究所)がプロデュースや運営を担い、専門的な支援を行っていく。また、立ち上げから3年間は助走期間の事業費として、内閣府の地方創生推進交付金も活用している。
協議会では、国際基準を参照しながら、各地域がそれぞれ重点課題を決めて事業を行っていく。この際プロジェクトチームの中でキーパーソンとなるのが、サステナビリティ・コーディネーターだ。
「国際基準を活用し、持続可能な観光地域づくりのマネジメントを担う専門人材としてのロールモデルとなる新たなポジション、取り組みを推進する上では欠かせない存在」かまいしDMCのサステナビリティ・コーディネーターとして、釜石市の持続可能な地域づくりに取り組みながらも、事務局として今回のプロジェクト運営にも携わる久保竜太氏はそう話す。
サステナビリティ・コーディネーターが地域づくりの推進、調整役となり、協議会がその活動をサポート。地域が何を必要としているかなど、話を定期的に聞き現状を把握しながら、どう進めていくかを確認していく。これによりスムーズな運営が図れるようになることを目指している。
▲2021年12月にニセコ町で行った研修では、各地域の観光の現状や取り組み、課題などを共有した
なお、協議会のプログラムでは主に3つの事業に取り組む。
持続可能な観光の国際基準GSTCへの理解を深める研修会の開催や、専門家の派遣、取り組みに資する教材の開発などを行う「持続可能な観光に関する研修会や専⾨家派遣のコーディネート事業」。加盟している地域同士が横のつながりを深めることで、課題感の共有やノウハウや知見を共有する場をつくる「持続可能な観光の取組みに資する情報交流・コミュニケーション促進事業」。そして、プロモーションという側面から、ウェブサイトや各種ツールでの発信を行う「構成⾃治体のセールス・プロモーション事業」の3つだ。
持続可能な観光地のプラットフォームを目指して
各地域での取り組みの進捗状況に差はあるが、協議会としてはまず今年度、全地域がサステナビリティ・コーディネーターを任命し、国際基準に沿って現在の状況をチェックし、課題とアクションを明らかにするところまでを目指している。また、ひと言でサステナブルツーリズムと言ってもそれぞれ取り組みの背景が異なるため、「なぜわが町がサステナブルな地域を目指すのか」を再確認し、地域特性に即したコンセプトを明確にすることも重視している。
そして3年後には、参画する全地域がグリーン・デスティネーションズのTOP100選以上で表彰されることを目指していく。国際基準と向き合い、より高い評価に向かって取り組みを積みあげることが、地域に変化をもたらす力になっていくと考えているという。
▲観光地への視察を通じて、各地域の取り組みを学ぶことも、国際基準を目指すには大切なステップの1つだ
「この先は協議会としても自走を目指し、持続可能な観光の国際基準に取り組む地域のプラットフォームになっていくことが目的です。そのためにも、参画地域を増やしながらサステナイブルツーリズムのマーケットを盛り上げていきたいですね」と久保氏は話す。
今後サステナブルツーリズムに取り組むことがスタンダードになっていく時代の中で、日本「持続可能な観光」地域協議会が牽引役として存在感を放っていくことを期待し、見守っていきたい。
Sponsored by 日本「持続可能な観光」地域協議会(Sustainable Destinations Japan)
最新のインバウンド特集レポート
2023年 観光インバウンド人材動向|流出進む観光人材、その獲得に有効な施策とは (2023.01.11)
2023年 MICE動向|オンサイト交流復活、求められるは付加価値と環境意識の高いプラン (2023.01.10)
2023年クルーズ動向|中国不在も本格再開、欧米市場の獲得カギに (2023.01.06)
2023年ショッピングツーリズム動向|初心に戻りオールジャパンで訪日客の迎え入れを (2023.01.05)
「インバウンド再生元年」2023年に地域が取り組むべき3つのこと (2023.01.04)
2023年のインバウンドを予測する —アメリカ・オーストラリア市場の動向 (2022.12.21)
2023年のインバウンドを予測する —中国市場の動向 (2022.12.20)
2023年のインバウンドを予測する —韓国・香港・タイ市場の動向 (2022.12.19)
2023年のインバウンドを予測する —台湾市場の動向 (2022.12.16)
やまとごころ.jp編集部セレクト2022年の観光・インバウンド業界ニューストップ10 (2022.12.12)
【鼎談】アドベンチャートラベル人材の「質」「量」底上げへの課題と取り組み(後編) (2022.09.22)
【鼎談】世界が注目、アドベンチャートラベルに求められる「人材」の姿(前編) (2022.09.21)