インバウンド特集レポート

なぜサムライは外国人観光客の心をつかむ? 人気の秘密を探ってみた

2016.06.09

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特集レポート

世界最大の旅行口コミサイト「トリップアドバイザー」の外国人による人気観光地ランキングをみると、「サムライ」がらみのスポットが目に付く。なぜこの種の和風エンターテインメントは外国人の心をつかむのか。全国各地で活躍するサムライ文化の発信者たちにその理由を聞いた。

目次:
サムライショーの中国客の食いつきがすごい
トリップアドバイザーで和エンタメが人気の理由
「ラストサムライ」こと日本最高齢ガイドが再登場
日本にしかない独自の文化だから面白い
外国人の視点とはどういうこと

 

銀座某所の正午過ぎ。館内に中国語のアナウンスが流れると、派手な和装に身を包んだ男女がステージに向かってゆるりと歩き出す。

食事に夢中になっていた中国の団体客たちの視線は一斉にふたりの方向に注がれた。

なかには席を立ち、スマホを取り出し、写真を撮り始める人たちもいる。

いったいこれは何ごとなのか?

サムライショーの中国客の食いつきがすごい

浅草で外国客向けの変身スタジオやサムライ体験ツアーを催行している夢乃屋(株式会社バンリーエンターテイメント)の出張侍・花魁ショーである。場所は、銀座8丁目にある外国人団体客向けの和風エンターテインメントレストラン「どすこい相撲茶屋」だ。

ステージに立つのは、創作剣舞橘一刀流の家元でもある孝藤右近さん。彼が太刀を抜き、剣舞を始めると、狭いステージの周囲にカメラを手にした人垣ができる。動画を撮る人も多い。


孝藤右近さんは金沢にある創作日本舞踊孝藤流の二代目。国内外で華麗なステージをこなしてきた

孝藤右近 剣舞・殺陣 作品集 Ukon Takafuji Sword battle and Samurai dance performance
https://www.youtube.com/watch?v=DGJ4F9-DGSM

1回わずか15分のショーだが、終わっても観客はなかなかステージの前から離れようとしない。
ついには、記念撮影タイムが始まる。中国客たちは次々に入れ替わるように、ふたりのそばに寄り添い、シャッターを切り続けること、約15分。

「春節の頃は店も大変な盛況ぶりで、記念撮影だけで1時間近くかかったこともある」と右近さんは苦笑する。

それにしても、中国客の食いつきぶりはすごい。彼らはふたりと記念撮影したくてたまらないのだ。

一般に中国の団体客は、毎日バスに揺られ、富士山を見たり、温泉に入ったり、買い物したり。でも、せっかく日本に来ているのに、ガイドも中国人。買い物も中国系の店ばかり。だから、日本人とじかに触れ合う機会は、実は少ない。


右近さんの隣りに立つのは、艶やかな花魁姿の舞いを披露する孝藤流花形の孝藤みゆさん

だとすれば、この種の和風エンターテインメントが彼らの心をつかむのもわかる気がする。彼らの多くはここで撮った写真をすぐさま中国版SNSのWeChat(微信)にアップするだろう。そうでなくても、中国に戻って、知人友人に見せて自慢するに違いない。

「どすこい相撲茶屋」では、夢乃屋の出張侍・花魁ショーは週3回行っているという。次々と入店してくる中国客をメインとしたアジア系団体客のために、1日約6回のステージをこなす。

いま銀座の一角では、人知れず、こんなことが起きているのだ。

JAPAN CULTURE EXPERIENCE TOURS  夢乃屋
http://www.tokyo-samurai.com/

 

トリップアドバイザーで和エンタメが人気の理由

今年3月末に配信された世界最大の旅行口コミサイト「トリップアドバイザー」の2015年の外国人による東京の人気観光地ランキングの結果が興味深い。


2015年にトリップアドバイザーの日本の観光地に寄せられた口コミを分析(2016.3.31)
http://tg.tripadvisor.jp/news/wp-content/uploads/2016/03/20160331_TripAdvisorPressRelease.pdf

1位こそ新宿御苑だが、2位に昨年7月新宿歌舞伎町にオープンしたサムライミュージアムがランクイン。以下、3位は浅草、5位は明治神宮、6位は両国国技館、7位に東京都江戸東京博物館、8位は八芳園、9位はホテルニューオータニ庭園と、ほぼ和のスポットが選ばれている。また京都のランキングでみると、剣舞の鑑賞や体験ができる京都サムライ剣舞シアターが2位で、鹿苑寺や清水寺といった世界遺産よりも上位となっている。


戦国武将のストラップも販売(サムライミュージアム)

 サムライミュージアムの館内には、日本刀や鎧兜の展示があり、鎧兜を身につけて撮影できるスタジオがある。玄関脇のショップでは、日本刀のレプリカや扇子、ミニ甲冑などが販売されている。人気は7000円~3万円くらいの日本刀のレプリカだという。

では、なぜこれらサムライがらみのスポットや和風エンターテインメントは外国客に人気なのか。

トリップアドバイザーの広報によると、「サムライミュージアムが人気の理由は、和の文化を体験できるところ。最近、全国的に同様の施設が増えている。こうした施設は、トリップアドバイザーのようなサイトやSNSを活用して外国客にアピールする術をよく知っている。サムライミュージアムの場合も、オープン当初からトリップアドバイザー上に施設の所在地、公式サイトへのリンク、メールアドレス、営業時間などの詳細を掲載し、館内ではトリップアドバイザー上に掲載されていることを告知しながら、口コミ投稿を促している。また、英語が話せるスタッフがいて、きちんと説明をしていることも重要なポイント」と分析する。

 

                                                          サムライミュージアムのInstagram

https://www.instagram.com/samuraimuseumtokyo/)には甲冑を身につけた外国客の写真があふれている。

 

「ラストサムライ」こと日本最高齢ガイドが再登場

こうした全国的な外国客のサムライ人気で、活動を再開したユニークな人物がいる。

通訳案内士暦54年という異色の英語ガイド、ジョー岡田さんだ。現役では日本最高齢だという。

彼の型破りなガイディング作法は、海外から訪れた多くの観光客を長く魅了してきた。ガイドを始めたのは前回の東京オリンピックの2年前の1962年。1ドル=360円の時代だ。だが、90年代に一時休業。21世紀に入り、訪日外国人が急増したため、東日本大震災の翌年の2012年5月、約20年ぶりにガイド業を再開した。

御年87歳のジョー岡田さんは、毎週土曜日、京都で外国客相手にウォーキングツアーを行っている。ユニークなのは、そのいでたちとコースの中身。自らサムライに扮し、腰に日本刀を差し、京都の商店街や寺院を練り歩く。そして、最後に「空中りんご斬り」をはじめとしたサムライショーを披露するというものだ。

ツアーの概要については、以下の彼の公式サイトを参照のこと。

ジョー岡田のさむらい人生
http://samurai-okada.com


左:ジョー岡田さんのツアーは地元でこう呼ばれている。「京都観光に旋風を巻き起こす!ラストサムライショー」
右:ジョー岡田さんはかつてアメリカのTV番組でサムライショーを披露したことも

 

 

通訳ガイドを再開した理由について、彼はこう語る。

「90年代に入り、円高で1ドル80円になった。これではもう続けられない。その間、土方でもなんでもやりました。しかし、こうして再び外国客が増える時代になった。90歳まで続けようと思っていたら、2020年に東京オリンピックがあるというから、91歳までやることにした」

当時といまでは、通訳ガイドをめぐる状況は何が違うかと聞くと、「インターネットが世界を変えた。かつて仕事の受注先は、旅行会社が40%、外国人のツアコン30%、国内の観光ガイド30%という比率だったが、いまでは予約はたいていインターネット」と答える。

一見無頼に見える「ラストサムライ」は、その実コミカルな笑いをふりまく熟練のガイディングの持ち主で、ITリテラシーも身につけている。ウォーキングツアーでは毎回4kmを5時間かけて歩くという健脚にも驚かされる。時代は再びジョー岡田のガイディングを必要としているのだ。 

(Part 2へ続く)

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