インバウンド特集レポート

2023年ショッピングツーリズム動向|初心に戻りオールジャパンで訪日客の迎え入れを

2023.01.05

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訪日客数の回復と同時に伸びが期待される、インバウンド客による買い物消費。2019年までは、中国をはじめとしたアジアの新興国の旺盛な買い物意欲に支えられてきた。コロナ禍を経て、今まで以上に、地方へのインバウンド誘致に期待が寄せられているが、地域の事業者は回復する訪日需要にどのように対応すればいいのか、また、観光、インバウンドにおける地域の商店街、小売事業者が担うべき役割について、(一社)ジャパンショッピングツーリズム協会代表理事の新津氏からのメッセージをお届けする。

 
一般社団法人ジャパンショッピングツーリズム協会
代表理事 
新津 研一

 

中国不在の世界の旅行市場、影響力を見せた東南アジアなどのリベンジ消費

2022年は、ヨーロッパを筆頭に、米国や東南アジア諸国、東アジアでも段階的に水際対策が緩和され、外国人観光客がもどってきた。観光消費に目を向けると、コロナ禍前は世界中の多くの国で中国人旅行者が消費の主役だったことは間違いない。先行して国境を開放した欧州や東南アジア諸国の中には、中国人旅行者なしでコロナ禍前の2019年比の7、8割まで買い物消費が戻った国もある。10月11日以降、日本においても、リベンジ消費も相まって、訪日客数以上に買い物消費が回復している。しかし、中国人旅行者に頼らずともやっていけると結論付けるのは時期尚早だ。2022年は中国以外にも十分なポテンシャルを持つ市場があることがわかり、それに加えて、中国人旅行者を今後どう迎えていくのかを考える重要なタイミングになったのではないだろうか。

 

2023年は磨き上げた地域資源を、世界に向けて明確に訴求する年

インバウンドブームが始まった2013年以降、パンデミック前までの7年間は、急速に伸びてきたインバウンド需要に対して、売れるものを売っていたという状況だった。しかし、コロナ禍の2、3年で全国の各地域の人たちが地域資源の磨き上げに取り組み、受け入れ環境の整備にも目を向けてきたこともあり、状況は変わってきている。2023年は、ショッピング、グルメ、体験などのどんな分野でも、インバウンド客に対して買ってほしいものや売るべきものをしっかりと訴求し、付加価値があって地域を潤すような商品を売っていく必要がある。そうすることで、地域の経済を活性化させていくのが理想だ。

一方、日本の小売店や飲食店では、インバウンドの部署が解散したり、担当者が退職するなどで、コロナ以降受け入れ態勢に変化があった。 10月に突如として行われた水際対策の緩和により、インバウンド客が戻ってきたものの人材採用が追いつかず、インバウンドのノウハウが失われたまま新年を迎えた事業者も少なくないだろう。そのため、市場はV字回復しているが、人材確保が追いついていないというのが現状であり、2023年には早急にそれを埋め合わせていく必要がある。

 

小売事業者が「観光」と「地域」のつなぎ役としての役割を

コロナ禍で磨き上げられた要素がある一方、一部の地域では以前からオーバーツーリズムが問題となっていた。2020年から今まではインバウンド客がほぼゼロの状態になったが、国境再開後に地域としてどの程度観光やインバウンドに取り組むのか、その間に地域の間で話し合いの場を持ち、合意形成がなされた地域はほとんどないように思う。その結果、例えば住民の声を受けて混雑緩和対策が進む地域でも、個別の事業者からは、多少混雑してもコロナ禍前と同じくらい訪日客が戻ってきてほしいという声が聞こえてくるなど、地域内で温度差が出ているのも確かだ。

2023年はもう一度、観光立国に取り組み始めたころの初心にかえって、オールジャパン・オール地域で取り組まなければならない。観光事業者が地域の人々と話し合い、その地域における観光の良いところや、負荷をかけていることについて真剣な対話を重ねることが必要だ。そのためには、地域住民も観光客どちらとも接する機会があり、かつ地域住民の方との関係が深く、気軽に会話できる「小売店」「商店街」「商工会議所」などが窓口となり、観光事業者と地域の人々をつなぐ「伝道師」のような役割を果たすべきだと思っている。

 

インバウンド客へ魅力を訴求、押さえておきたい3つのトレンド

ショッピングを通じて日本の魅力を世界に伝える「ショッピングツーリズム」という視点で考えると、最新トレンドの商品を扱う店舗が集積し、オピニオンリーダーが活躍する「大都市圏」が中心となる日本人の市場とは違い、インバウンドのトレンドセッターたちは、地方を旅し、日本が持つ地域資源の中から、世界に通じるものを見つけて発信してくれる可能性が高いことに注目したい。そういった意味でも、インバウンドは地方にとって心強い存在だ。ただし、前述の通り、買ってほしいものや売るべきものは何かという明確な意志表示をしなければ、チャンスをみすみす逃してしまうことになる。

また、「インバウンド客に何を訴求すればいいのか」と頭を抱える地方の事業者は、まずコロナ禍の3年間で世界的に育まれた「サステナビリティ」「ローカル志向」「デジタルファースト」といった消費者のマインドを念頭に置くことをおすすめしたい。島国という日本の立地上、海外からの訪日ゲストの大半は航空便を使い、たくさんの二酸化炭素を排出して来なくてはならない。彼らの多くには、それをオフセットできるような社会貢献、環境貢献をしたいという思いがあるので、そうしたニーズを満たすようなメニューを用意することが、地方にとって大きなチャンスとなり、責任にもなるだろう。

 

著者プロフィール
長野県出身。横浜国立大学を卒業後、伊勢丹入社。店舗運営業務から営業戦略、新規事業開発まで幅広く担当。2012年に株式会社USPジャパン創業。マーケティングと訪日観光のノウハウを武器に全国で、サスティナビリティを前提とした地域活性化と価値創造に取り組む。観光庁ビジットジャパンプラス2013において「ショッピングツーリズム」の重要性を提起。訪日外国人向け消費税免税制度改正に関する提言書の取りまとめを行う。一般社団法人ジャパンショッピングツーリズム協会を設立し、現在代表理事/事務局長。観光立国推進協議会幹事他、国や各種団体の観光政策に多く携わる。株式会社USPジャパン代表取締役社長。

 

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