インバウンド特集レポート
日本政府観光局(JNTO)が2023年度から2025年度の「訪日マーケティング戦略」の柱の1つにも掲げる「アドベンチャートラベル」。2023年9月11日~14日には、アジア初となるアドベンチャートラベルに特化したネットワーキングイベント・商談会「アドベンチャートラベル・ワールドサミット」が北海道で開催されるなど、いま大きく注目されている分野だ。
ここでは、アドベンチャートラベル大国の実現に向けた方針と、サミット後を見据えて、これから何に取り組むべきか、JNTOの市場横断プロモーション部 高付加価値旅行推進室の上野氏に伺った内容とともに、「訪日マーケティング戦略」のアドベンチャートラベルにおける3カ年計画の概略と方向性を解説する。
▲北海道大雪山でのプレサミットアドベンチャー(提供:JNTO)
2019年の商談会を機に、アドベンチャートラベルのプロモーションスタート
「アドベンチャートラベル」とは、アクティビティ・自然・文化体験の3要素のうち、2つ以上で構成される旅行形態をさす。アドベンチャートラベルを牽引する国際的な業界団体、Adventure Travel Trade Association (ATTA)によると、市場規模は欧米で約72兆円(2017年)。航空運賃などをのぞいた着地消費額は一般的な旅行者よりも高く、アメリカのアドベンチャートラベラー1人あたりの平均消費額は36万円。高付加価値旅行の充実にも寄与し、環境への負荷が低い点や、地域経済への還元率が高いといった点に着目し、JNTOでは、2019年にスウェーデンで開催されたアドベンチャートラベル・ワールドサミットへの初参加を皮切りに、この領域に本格的に取り組んできた。
▲JNTOが初参加した、2019年スウェーデンでのアドベンチャートラベル・ワールドサミット
これまで、JNTOでは毎年開催されるアドベンチャートラベル・ワールドサミットのほか、北米で開催されるAdventureELEVATEで、日本のアドベンチャートラベルの魅力を継続的に伝えてきた。このほか、JNTO運営のアドベンチャートラベルの特設サイトでの記事や動画の発信、アドベンチャートラベルとの親和性の高い層をメインターゲットとしたオンライン広告の配信、海外からのメディア招請など、アドベンチャートラベルデスティネーションとしての日本の認知向上に向けた活動を地道に行ってきた。
▲JNTOが運営するアドベンチャートラベルに特化した情報サイト
(出典:https://www.japan.travel/en/sports/adventure/)
欧米豪の関心層をターゲットに、2025年にアジアナンバー1を目指す
「観光立国推進基本計画」で掲げられている持続可能な観光・消費額拡大・地方誘客促進の実現に向け、JNTOは、2025年までの3年の方針をまとめた「訪日マーケティング戦略」を発表。市場横断で取り組むテーマとして「高付加価値旅行」「大阪・関西万博」と並んで「アドベンチャートラベル」を掲げ、達成すべき目標やその実現に向けた方針、取り組みなどをまとめている。
アドベンチャートラベルについては、北米、欧州、豪州の関心層にターゲットを定め、特に日本で求められているハイキングやトレッキング、サイクリングやスキーなどといった「アクティビティ」と日本各地に根差した「文化体験」を組み合わせ、日本ならではの魅力を訴求していく。
具体的には、国内でアドベンチャートラベルに先進的に取り組む事業者からの情報収集と、今後取り組む地域への情報提供を通じて、日本全体のボトムアップを図るほか、海外BtoB向けには、旅行会社とのネットワーク強化を通じて、販路拡大に向けた彼らの旅行商品造成支援を行うほか、BtoCに向けては、AT関連メディアへのPRやAT関心層に向けたデジタル広告の展開など、情報発信を強化する。
▲JNTOが掲げるアドベンチャートラベルの取り組み方針(出典:JNTO)
直近は欧米豪にターゲットを絞る理由について、高付加価値旅行推進室の上野氏は、アドベンチャートラベルの価値観が、欧米で広まり、楽しまれ、マーケットとして確立されていることを挙げる。
ATTAはアドベンチャートラベル市場の調査レポートAdventure Travel Industry Snapshotを毎年発表しているが、コロナ禍前の動向をまとめた2020年版では、世界におけるアドベンチャートラベラーの上位国トップ3は、アメリカ(53%)、ドイツ(12%)、イギリス(11%)となっており、データからもアドベンチャートラベルを楽しむ層が欧米豪に多いことが読み取れる。
▲コロナ前は、北米からの旅行者が全体の半数以上を占めていた(出典:2020 Adventure Travel Trends Snapshot)
そのため、まずは欧米豪市場に照準をあて、「2025年にアドベンチャートラベルのデスティネーションとしてアジアNo. 1」を目指して取り組みを進める。
一方で、アジア市場にも、アウトドアアクティビティなどを楽しむ人々がいるのも事実だ。「アドベンチャートラベル」という概念や旅行形態の広がりなどといった今後の動向を踏まえながら、日本から距離が近くリピートに繋がりやすいアジアの関心層にもターゲットを広げていく考えだという。
▲2025年度までのロードマップ、アジアNo.1を直近の目標として掲げる(出典:JNTO)
北海道でのイベントは、日本のアドベンチャートラベルのスタート地点
JNTOは、北海道で開催されるアドベンチャートラベル・ワールドサミットを「アドベンチャートラベルのデスティネーションとして、日本の魅力を知ってもらい、認知度を大きく高める場」として捉え、プレゼンテーションや、サミット会場内に設置されるブース「ジャパンラウンジ」で地域の事業者らとプロモーション活動を実施する。
アドベンチャートラベル・ワールドサミットは今後、日本でアドベンチャートラベルを盛り上げていくうえでのあくまで最初のステップの1つにすぎない。「サミットは一過性のイベントではなく、見据えるのはあくまでサミット後」と上野氏はいう。「2021年のバーチャル開催と2023年の北海道での開催、2回にわたるサミットを経て、今後は実際のお客様の誘客につなげる取り組みにシフトします」
サミット終了後は、アドベンチャートラベル・ワールドサミット直前に行われる3~6泊のファムトリップ「プレサミットアドベンチャー」の販路拡大をプロモーション戦略の柱として掲げる。この22本のツアーを中心に訴求し、海外の有力なバイヤーの方に対してお客様の送客に繋がる取り組みに注力する。
「今後は、海外からの旅行会社を各地域に招請し、これらのツアー商品の販路拡大を継続して行う予定です」(上野氏)
▲スイスルガーノで開催されたATWS2022のジャパンラウンジ。北海道、沖縄などの参加者とともに日本のプロモーションを行った
地域側のアドベンチャートラベルへの理解の促進と、人材育成がカギに
アドベンチャートラベルは、欧米豪などではすでに確立された市場であるが、日本においては、コロナ禍で広がり始めた新しい旅行スタイルであり、今後より一層発展していく分野である。
すでに地域に根差した体験を提供する事業者が存在し、海外旅行会社に対して販売できる体制になっているエリアもある一方で、最近モデルコースができて、これから販売に向けて体制を整えていくという地域もあり、地域によって成熟度合いが違っていることは今後の課題である。
アドベンチャートラベルというと、ハードな冒険のイメージが先行しがちで、「自分たちの地域には、そうした体験を提供できるものはない」という声が現在も聞こえてくる。
「ようやくお客様を迎えられるようになった地域もあるが、今後トライ・アンド・エラーを繰り返してブラッシュアップしていく必要がある」と上野氏が話すように、受け入れる地域側の「アドベンチャートラベル」への理解を深めることが第一となる。また各地域が既に持っている素晴らしいコンテンツを眠らせることなく、地域が主体となって積極的に市場に送り出していくことも重要である。
現在もJNTOでは日本全国のアドベンチャートラベルのコンテンツ発掘を行っており、「各地域で販売できる商品を増やしていきたい」と上野氏は言う。
また、アドベンチャートラベル人材の育成も欠かせない。特に、アドベンチャートラベルのガイドは、語学力はもちろん、自然環境に配慮しつつ地域のストーリーを伝えるガイディングやコミュニケーション能力、登山やサイクリングなどのアクティビティのスキル、ケガなどへの迅速な対応できるファーストエイドの資格など、様々な能力が求められる。こうした高いスキルを持つガイドが仕事として生計を立てていけるような仕組みづくりも市場拡大には重要となる。
▲ポートランドで5月に開催されたAdventureELEVATE 2023商談会の様子
北海道でのアドベンチャートラベル・ワールドサミットはゴールではない。日本のアドベンチャートラベルのスタートとして捉え、サミットを通じて得た知見やネットワークを生かして、商品造成や販売に繋げ、実際に訪れたお客様からのフィードバックを通じてさらにブラッシュアップをする。そのサイクルを回していくをいかに回していくかが、地域のアドベンチャートラベル推進のカギになるだろう。
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