インバウンド特集レポート
本格的なインバウンド再開から1年が過ぎた。円安と旺盛な海外旅行需要、日本人気などに支えられて訪日客数は急速に回復、インバウンド消費も大きく伸びた1年だった。2023年を振り返り、2024年はどのような1年になるのか。各市場の専門家による市場予測と観光・インバウンドに携わる事業者に向けてのメッセージを紹介する。

Compass Communications Managing Director
木邨 千鶴
長期化が進む香港からの訪日旅行、7~10泊のツアーも登場
長く厳しいコロナによる規制に苦しんだ香港人は、2022年9月の入境後の隔離措置撤廃後、我先にと日本へ足を運んだ。過去3年の空白期間を塗りつぶすかのように香港人がまず訪れたのは「東京」だ。SHIBUYA SKYのパノラマビュー、実物大”動くガンダム“の写真がタイムラインに溢れていたことがすでに懐かしい。
一般的にFITが9割以上を占めると言われる香港市場だが、FIT、団体ともに泊数が長くなったことが2023年の特徴として挙げられる。円安により現地コストは下がったものの、航空券やサーチャージ、ホテル価格高騰もあり、泊数を長くした方が1日当たりのコストを下げられるという考えによる。団体旅行で言えば6泊、7泊のものが主流となり、10泊を越える商品もあるが、このうち数日の旅程をフリーにすることで商品価格への影響を軽減するツアーもみられた。
2024年の香港市場のカギを握る3つのキーワード
それでは2024年香港市場はどうなっていくと予想されているのだろうか。キーワードを3つ挙げたい。まずひとつめは「ガストロノミーツーリズム」、2番目は「リアルイベント」、3番目は「教育旅行」、この3点が香港市場の注目だ。
世界の中でも特に「食」への関心が高い人が多い香港。日本食品は現在、10都県の海産物の輸入停止措置が残るものの、長年首位を獲得してきた香港では、日々多くの日本食材に囲まれて生活をしている。実際自分たちが手にし、口にする食べ物の原点を知りたい、どんな人がどんな環境で、どんな思いで作った食材なのかを自分の目で確かめたい、こんな純粋な思いが、より深い食の旅へと関心を誘う。
次に挙げるのが「リアルイベント」。つまり現地でのイベント、マラソン大会、コンサートなどへの参加だ。コロナに苦しんだ3年、香港では特にイベント開催が見送られた。現在は政府主導の大型イベントをはじめ、音楽業界も活性化し、スポーツの試合なども行われているが、OTAでは航空券や海外のホテルとコンサートのチケットを組み合わせた商品も販売され、購入率は高いと聞く。
最後に「教育旅行」を挙げたい。日本ではかねてより主に台湾市場などで学校間交流などを軸にした教育旅行が多く展開されてきたが、香港での教育旅行というのはもう少し広義に解釈する。香港政府などでも一部の旅行代金を補助する制度もあり、例えば2023年組まれたものでも、「日本の深海生物を知ろう」というテーマや、防災や治水施設など災害への取り組みを学ぶもの、森林資源の循環利用など日本での再生の仕組みを学ぶものや、山岳地帯に滞在をするものなどがみられた。教育といっても幅が広く、日本のアートに触れる学習や一定期間滞在して陶芸を学んだりアニメの専門学校に通うようなプチ留学のパッケージに関心を寄せる人もいる。
競争相手は隣県ではなく、世界中の国、地域
成熟市場の香港人がどのように旅行商品を選び、どのような旅を選択するか、これは他の市場にとっても参考になる部分は変わらず大きい。先に挙げたガストロノミーツーリズムの観点でもすでに大手旅行会社EGLは「美食開飯團」と題した世界各国の隠れグルメ、老舗、人気店のアレンジを専門家と一緒に開発する団体ツアーの販売も始めた。別の大手Jetour社でも8日間の日程でグルメを辿る旧正月のツアー「美食ミシュランツアー」が販売されている。つまり香港での競争相手は日本の自治体間、施設間ではなく、世界各国であること、これは変わらずに頭にいれながら、各エリアのコンテンツを磨いてもらいたい。
あわせて、予約プラットフォームもよりAIの機能を増やし、香港人はより深い検索をしながら、インスピレーションで旅行を決めるのではなく、より具体的な比較、準備に精を出すようになるだろう。予約サイトをブランドで選ぶのではなく、比較検討する旅慣れた人であることを意識した目をひくコンテンツを並べる必要がある。
Booking.comの調査によると2024年の香港人の旅行は、香港よりも物価が低く、現地でより低コストに楽しむことができる目的地を選ぶ傾向になると予測されている。悲しい現実ではあるが、我が日本も香港から見ると非常に安くおいしい旅ができる渡航先になってしまった。これを逆手にとって、現地でより多くのお金を落としてもらい、特に行きにくい地方での旅をすることで各地が活性化するきっかけに香港市場、香港人がなってくれることを願ってやまない。
| 著者プロフィール 東京都出身。広告代理店「クオラス」入社。2007年より香港に移り住み、香港フリー雑誌勤務を経て独立。コンパスコミュニケーションズインターナショナルを設立し、自治体や企業のレップ、また現地日系企業などの広告・広報業務に従事。自社メディア「香港経済新聞」を運営し日々街の変化を捉えながら、香港のメディアリレーションを軸に、幅広いマーケティング支援を行う。 |
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