インバウンド特集レポート
本格的なインバウンド再開から1年が過ぎた。円安と旺盛な海外旅行需要、日本人気などに支えられて訪日客数は急速に回復、インバウンド消費も大きく伸びた1年だった。2023年を振り返り、2024年はどのような1年になるのか。各市場の専門家による市場予測と観光・インバウンドに携わる事業者に向けてのメッセージを紹介する。
株式会社フレンドリージャパン 代表者取締役 近藤 剛
中国経済の課題あるも、訪日への影響は限定的
2023年8月10日、中国政府は、突如、日本を含めたほとんどの海外旅行先への団体ツアー及び個人パッケージの宣伝、販売を解禁。
しかし、その2週間後には日本政府による処理水の海洋放出が始まり、反発した中国政府による水産物の全面輸入禁止、健康被害への風評により、再び日本渡航が自粛ムードになった。
この頃、中国の旅行会社が「天国と地獄を行ったり来たりしてる」「ジェットコースターに乗っている気分だ」など、やりきれない気持ちを話していたのも無理はない。
そしてようやく、11月17日、約1年ぶりに日中首脳会談が実現した。この段階では首脳会談が実現しただけで好転したと言えるだろう。会見の中で「国民交流」というワードが出たことで、今後、訪日が回復に向かうことは間違いない。
ただ、中国市場の回復に向けて、いくつかの懸念点も指摘されている。1つ目は、中国不動産バブルによる不況、それによる消費意欲低下といった経済的な問題。2つ目は、処理水問題の風評被害や領土問題等の政治問題である。
私は、1つ目の経済的な問題に関しては全く気にしていない。中国の人口に占める訪日客数の比率が極めて低いことを考えれば、ポテンシャルは十分である。コロナ前の2019年に訪日した中国人旅行者960万人は、全人口の0.7%に過ぎず、リピーターの重複を考慮すると、人口の0.5%程度の人が訪日すれば2019年と同じ水準となる。そもそも不況は、海外旅行客の減少にはつながる要因ではない。
そして、2つ目の政治問題は、突発的な衝突さえなければ、今後、悪い方向に進むことは考えにくい。首脳会談が実現したこれからは、「経済協力」「国民交流」を軸に2国間の行き来が活発になることを大いに期待している。
そうした過去の壮絶な情勢を振り返り、かつ現状を踏まえると、中国インバウンド市場は、2024年2月の春節時期にコロナ前の60%強、2024年4月には80%強まで回復すると予測する。
20~30代前半の若者、FIT旅行が活況、「自然」がキーワードに
中国市場が完全復活したら、どのような人が、どのような目的で日本を訪れるのか。
完全に復活した中国国内旅行の傾向から見て、確実に20代~30代前半の若者層が増える。また、若いファミリー層、小グループ単位の友人同士や親族も増えるだろう。また、インセンティブ旅行や教育旅行を除けば、団体旅行が大幅に減少し、FITの旅が中心になることは間違いない。そうなると、公共交通機関の整備やジャンボタクシー等、小グループでも安価で移動できる手段の確保が重要となる。
そして、中国人観光客が日本への旅行に求めることは、ズバリ【自然】だ。キャンプ、トレッキング、スノーリゾート、ビーチリゾート等が人気になる。本格的な体験施設がなくても、「風景が美しい場所を散策する」「自然の中の露天風呂でゆったりくつろぐ」ことが好まれる。
一方、中国人観光客の消費意欲は決して衰えていない。特に、リピーターに関しては、久しぶりに体験する日本でのショッピングは不可欠だ。円安の後押しもあり、確実に一人当たりの消費額は増える。
現地パートナーとの良好な関係構築が訪日拡大のカギに
中国の旅行会社は、日本行きのツアー商品の販売が禁止されていた時期においても、訪日個人観光ビザ+航空券・ホテル・観光素材の販売に力を入れていた。驚くことに、ビザ発行手数料だけでも、国内旅行より利益が大きかったので、がむしゃらに収入確保に努めていた。よって、当然、訪日旅行再開に対する期待感は高い。
弊社は、まさにその頃、旅行会社や有力KOLを招請したファムトリップを実施したり、中国へ乗り込んで旅行会社へセールスコールを実施した。その時、旅行会社は、コロナ明け初のファムトリップやセールス訪問だったこともあり、非常に喜び、今後の送客協力を確約してくれた。
やはり根底として、そのような関係構築こそが誘客活動において、最も求められることであると実感している。
著者プロフィール ANAセールス株式会社で22年間勤め、国内や海外旅行のツアー造成や訪日旅行、イベント企画などを担当。その際に駐在した中国・上海で現地の旅行会社や上海の実力者たちと知り合う。2009年に独立し、株式会社フレンドリージャパンを創設。以降、中国で得た知見やネットワークを活かして、インバウンドに関わる旅行コンサルティング、販促物の提供、中国からの誘客促進などに従事。独立当初より上海にも事務所を立ち上げ、中国旅行会社向けBtoB販促冊子『壹游日本(いいよりーべん)』の発行なども手掛けた。 |
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