インバウンド特集レポート
本格的なインバウンド再開から1年が過ぎた。円安と旺盛な海外旅行需要、日本人気などに支えられて訪日客数は急速に回復、インバウンド消費も大きく伸びた1年だった。2023年を振り返り、2024年はどのような1年になるのか。各市場の専門家による市場予測と観光・インバウンドに携わる事業者に向けてのメッセージを紹介する。
行楽Japan 代表 袁 静
中国からの訪日回復のカギを握る直行便の再開
2023年10月にはついに訪日外国人客数が2019年同月を上回るなど、2023年はインバウンド業界にとって明るいニュースも多かった。だが、中華圏(中国大陸・台湾・香港)に限定すると、台湾・香港が80%以上と急回復を見せる中で、中国大陸はまだ半数以下程度にとどまっている。
中国大陸からの回復が遅れている原因として、まず考えられるのは、直行便の回復が遅れていることだ。中国大陸と日本を結ぶ国際定期便(直行)の2023年夏ダイヤは、2019年比でまだ3割程度にとどまっており、回復が追い付いていないことが数字からも見て取れる。一方で2023年冬ダイヤは、夏ダイヤの約4倍となっており、明るい兆しもある。
もう一つの要因としては、水際対策が緩和・団体旅行が解禁されたタイミングで、周知の通り訪日マーケティング活動を行いづらい国際情勢だったことも、見過ごすことはできない。
中華圏富裕層が注目、不動産投資と企業M&A
コロナ前においても、中華圏富裕層は日本にリピーターとして訪れており、旅の目的も、「爆買い」→「深度遊(コアな日本ファンにとっても新鮮で驚きと感動を味わえるディープな旅体験)」へと既に変化していた。
コロナ禍を経た今、円安が追い風になり、旅の目的も更に変化している。
日本に魅力を感じていて、ビジネスにも繋げたいと考えている方が、不動産投資だけでなく企業M&Aに注目しているのだ。
また、日本を楽しみ尽くしたい方が、地方に別荘を購入し、滞在型で旅行体験を楽しむケースも増えている。中華圏富裕層は日本の富裕層と比較して若く、子育て世代であるケースも多いため、日本との関わりが大きくなる中で、富裕層の子息が通うインターナショナルスクールの人気も高まっている。
中華圏富裕層の3大キーワード「深度遊」「長期滞在」「投資」
中華圏富裕層はクローズドなコミュニティで情報共有・情報収集を行うことが多く、日本は「深度遊」「長期滞在」「投資」といったキーワードで注目されている。癒しを求めてスロータイムを楽しむ旅行スタイルや、サイクリングなどのテーマをもって仲間と1週間程度滞在するスタイル、地方都市でセカンドライフを再スタートすることを念頭に置いた生活体験旅行スタイルなど、コロナを経験した中国人による「シン・日本」の贅沢旅行ニーズにいかに応えていくかが、2024年の高付加価値コンテンツの成功のカギになるだろう。
また、日本との関係を強めている中華圏富裕層がコミュニティ内で積極的に情報共有を行っていることから、今後の富裕層の訪日増加が見込まれると考えている。筆者も入っているいくつかのグループ内の訪日体験はすべてと言っていいほど、日本での良い体験の感想や情報がシェアされている。また、自分と似たようなライフスタイルや価値観を持つ人からの成功体験はより他の人に共鳴を与え、広がりも見込まれる。
受け入れ側は、「シン・中華圏富裕層」に対する情報を理解することに努め、提供できる高付加価値な体験の「再定義」が極めて重要である。
著者プロフィール 上海市生まれ。北京第二外国語大学卒業。早稲田大学アジア太平洋研究科修了後、日経BP社に入社し日本で10年間を過ごす。帰国後、日本の魅力を中国へ伝えようと2007年より上海にて事業を展開し、2015年より日本拠点を設立。現在、上海と東京にオフィスを構え、70万人の日本リピーターを中心とするプチ富裕層メディア「行楽」を元に、中国での日本の観光PRに活躍する。著書に『日本人は知らない中国セレブ消費』等。観光庁インバウンド地方誘客促進専門家、一般財団法人自治体国際化協会プロモーションアドバイザーとしても活動。 |
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