インバウンド特集レポート

2024年の台湾市場拡大のカギ、日本人の海外旅行増で、地方路線活性化を

2023.12.19

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本格的なインバウンド再開から1年が過ぎた。円安と旺盛な海外旅行需要、日本人気などに支えられて訪日客数は急速に回復、インバウンド消費も大きく伸びた1年だった。2023年を振り返り、2024年はどのような1年になるのか。各市場の専門家による市場予測と観光・インバウンドに携わる事業者に向けてのメッセージを紹介する。

 

2024年インバウンド動向予測 

 

株式会社ジーリーメディアグループ 代表取締役 吉田 皓一

 

新興勢力スターラックス、LCCの就航で地方需要が拡大

2023年、台湾からの訪日観光市場は、力強い回復の年となった。中国が原発処理水問題を大きく報道したことで、中国大陸からの訪日客が一向に戻らないいっぽう、台湾では処理水放出をめぐって大きな問題が顕在化する事はなく、観光客数の回復基調に及ぼす影響は軽微であった。エバー航空、中華航空とも最高益を更新する見込みで、旅行会社各社も好決算を連発し、海外旅行の中でもとくに日本路線は最も活況を呈している。

2023年を振り返って大きかったのは、新興勢力であるスターラックス航空の存在。2020年開業、「LUX」の言葉どおり高級路線を標榜する航空会社の登場は、台湾の訪日観光における航空各社間の競争をさらに激化させた。特にスターラックス航空は新規路線就航に積極的であり、中部や仙台など主要な地方空港への新規就航のほか、熊本への週7便就航など積極的な姿勢が光った。また中華航空傘下のLCCであるタイガーエアも、日本各地への定期便のほか、高知や岩手花巻へチャーター便を飛ばすなど、フルサービスキャリアにはない、独自色ある動きを見せている。

つぎにコロナ前と比べて顕著なのが、台湾人訪日客の消費力拡大。台湾はすでに一人当たりGDPで日本を上回り、昨今の円安もあって、物価と為替両面で、相対的に消費力が大幅に高まった。コロナ前、台湾の日本観光では頻繁に「CP値(コスパ)」が重視されたが、今は基本的にどんな商品サービスも日本の方が安いので、あまりCP値という言葉を聞かなくなった。これまで限られた層にターゲティングしなければならなかった高級路線のコンテンツも、より受け入れやすくなり、実際当社が運営するYouTubeチャンネルでも、高級な旅館や観光列車といった、ラグジュアリー路線の再生回数が顕著に伸びている。

また、地方への需要波及も際立った。日経新聞報道によると、東北圏を訪れたインバウンドは56万人で、6割を台湾が占めた。また上述のスターラックスやタイガーエアの積極的な地方就航が、日本の地方都市への観光需要波及をさらに促進させている。

 

台湾からのインバウンド拡大の最大のカギ、日台双方向の交流促進

2024年も客数の増加傾向は続く見込みだ。すでに成熟した市場なので、これ以上劇的な客数増加は見込めないが、消費単価の向上と地方への需要波及は、まさにこれから本格化する。足元の台湾経済は、2023年前期に減産傾向だった半導体市場が底を打ち、また力強い成長軌道に入った。2024年、総統選挙の結果には予断を許さないが、政権の行方がどうなろうと、訪日観光市場が冷え込む大きな要因は特にない。

このように着実に増える台湾人観光客をさらに増やす上で、最も大きな課題の一つが「アウトバウンド」である。「アウトが増えないとインは増えない」つまり、訪台日本人客数の増加が課題である。2023年、台湾からの訪日客数は爆発的に増加したが、逆に日本の訪台客数はまったく回復していない。台湾政府交通部観光署(2023年、観光局から観光署に格上げ)によると、2023年10月時点で、台湾から日本への客数は342万7779人、いっぽうで日本から台湾へは68万5398人にとどまる。人口は日本の方が圧倒的に多いにも関わらず、大きく差が開いている。これでは飛行機の増便は期待できない。実際、台湾の航空会社各社では「台湾から日本への搭乗率は一定程度見込めるが、問題は逆。日本人が搭乗しないと、これ以上の増便は厳しい」という声は、非常に多く聞こえる。

インバウンド客を呼び込みたいという日本の方々に、「訪日客数を増やすには、皆さんが台湾に行く事です」と言うと、我が意を得ない、そういう話を聞きたいのではないとばかりにガッカリされるのだが、実のところ、台湾から日本へ、特に日本の地方空港への直行便を定期化するためには、日本の地方から台湾へ向かう客数を増やす事がどうしても必要である。円安の状況ではあるが、台湾は欧米ほど物価は高くない。「日本に来て、来て」というばかりではなく、自らも赴く事が、台湾インバウンドを増やすための、次のステージである。

 

著者プロフィール
慶應義塾大学経済学部卒業後、朝日放送入社。総合ビジネス局にてCMマーケティングに従事したのち退職し、台湾でジーリーメディアグループ創業。台湾最大の日本情報サイト「ラーチーゴー!日本」を運営するかたわら、ラジオDJ、YouTuberとしても活躍。中国語HSK6級(最高級)&中国語検定準1級、国際唎酒師(中国語)所持。

 

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