インバウンド特集レポート

大阪万博まで1年、深刻化するバス・タクシー人手不足の現状と解決策、ライドシェアの効果は?

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2025年4月13日より開催される大阪万博まで1年を切った。

会場となる大阪・此花区の夢洲(ゆめしま)では、会場のシンボルとなる大屋根リングも8割程度まで工事が進んでいる。海外パビリオンの建設遅れ等の不安材料はあるもののこちらは大阪府・民間の建設会社等に任せ、観光業界はポジティブな情報を発信することで大阪万博を盛り上げていくべきだろう。もちろん筆者自身も来年4月に遊びに行き、その感想を情報発信していくつもりである。

さて今回は大阪万博で深刻な課題となっている2次交通における運転手の人手不足と採用現況、その対策を取り上げる。

 

大阪万博に向け深刻になる二次交通の運転手不足

会場となる夢洲(ゆめしま)には地下鉄中央線の夢洲駅が2025年1月末に開業予定で、開催期間中は列車の本数を増やすものの、ピーク時の1日あたり28.5万人(大阪府による見込み)の来場者数をカバーすることはできない。そこで重要な役割を担うのが主要駅と会場とを結ぶシャトルバスとタクシーである。


出典:2025年日本国際博覧会(略称「大阪・関西万博」)基本計画 P95

 

シャトルバス運転手不足

万博を運営する日本国際博覧会協会(万博協会)によると、シャトルバス輸送人数の6割を占めるJR桜島駅と万博会場を結ぶ路線の運転手募集では、2024年4月15日時点(募集締め切り日は2024年6月30日)で必要な運転手数180名に対し80名程度しか目途が立っていない模様。その他の大阪駅、新大阪駅、大阪国際空港、関西国際空港等と会場を結ぶ路線の運転手の採用状況の情報は公表されていないものの、桜島線の現況を見るに厳しいものと予測する。

万博協会は、全国の貸し切りバス会社からの運転手を募ろうと試みているが、運転手不足は全国規模で慢性的に発生しているため効果は期待薄である。また募集条件は時給2,000円、雇用期間は最大で2025年2月末まで、1日4.5時間から5.0時間の勤務、週3~5日の勤務である。市内の他社路線バスでは1,500円程度で募集しているケースもあり確かに時給自体は高いと言えないこともないが、臨時雇用であることまで考慮すると魅力的な求人とはいえない。

 

タクシー不足

タクシー不足はここでも例外ではなく、ライドシェアの導入の試験導入など検討が進んでいる。ただ、ライドシェアの導入について、タクシーが不足する地域と時間帯に限定し、タクシー会社に運行管理を委ねるという現在の国の制度案では1日最大2200台のタクシー不足が発生すると大阪府は試算している。タクシー不足の解消は、大阪万博成功のためには喫緊の課題である。

 

2024年問題が、運転手不足に追い打ちをかける

追い打ちをかけるのが、2024年問題だ。2024年4月1日から運転手の時間外労働時間の上限が「年間960時間」に設定された。これまでは黙認されていた過重労働に制限がかかることにより、運転手の人数が変わらずとも総運行時間が減少することになる。換言すれば総運行時間を維持するための人手が不足するというもの。いくつかのバス会社は路線を廃止し、総運行時間を減少させることで解決を図ろうとしている。

―阪急バス(大阪府豊中市)は2023年11月付で4路線を廃止
―京阪バス(京都府京都市)は2024年4月までに16路線を廃止

阪急バス、京阪バスともに運転手不足が廃止の主な理由である。
2024年問題への対処もままならない環境下でシャトルバスの運転手を新規募集しても苦戦するのは仕方がないようにも思われる。

参考までに、以下はバス運転手数の不足を表す表だ。


出典:https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001634143.pdf(日本バス協会)

 

民間企業の事例から学ぶ「人手不足」を補うための対策

厚生労働省が構築した「自動車運転者の長時間労働改善に向けたポータルサイト」をご存じだろうか。

バス運転手、ハイヤー・タクシー運転手、トラック運転手に分類し、それぞれにおいて改善事例が掲載されている。
いくつか紹介しよう。

 

女性運転士の登用

・子育て中の女性従業員に対し早朝・深夜にならないシフトでの路線勤務、スクールバス勤務などの勤務体系を用意(茨城交通株式会社の事例)
・事務所内保育所を開設し、ママさんドライバーの働きやすさを実現(ハートフルタクシー株式会社)

 

新卒採用

・2018年から新卒運転士の募集をしている企業がある。大型2種免許を取得した新卒者は運転士として入社し、年齢要件、経験要件などを満たしていない新卒者は大型2種免許を取得するまで事務職を経験するというもの(京成バス株式会社)

・新卒による乗務員のみで構成された営業所の開設(日本交通株式会社)

 

定年延長

・定年を60歳から65歳まで引き上げるだけでなく、4つの働き方から自身にあった働き方を選択できる制度を導入(国際興業株式会社)

 

ITの活用による改善

・クラウド型の配車センターを4社で共同運営(株式会社双葉タクシー)

 

女性運転士が入社しやすい環境づくりのため、柔軟な勤務体系の導入や事務所内保育所を開設するというのは有効だろう。自社で開設せずとも企業主導型保育施設を設置した企業と提携することで同様の効果を得ることも可能である。

新卒採用の事例も、積極的に新卒採用を実施したというだけでなく、新卒者だけで構成された営業所を発足させるなど工夫が見える。

IT活用が効率化につながることが自明であってもコスト面から導入を躊躇する企業は多いだろう。そんな中、4社共同で配車システムを導入した事例は非常に参考になる。

「自動車運転者の長時間労働改善に向けたポータルサイト」にはここで紹介していないものも含めて多くの事例が紹介されている。長時間労働改善に向けたハンドブックなども掲載されているため、関係者はぜひ熟読してほしい。

「自動車運転者の長時間労働改善に向けたポータルサイト」

 

ライドシェア解禁により、運転手不足は解消に向かうのか?

個々の企業努力だけでなく、国の制度も変わりつつある。4月8日に日本版ライドシェアが解禁された。

東京都(23区他)、神奈川県(横浜、川崎市他)、愛知県(名古屋市他)、京都府(京都市他)の4地域ですでに解禁され、今後は、札幌、仙台、さいたま、千葉、大阪、神戸、広島、福岡でも解禁される予定である。

Uberをはじめとする海外のライドシェアサービスはドライバーと利用客のマッチングプラットフォームを提供するが、日本版のライドシェアは国土交通省から営業を許可されたタクシー事業者が運行管理するという違いがある。

また海外のライドシェアサービスでは需要に応じて料金が変わるダイナミックプライシングを採用しているが、日本版ライドシェアではタクシーと同額に設定される。ダイナミックプライシングは、テーマパークの入場料をイメージするとわかりやすい。基本的に、繁忙期には高く、閑散期は安くなる。

筆者は昨年、米国で大手ライドシェアサービスのUberとLyftを利用したが満足度は高かった。ユーザーの視点では、ぜひとも全面解禁してほしいと思う。

大阪万博の話に戻すと、大阪府の吉村知事は現在の限定版ライドシェアでは不足分を補うには十分ではなく、府内では、時間限定ではなく24時間運行、ダイナミックプライシングの導入などを要求している。こちらは個々の企業努力ではコントロールできないため、推移を見守るしかない。

最後となるが、個々の企業努力と国の力で万博の輸送インフラを整備してもらいたい。筆者は万博を楽しみ、楽しさを発信し、万博にお金を使うことで貢献しようと思う。

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