インバウンド特集レポート
「新・観光立国論」を著書に持つイギリス人のデービット・アトキンソン氏は、観光立国になるには、4つの条件が必要だと提唱。気候、自然、文化、食事だという。火山列島にある日本は、四季に恵まれ、自然も豊富だ。ショッピングだけがインバウンドではないのだ。日本の自然の素晴らしさに気づいた外国人旅行者は、どんどん自然に入っていき、その感動をSNSでも発信している。しかし、対応が追い付いていないなど、課題も多い。
目次:
富士山の頂上でご来光を仰ぐコースは完売状態
既に個人旅行者は険しい登山コースに足を延ばす
国立公園もインバウンド対策が始まっている
上高地は団体向けの人気コースになっている
登山よりも敷居の低い自然散策コースが増加
文化体験を融合させるコースが価値を高める
九州オルレの登場で、素朴な田舎の散策も観光資源になった
富士山の頂上でご来光を仰ぐコースは完売状態
富士山の山頂。輝く朝日が顔を出した。日の出に向かって参加者から喜びの声がもれる。 この頂上を目指して、暗い登山道を上がってきたから、感動はひとしおだ。ツアーに参加したのは、オーストラリアやアメリカなど欧米豪からの約30人ほどだった。山岳ガイドと通訳案内士が同行している。
ツアーを企画しているのは、株式会社JTBグローバルマーケティング&トラベルだ。 担当のマーケティング&プロモーション推進課長の池田良孝氏によると、富士山登頂ご来光ツアーは、訪日観光の夏の人気商品に育っているという。
シーズンの参加者合計は、一昨年は、350名、昨年が500名と大きな伸びとなった。今年も昨年同様の人数設定で発売をしたところ、早々に完売。ニーズはあるものの、受け入れの山小屋の割り当て数が限界となっており、これ以上の販売大幅増は難しい状況となっているため、次年度は別の方法での参加者の枠を広げる施策を検討中だという。
このコースは、東京発着の1泊2日のご来光ツアーだ。着地型ツアーで、個人旅行者が申し込んでくる。 朝の7時に新宿の京王プラザホテル前に集合、バスで河口湖方面に向かい富士スバルライン五合目に昼に到着する。 午後1時から登山開始となり、夕方には8合目の山小屋に到着。 ここで休憩して、午前2時に登山再開。日の出前に、頂上に到着して、ご来光を仰ぐ。 頂上で朝食を採った後、午前中は下山。 昼には麓の日帰り温泉で休憩して、夕方ぐらいに東京に戻るというコースだ。
催行期間は、7月から9月まで。週に3回実施となった。 今年の参加者は、国別として、オーストラリア人が多く、次いでニュージーランド人、アメリカ人と欧米豪からの利用者が占めている。アジアは少ない。 今年は中国語ガイド付きというコースを設定したところ、狙い通り中華圏の香港、台湾からの利用者が増えた。 しかし、このようなアクティビティ度が高いコースは、まだまだ欧米の人気が高いようだ。 担当されたガイドからは、満足度の高いツアーだと聞くと池田氏。
募集については、いくつかの販売チャネルがある。一番、集客が多いのは、ジャパニカンという着地型ツアーを扱う外国人向けB2Cサイトだ。あと海外旅行会社向けにGENESIS(ジェネシス)というB2Bサイトでも販売を行っている。この2つ以外には、他のOTA(オンライン・トラベル・エージェント)からの流入、店舗のカウンターからだ。
この富士登山コースについては、長い実績がある。最近の変化としては、参加者の意識が変わってきたことだと池田氏。 登山のための装備をしっかりと準備して参加されている。 以前は、短パンとTシャツというラフな服装の方がときどきいた。簡単に登れると思っての参加だ。しかし、頂上付近は、朝方は、気温が0度まで下がり、足場が悪い箇所もある。それなりの装備が必要だ。 インターネットなど、事前情報が多くなったせいか、しっかりと準備されてくる。もちろん募集ページでも、軽装での参加は危険であることを伝えている。
ところで残念ながら、全員が登頂できるわけではない。高山病になる方もいるからだ。 また天候に左右される部分もあり、ご来光を迎えられるかどうか、満足度のポイントがそこにある。
ツアーには、登山ガイドと通訳案内士の2名をあて、列の先頭をガイド、最後を通訳案内士が歩くという体制だ。
安全管理が重要と考えていて、このコースは、なるべく同じガイドを当て込んでいる。やはり慣れていて熟知している方は安心だ。一方、通訳案内士は、適した人が少ないのが課題。通訳案内士は、一般的に女性の方が多いからだ。
外国人向けの登山コースに関しては、現在は富士山しかない。 他の標高の高い山は、安全管理という視点から主催ツアーを造成するのは敷居が高い。まず登山ガイドの確保、登山に慣れた通訳案内士の確保が課題となるからだ。 一方、富士山は、残念ながらこれ以上の山小屋のキャパが見込めない。
既に個人旅行者は険しい登山コースに足を延ばす
ツアーとしての登山は、主催会社の安全管理の懸念ということもあり、伸ばしていくのは難しいだろう。 しかし、プライベートツアーなど、個人手配というやり方なら、伸びしろがありそうだ。 既に、個人での登山への挑戦が増えているからだ。
北海道の夏場の大雪山系では、多くの外国人登山客と顔を合わせることができる。欧米が多く、ここ最近増えているのが、台湾からの友人同士の登山だ。 途中までロープウェイを使って、1日で上り下りができる旭岳、さらに黒岳への縦走が人気となっている。さらに、トムラウシや十勝岳まで縦走する強者もいるという。 さらに、知床半島の斜里岳の外国人による登山も珍しくない。 知床羅臼町観光協会では、旅行商談会を通じて、海外の旅行会社に対して、知床半島の自然の素晴らしさを伝えている。世界各地の登山経験がある方でも、手つかずの知床の自然の良さに満足してもらえると自信を持っている。
いずれの地域も、個人が自己責任によって登っていくため、地元の観光協会によると正確な実数につての把握は難しいようだ。 しかし、自己責任といって放置しているわけではない。環境省としては、国立公園内での登山事故を防ぐために、看板などの多言語表記を進めている。今後、さらに増えることを見込んでの対策も求められてくるだろう。
環境省では、2013年の国立公園における訪日外国人利用者数の推計を行い、約255万7千人と算出した。「国立公園」が訪日外国人にとって、重要な観光コンテンツの1つであると同省としては認識したのだ。
また、日本の国立公園に対する外国人の興味やニーズ等を把握するため、15か国(地域)在住の外国人2,200人に対し、WEBアンケートを実施。この中で、「自然豊かな場所に旅行したいか」という問では「はい」が93%を占めた。 特に訪日意向がある人に対し、日本旅行で体験したいことを尋ねた項目では、「自然や風景の見物」が2位となり、日本の自然や風景に対する関心が高いこともわかった。
国立公園もインバウンド対策が始まっている
国立公園内にある上高地は、環境省の管轄である。昨年から、ここ最近増加傾向の外国人の受け入れ体制に向け、看板とHPの多言語を進めている。
遊歩道の看板に英語、中国語、ハングルの表記を進めている。登山に関しては、韓国の方が多く、ハングルははずせない言語だという。韓国では、登山が人気になっているものの、あまり高い山がないことから、日本での本格登山を楽しみたいニーズがあるのだ。
ビジターセンターのHPの言語表記をも昨年から英語、中国、ハングルが加わった。 バスターミナルのあるインフォメーションセンターでは、タッチパネルの内容も多言語になっている。
また民間の宿泊施設やカフェなども、積極的に外国語表記を進めている。
日本の観光情報が充実している多言語サイトの「ジャパンガイド」でも、上高地は、ユーザーから高い評価を得ている。
先日、やまとごころと共同調査したジャパンガイドの満足度ランキングによると、 1位が京都、次いで八重山諸島、屋久島、富士山が並び、日本アルプス、上高地もランクインしている。 幅広い年代層で、手つかずのありのままの自然に対しての評価が高いようだ。
https://yamatogokoro.jp/research/2015/08/top20.html
イギリス人で元ファイナンシャル・アナリストであるデービット・アトキンソン氏は、その著書「新・観光立国論」において、観光産業の重要性を訴えている。
観光立国になるには、4つの条件が必要だとあげているのが、以下の項目だ。
・気候
・自然
・文化
・食事
まさに、日本の自然が、インバウンドにとっての重要なコンテンツになることを示している。
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