インバウンド特集レポート

酒造りからマラソンまで、ディープな日本を楽しむ台湾人観光客。新規旅行商品造成のノウハウとは?

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従来の団体旅行から、自分たちのペースで自由に旅を楽しめるFIT(個人旅行)が主流となりつつある中、さらに一歩踏み込んで、特定のテーマに沿った旅をしたいという台湾人観光客が増加している。

今回は、台湾人が求めるニッチな旅行の現状と、自治体や観光事業者に向けたSITを取り入れるための具体的な取り組みについて紹介する。

▲マラソンやサイクリング愛好家が多い台湾。日本での訪日スポーツツーリズムも人気

 

台湾の訪日市場、航空路線の拡充、地方訪問が進むなか課題も

日本政府観光局の統計によると、2024年1月から7月の訪日台湾人数は約355万人で、コロナ前の2019年を20%上回っている。今年に入り円安が一層進んだことで訪日旅行の「コスパ」がさらに上昇。昨年コロナ明けで様子見をしていた消費者層も今年に入って訪日再開に向けて動き出したことから、今年は過去最高の訪日者数を記録するだろうと見られている。

訪日旅行形態としてはFIT化の動きが進んでいるが、地方へのツアーや社員旅行等を中心に団体ツアーも根強い人気が残っている。またオーダーメイド型のミニツアー(10名前後)に関しても、SIT(テーマツアー)や交通が不便な地方を中心に人気が高まっている。

航空業界においては、現在台湾と中国大陸間における緊張関係が継続しており、中台直行便の再開がスムーズに進められないことから、その機材を人気の高い日本路線や東南アジア路線に転用することにより利益を確保している。特に近年ではタイガーエア台湾を中心に日本の地方空港への定期便やチャーター便の運航が活発であり、以下のような新規路線が次々と開設・運航している。
・台北―熊本(中華航空/スターラックス航空・定期便)
・台北―高知(タイガーエア台湾・定期チャーター)
・台北―福島(タイガーエア台湾・定期チャーター)
・台北―秋田(タイガーエア台湾・定期チャーター)
・高雄―岡山(タイガーエア台湾・定期チャーター)
・高雄―静岡(中華航空・季節チャーター)

ただ一方、日本の地方空港ではグランドスタッフや入管職員の問題が慢性化しているほか、最近では一部空港において燃油供給の問題も散見され、受入体制が万全だとは言い難いのが現状である。

台湾の旅行業界は、2024年に入りマンパワーが比較的安定化してきたということもあり、転職ラッシュもひと段落している。旅行会社の販売手法としてはこれまで通り団体旅行の販売が中心となっているが、ただその中でも「手配旅行(社員旅行・インセンティブツアーなど)」「小グループツアー」「テーマツアー」「航空座席買取型の募集型企画旅行」の割合が増加し、従来の定期便利用の募集型企画旅行の割合は減少傾向にある。

また、今年に入り国土交通省よりドライバー運転時間の見直しが実施されたことから、日本国内の観光バスの価格上昇や予約困難といった問題があり、旅行会社を取り巻く環境は厳しい状態が続くと予想される。

このような中、旅行会社も生き残りをかけるべく新たな観光情報を積極的に入手する姿勢が見られるようになっており、日本の自治体等が主催する観光商談会もかつてないほど盛況となっている。

 

日本旅行の多様化、テーマ旅を楽しむ個性豊かなプラン登場

前項において述べたとおり、FITやミニグループが市場の中心になってきたことや、アフターコロナ初期の「久々の定番訪日旅行」への需要がひと段落ついたことから、特定の目的やテーマを持った旅「SIT」を楽しむ人も増えてきている。台湾には10数年ほど前から旅行商品のタイトルなどで「深度旅遊」という言葉が登場した。これは従来の「表面的かつ駆け足で巡るような旅」とは対照的な「特定の場所やテーマを深く掘り下げて楽しむ旅」を指しており、SITも深度旅遊の一つといえよう。

台湾からの訪日SITでよく見られるのは「グルメ」「酒」「鉄道(観光列車)」「撮影」「建築・芸術・景観」「スポーツ(スキー・ゴルフ・マラソン・登山・自転車)」「祭り・イベント(ライブなど)」「宗教文化」などで、大手旅行会社のテーマツアー部門が主催旅行として発売しているほか、小規模旅行会社が顧客の要望に合わせてオーダーメイド型手配旅行として送客している。中には、その道に精通したプロが特別ガイドとして同行するようなツアーも見られる。

このようにSITの種類は年々増えているが、特に台湾人にとってニッチな訪日旅行の例として以下の三つを紹介したい。

四国八十八ヶ所

四国八十八ヶ所の遍路旅。日本同様、一部や全ての寺をバスで巡るツアーがあるほか、個人で四国を訪れ数ヶ月をかけて全路線を徒歩で回る台湾人もいる。台湾には遍路経験者の台湾人、欧氏が運営するFacebookページ「四国遍路同好会」があり、約1万8000人のフォロワーがいるなど、知名度は高くないが今後も一定の旅行需要はあると考えられる。

▲台湾には遍路旅のガイドブックが存在する

日本酒を原料から楽しむ(兵庫県三木市)

訪日旅行で酒蔵見学を組み入れているツアーは数多いが、さらに数歩先を行くようなニッチな旅の事例もある。酒米の王様と言われる「山田錦」の生産量が日本一である兵庫県三木市では、もともと日本人向けにテロワールツーリズムとして田植え体験や稲刈り体験を行っているが、2018年にInternational Wine Challenge(世界的に最も権威ある酒類のブラインドテイスティング審査会の一つ)の台湾人審査員が現地で山田錦の稲刈り体験をしたのをきっかけに三木市職員との交流が開始。2023年秋には同審査員が教え子30数名を引率し三木市を訪れ、稲刈り・酒蔵見学・テイスティング・お猪口づくり体験など、三木市側が提案した一連の体験メニューを楽しんだ。このように新たな旅行需要の創出のみならず、日台交流にまで繋がっている事例もある。

 
▲兵庫県三木市で行われた日本酒の体験ツアーの様子

日本国内のハードなスポーツ大会への参加

マラソンやサイクリング愛好家の台湾人は多く、訪日スポーツツーリズムは一定の需要がある。大会参加型の場合、東京マラソンや名古屋ウィメンズマラソンなどは台湾人愛好家の間でもとても人気が高いが、そのほかニッチなものとしてはウルトラマラソンやロングトライアスロン、ウルトラトレイルランもある。

筆者は先日台湾人の友人と鳥取県へ赴き全日本トライアスロン皆生大会に出場してきたが、これまでも筆者の周りでは四万十川ウルトラマラソン・全日本トライアスロン宮古島大会・ウルトラトレイルマウントフジなどに複数人で出場している台湾人の友人がいるなど、日本で人気のあるレースは台湾人にも魅力的に映るということがわかる。


▲四万十川ウルトラマラソンに参加する台湾人旅行者

 

台湾市場開拓のヒントに!ニッチな旅行商品開発のノウハウ

前項で述べたようなニッチな訪日旅行を取り込むために、自治体や事業者の皆様ができることを以下に挙げていきたい。

コンテンツの発掘と磨き上げ

現在日本人の中で密かな人気があるコンテンツがあれば、それが台湾でも通用するか検討してみる。ただし歴史上の人物などは台湾での知名度が高くないと難しいので要注意。また、体験メニューの場合は外国語対応(英語でもOK)や安全面にも留意が必要となる。

個人旅行向けコンテンツの商品化

KKDAYやKLOOKといった台湾人によく利用されているOTA(Online Travel Agent)上で、これらの体験メニューや送迎付き日帰りパッケージの販売ができるか検討の上、商品化の働きかけを行う。

SITに強い旅行会社へのアプローチ(ミニツアー)

台湾の旅行会社で少人数団体旅行として取り扱ってもらうためには、適切な旅行会社・部門の選択が重要となる。例えば一般募集ツアーを主に取り扱う旅行会社にセールスしても全く響かない可能性もある。そのため、大手旅行会社のテーマツアー部門や、オーダーメイド型旅行を専門で取り扱っている小規模旅行会社へのアプローチが必要となる。

サークル・同好会への直接アプローチ

台湾ではSNSの利用が非常に活発である。Facebookに関しては日本と同様、若年層より中年層以上の利用が中心となっているものの、サークルや同好会に関しては年齢層問わずFacebookグループ上で情報共有をしているケースが多い。そこで、これらのサークル管理者へ直接アプローチをかけるというのも一つの手法である。もし興味を持ってくれれば、実際に日本に来て情報を拡散してくれるチャンスになるかもしれない。

SNS上での動画発信

台湾では日本同様、InstagramやTiktokなどのショートムービーがよく見られている。情報発信の際には従来の広告のほか、このようなSNSでの動画発信も活用していくのも効果的である。

以上数点挙げたが、台湾人の訪日旅行客はそのほとんどがリピーターであり、今後はこれまで以上に旅行の質を重視していく傾向が強まっていくため、このようなニッチな旅への需要も高まってくることが考えられる。今後もこのような「深度旅遊」を楽しむ台湾人が増えていくことを期待している。

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