インバウンド特集レポート
訪日外国人旅行者数、インバウンド消費共に、過去最高を記録し、コロナ禍からの完全復活を遂げた2024年の観光インバウンド業界。同時に、訪問先の一極集中や、受け入れ先のキャパシティ不足などが指摘され、今まで以上に観光地のマネジメントや分散化、持続可能な観光の実現、付加価値向上などのへの重要性が再認識された1年だった。2024年を振り返ると同時に、2025年以降の観光、インバウンド市場の予測について、各市場の専門家による分析や所感、展望と共に紹介する。

Compass Communications Managing Director
木邨 千鶴
便利さを重視する香港市場、都市部を結ぶ航空路線が活況
2024年、訪日香港人は1~10月までの累計が217万700人で、2019年に過去最高を記録した229万798人を超えることが確実となった。
航空会社は、まず都市への発着枠を確保すべく、東京中心とした都市部への航空便が、コロナ禍以前より増えている。実際に、東京(成田・羽田)便については12月現在6社週179便が飛び、この冬も増便の動きがある。また、米子(鳥取)、徳島、静岡などの地方便が復活・新規就航の動きもあり、徐々に地方に目が向いてきている。しかし、ショッピングや便利さを重視する香港人の大都市ニーズが高いことは否定できない。
現在、香港から日本へは7つの航空会社が就航しており、各社はセール販売などを展開。競合他社の特徴を捉え、それに対抗するキャンペーン合戦も繰り広げられている。また、それぞれ好きな航空ブランドはあっても、片道4時間程度の日本への渡航では、発着時間が優先されるため、片道ずつ航空会社を使い分けるケースも多い。
データから見る、香港人に人気の旅のスタイル
Expedia Groupが香港を含む19の国と地域を対象に調査した旅行トレンド「Unpack ’25」の年次報告では、2025年の注目トレンドとして、「隠れた観光地(Detour Destinations)」を訪れることが挙げられた。それらの地では、地元スーパーや雑貨店で品定めすること、地域の特産品購入などが旅行の目的にもなっている。
同報告では7割以上の香港人が「オールインクルーシブ宿泊(All-Inclusive Era)」での宿泊を検討しており、食事場所を探す手間を省いたり、ラグジュアリー体験などをホテル内で完結したいと考えている。8割の香港人旅行者が「食事体験のあるホテルを予約したい」と回答していて、ミシュラン星付きシェフや季節限定メニューなども人気が高い。
また、テレビ番組や映画に影響される人も多く、ドラマ『エミリー、パリへ行く』の放送後、パリの検索数が25%増加した。またインフルエンサーの映像も参考にており、76%の香港人がSNSで見た旅行プランを検討した経験があるという結果も報告されている。
北米や豪州など、日本以外の強力なライバル都市が出現
訪日市場は順調に拡大しているが、油断は禁物である。香港国際空港は11月28日に第三滑走路を開設し、ハブ空港としての地位を一層強化した。2035年までに年間旅客数を現状から6割増の1億2000万人に拡大する計画を掲げており、その成長は加速していく。
このように可能性が広がる一方で、日本以外の都市が強力なライバルとして台頭している状況だ。特に、日本から香港への渡航者数が激減している現状では、双方向で集客が可能な市場が選ばれる傾向が強まる。実際、これまで多くの地方直行便を運航してきた香港航空は、12月18日にバンクーバー便を新設した。この動きを皮切りに、ゴールドコーストや北米路線への注力を強めており、ロングホール(長距離便)を意識した戦略を本格化させている。
「人懐っこい」香港人の心を掴むためには?
このような環境の中で、日本が取り組むべきことは、「地道に自分の地域の魅力を発信し続ける」ことである。かつては、繁体字で情報発信を行う際、「香港向けの繁体字」にこだわる時代もあった。しかし、現在では情報の新鮮さと深度が求められる傾向が強まり、台湾向けの媒体であっても、香港人が参考にするケースが増えている。
その背景には、台湾から日本への多くの地方直行便が存在し、多くの台湾人が情報を積極的に発信していることがある。また、良質なコンテンツであれば言葉の壁を容易に越えられる点も、香港人の特徴である。
世界中を自在に旅行する香港人を「網から逃さない」ためには、彼らが求める高い基準を満たし続けることが重要だ。こうした香港人の期待や要求は、日本の旅行市場が成熟していく中で、今後の貴重なヒントになることは間違いない。
さらに、筆者は個人的に「香港人は世界の中でも人懐っこい性格」だと感じているが、香港人が旅をする際、「誰かに会いに行く」というケースもびっくりするほど多い。親族や友人に会いに行くのは普通のことだが、「お気に入りの旅館の女将に毎年会いに行く」「好きになった珈琲店の店主に会いにいく」などのケースもよく耳にする。
SNS全盛時代に“リアル”を求める行動の一つとして「旅」をする香港人には、国境を超えた人と人とのつながりを重視する「コミュニケーショントラベル」の時代が到来したのかもしれない。
| 著者プロフィール 東京都出身。広告代理店「クオラス」入社。2007年より香港に移り住み、香港フリー雑誌勤務を経て独立。コンパスコミュニケーションズインターナショナルを設立し、自治体や企業のレップ、また現地日系企業などの広告・広報業務に従事。自社メディア「香港経済新聞」を運営し日々街の変化を捉えながら、香港のメディアリレーションを軸に、幅広いマーケティング支援を行う。 |
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