インバウンド特集レポート
訪日外国人旅行者数、インバウンド消費共に、過去最高を記録し、コロナ禍からの完全復活を遂げた2024年の観光インバウンド業界。同時に、訪問先の一極集中や、受け入れ先のキャパシティ不足などが指摘され、今まで以上に観光地のマネジメントや分散化、持続可能な観光の実現、付加価値向上などのへの重要性が再認識された1年だった。2024年を振り返ると同時に、2025年以降の観光、インバウンド市場の予測について、各市場の専門家による分析や所感、展望と共に紹介する。
株式会社Encounter Japan 代表取締役社長 西側 赳史
訪日客増加、地方誘客の鍵はパーソナライズされた体験
2024年のメキシコ訪日市場は、2023年に引き続き堅調に成長している。
2024年1〜11月累計では13万9800人の訪日旅行者数を観測しており、初の訪日旅行者数10万人を突破した。同数値は2023年同期比伸び率63.3%増、コロナ禍前の2019年比では、114.3%増と2023年に引き続きトップの伸び率を記録している。
上述の通り、メキシコからの訪日旅行者は増加の一途を辿っており、2025年以降も訪日旅行者数は増加することが考えられる。一方で、メキシコ政府は2024年3月に利下げ、10月にはシェインバウム新大統領が就任しており、今後の経済動向は注視が必要だ。
現在、全日空とアエロメヒコ航空の2社が日本への直行便をデイリーで運行している。アエロメヒコ航空は日本への直行便に加えて、2024年8月よりコロナ禍で停止していたメキシコシティー〜ソウルへの直行便を再開した。メキシコ国内の大手旅行会社はこのアエロメヒコ航空便を利用した日本と韓国を周遊するツアーを既に販売しており、今後このような周遊プランを検討するメキシコ人観光客が増えることが予測される。
依然ゴールデンルートの需要が高い一方で、それ以外の地方都市への訪問者も増加傾向にあるようだ。富裕層は建築や現代美術への関心が高く、直島はメキシコ人の間でも人気の訪問先。私たちのDMC事業では、直島を含むその周辺の瀬戸内の島々などを積極的に売り出している。また、マインドフルネスやスピリチュアルな体験を求めるメキシコ人も多く、宿坊体験や熊野古道のようなコンテンツにも注目が集まっている。特に富裕層は、一味違った特別な体験を求めて訪日することも多いため、地方ではよりパーソナライズされた体験を提供することで差別化を図れるだろう。
消費力が高いメキシコ市場、富裕層誘致が地方誘致のカギに
メキシコ人の大半はカトリックであることから、食に関する宗教上の制限はほとんどないと言える。またメキシコ料理がユネスコ無形文化遺産に登録されており、食文化が豊かであることから、メキシコ人の食に対する興味・関心は非常に高い。ジェトロメキシコ事務所が日本食レストラン利用者約1000人を対象に2021年に実施したアンケートでは、回答者の50%以上が週に一度日本食レストランで喫食するという結果が出ている。中間層以上のメキシコ人は生魚に対しての抵抗も少なく、また食事制限もないことが多いため、観光事業者や飲食店にとっては受け入れの負担が少ないだろう。
またメキシコの第一言語はスペイン語だが、中間層以上では英語が堪能な人が多く、英語を用いた案内やサービス提供は問題ない。しかし、スペイン語での簡単な挨拶や案内があると旅行者は特別な感情を抱くに違いない。メキシコ人のフレンドリーな国民性も相まって、スペイン語を用いた小さな気遣いが出来ると競合他社との差別化につながり、ポジティブな反応が期待できる。
メキシコ合衆国は「貧しい国」という印象を持たれがちだが、富裕層をはじめとした中間層以上の消費購買力は侮れない。実際にアマン京都などのラグジュアリーホテルにもメキシコ人富裕層が訪れているようだ。「外国人富裕層 = 欧米豪・中東市場」といった固定概念を捨て、メキシコ市場のような訪日旅行市場における新興マーケットに対してのアプローチやプロモーション活動、ならびに受入体制の整備を積極的に行っていくことが、各自治体間・競合他社との差別化を実現し、地方都市への誘客に繋がるのではないだろうか。
著者プロフィール 総合商社での勤務を経て2014年に独立し渡墨。メキシコ合衆国およびコロンビア共和国内で日本食レストランを複数店舗経営する他、2024年よりラテンアメリカ市場に特化したDMC事業「Encounter Japan Travel」を開始。また日本政府観光局のメキシコ市場をはじめとしたラテンアメリカ域内における訪日PRやプロモーションを担う。『現代メキシコを知るための70章』/ 明石出版 での執筆や、自治体や大学での講演活動、ならびに中小企業基盤整備機構 2024年度中小企業アドバイザー(新市場開拓)を務める。 |
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