インバウンド特集レポート
訪日外国人旅行者数、インバウンド消費共に、過去最高を記録し、コロナ禍からの完全復活を遂げた2024年の観光インバウンド業界。同時に、訪問先の一極集中や、受け入れ先のキャパシティ不足などが指摘され、今まで以上に観光地のマネジメントや分散化、持続可能な観光の実現、付加価値向上などのへの重要性が再認識された1年だった。2024年を振り返ると同時に、2025年以降の観光、インバウンド市場の予測について、各市場の専門家による分析や所感、展望と共に紹介する。
行楽Japan 代表 袁 静
2024年後半に存在感を増す訪日中国人の旅のスタイル
インバウンド消費が自動車に次ぐ日本で二番目に大きい産業へと成長した2024年を振り返ると、コロナ前まで新聞やテレビに頻繁に取り上げられていた中国人観光客の動向が、近年では目立たなくなったと感じる人もいるのではないか。「他の地域に比べて、中国大陸からの観光客だけが戻っていないのではないか」との声も聞かれるようになったが、実際のところはどうなのだろうか。
2024年上半期は、確かに中国国内の政策などの影響により、訪日客数や消費額がコロナ前の2019年と比べて低調だった。しかし、日本政府観光局(JNTO)の発表によると、2024年7~9月の訪日外国人旅行者数では、中国大陸からの観光客が約217万人で1位を記録した。また、観光庁が発表した最新のインバウンド消費動向調査によれば、同期間中の訪日外国人旅行消費額は推定1兆9480億円のうち、中国が5177億円(構成比26.6%)と最も高い割合を占めている。
では、なぜ中国人観光客が以前ほど目立たなくなったように感じられるのか。その理由を大きく2つにまとめた。
1. とにかく中国人観光客の少ない地方へ
コロナ明け以降、中国国内の政策の影響もあり、団体ツアーよりもFIT(個人旅行者)が先に日本に戻ってきた。彼らの多くは、ツアーが訪れるゴールデンルートのような観光地ではなく、自分だけの癒しの空間や時間を求め、日本の地方を好む傾向がある。「とにかく中国人観光客の少ない場所へ行きたい」というのが、旅行先を選ぶ際の基準の一つとなってきている。
また、日本人よりも中国人のほうが旅行中の感動的な景色や美食をSNSに投稿する傾向が強く、たとえ二次交通が不便な秘湯旅館でも、山の頂上にあるカフェでも、個性が光る写真や動画のために、時間と労力を惜しまずに訪れる中国人観光客も少なくない。
2. ピンポイントな目的のわがまま訪日スタイル
コロナ明け以降の日中直行便の急速な回復により、航空運賃が手頃になったことも大きな要因だ。たとえば、上海~大阪往復航空券が税込み3万円台で購入できるようになり、中国国内移動とほとんど変わらない料金と時間で日本に来ることが可能になった。この結果、金曜日のコンサートのためだけに来日し、土日は美味しい食事を楽しんで帰国する、あるいは憧れの海辺サイクリングロードを友人と満喫して帰るといった、国内小旅行感覚で訪日するリピーターが増えている。
地方を訪れたい中国からの旅行者の心をつかむためには?
地方観光やよりディープな体験を求める中国人観光客が、SNSの拡散効果も相まって、2025年にはさらに増加することが予想される。ツアー客よりも個人観光客のほうがより個性的な対応が求められ、手間がかかることもあるだろうが、彼らのニーズをいち早くキャッチでき、高付加価値なサービスを提供できれば、中国人観光客の滞在中の満足度と消費単価を同時に上げられるウィンウィンの関係にもなると思われる。
著者プロフィール 上海市生まれ。北京第二外国語大学卒業。早稲田大学アジア太平洋研究科修了後、日経BP社に入社し日本で10年間を過ごす。帰国後、日本の魅力を中国へ伝えようと2007年より上海にて事業を展開し、2015年より日本拠点を設立。現在、上海と東京にオフィスを構え、70万人の日本リピーターを中心とするプチ富裕層メディア「行楽」を元に、中国での日本の観光PRに活躍する。著書に『日本人は知らない中国セレブ消費』等。観光庁インバウンド地方誘客促進専門家、一般財団法人自治体国際化協会プロモーションアドバイザーとしても活動。 |
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