インバウンド特集レポート
訪日外国人旅行者数、インバウンド消費共に、過去最高を記録し、コロナ禍からの完全復活を遂げた2024年の観光インバウンド業界。同時に、訪問先の一極集中や、受け入れ先のキャパシティ不足などが指摘され、今まで以上に観光地のマネジメントや分散化、持続可能な観光の実現、付加価値向上などのへの重要性が再認識された1年だった。2024年を振り返ると同時に、2025年以降の観光、インバウンド市場の予測について、各市場の専門家による分析や所感、展望と共に紹介する。
BANGKOK PORTA CO.,LTD. 代表取締役 井芹 二郎
タイからの訪日客数の回復遅れの原因は?
2024年のタイ人の訪日動向は、10月までの累計(JNTO訪日外客数)で、88万4200人で前年同期比17%増、訪日客数ピークの2019年同期比で13%減となっており、現状のトレンドから、2024年累計で105万人から120万人程度で推移するのではないかと予測している。
2019年の訪日タイ人旅行者数が132万を記録していたことを考えると、現状、そこには到達しない見込みだ。また、2019年比で見ると、市場全体の平均が約20%増であるのに対して、タイ市場は2019年比13%減となっている。各市場の状況はそれぞれなので一律に比較はできないものの、相対的に見ると、伸び悩んでいる様に見える。
その原因として、以下の様な点が挙げられる。
タイ経済の停滞
2024年GDP成長見込み2.4%と予測しているが、2024年においてタイ経済は、製造業の停滞や輸出の低迷、公共投資の減少などにより、力強い回復には至っていない状況にある。2025年以降、国内需要が押し上げられて成長率が3%台と高めの成長が続き、回復基調になるとみられる。
タイ‐日本航空便数
タイと日本を結ぶ航空路線は、2024年春夏ダイヤで見ると、2019年比で約2〜3割減となっている。ただ、10月末ダイヤの改定で、2019年9割以上の便数となっており、2025年以降、地方空港からのチャーター造成や仙台・広島便などの復活の働きかけなどの期待がある。
訪日旅行商品のコスト上昇
飛行機代、宿泊費、団体バスのチャーター代などが高騰した。
高まる中国市場の人気
2024年3月にビザ解禁となったタイ人の「中国旅行」。安くて近いディスティネーションとして人気だ。タイ大手旅行社では、月300〜500グループ送客する新しい観光地として認知が高まっている。
タイ人観光客に人気急上昇の日本の地域
筆者は、年間100社程度のタイ旅行会社にヒアリングを行っているが、2024年は「上高地」が人気という会社が多かった。
JNTOバンコク事務所所長の中杉氏によると、上高地を有する松本市の外国人宿泊数を見ると、タイが台湾を抜いてトップになったという。また、松本〜上高地間のバス路線(アルピコ交通)でもタイ人の利用が多いとのこと。タイ発直行便就航都市(東京圏・名古屋圏・大阪圏等)からのアクセスを考えると、到達まで一定の時間を要する上高地に多くのタイ人が訪れることから、タイ人にとって憧れを抱く場所になれば、彼らは移動も厭わないことがうかがえる。
なお、訪日タイ人の人気観光地ランキング(2023年アジア・インタラクションサポート調べ)でも、上高地の他、日本アルプス、立山黒部アルペンルート、小樽運河、道頓堀などの人気上昇率が高かった。元々、観光地としての認知があるところだがタイ人の間で人気再ブームが起き、来訪数が増加しているのかもしれない。
タイ人の訪日観光は、ダイナミックに地方への移動を行う。これからは、「まだ見ぬ日本」のエリアへ新しい体験を求めて足を延ばす段階に入っている。
訪日旅行スタイルの変化、レンタカーを利用した自由な旅行が人気
タイ人訪日客の8割以上が個人旅行であるが、タイの旅行会社では、少し単価の高い家族旅行商品を指す「VIPファミリー」「プレミアムファミリー」「スモールファミリー」などのワードがよく使われていた。
JNTOバンコク事務所の中杉氏によると、近年、タイ人観光客の間では、日本国内でのファミリーカー旅行が人気を集めているという。インバウンド消費動向調査によると、訪日旅行におけるタイ人のレンタカー利用率は、他の国と比較して非常に高く、約15%に達している。一方、他の国・地域の観光客の利用率は約7%にとどまっている。さらに、タイ人観光客は、自らレンタカー会社のサイト経由で予約し、運転して旅行を楽しむケースが多く、このことは、タイ人の自由度の高い旅行スタイルが成熟していることを示唆している。中杉氏は、レンタカーを利用した旅行は費用対効果も高く、タイ人観光客に支持されていると分析する。
一方、現地旅行会社から、今後の課題も指摘されている。都会や有名観光地でのホテル、専用車、バス、ガイドの料金が驚くほど値上がりしており、その上、予約が取れない。これは、中国市場だけの課題ではない。日本の対策として、国や自治体、観光関連事業者が、官民一体で、「宿泊施設の拡大」「受け入れ態勢の強化」「地方創生による観光ニーズの分散化」に取り組むことが、2025年の旅行市場のカギを握るだろう。
2次交通の利便性向上が、地方誘致へのカギに
いくつかの面からタイ人訪日観光を振り返ったが、ここからは2025年以降の予測をしていきたいと思う。
・航空路線の便数増加、チャーターも回復進む
2024年10月末のダイヤ改正で、タイと日本を結ぶ航空路線の便数は、ほぼ90%以上回復した。2025年はフルサービスやLCCの増便や新路線などが増えていくことが予想される。それに追加して、地域空港への「チャーター便」の検討が行われている。
チャーター便は、2025年3月に香川県高松空港 (タイ ベトジェット)が予定されている。その他の地方空港でもチャーター便誘致の働きかけがある。神戸空港は、2025年から東南アジア各国からのチャーター便の実施と2030年には、国際線の定期便を予定している。
・国内路線の活用による地方誘致
日本国内を縦横無尽に移動する為の交通手段として、「JRパス・エリアパス」などは、必須のアイテムとなっているが、更に広域に移動する手段として、「航空便国内線」の活用がある。
日本航空(JAL)が国内線無料キャンペーンを10月より開始した。海外の対象地域からJALの国際線を予約する際、同時に国内線も予約すると無料となる。東京など最初の目的地を訪れた後、地方都市を巡る旅程が、追加料金なしで組めるようになり、訪日客に地方へ足を伸ばしてもらうのが狙いだという。過去には、2022年にピーチアビエーションが国内13路線が約1カ月間乗り放題となる Peach ホーダイパスの抽選販売を行った。
陸路の鉄道パスに続き、航空国内線のパスが販売された場合、日本国の地方都市の「点」が「線」でつながることになる。多くの旅行者は東京イン・アウトだが、2日目・3日目を「九州」や「四国」で過ごすことが可能になる。また、「地方の地方」といわれる現時点では行きにくい場所に旅程が組めるようになるだろう。
上記を踏まえ、地方観光の始まりの年と言えるだろう。個人旅行の広がりは、日本全国を対象にしている。「1次交通としての航空便数」は回復から増加の段階に入る。2次交通の利便性やカバー領域の広がりにより「地方の地方」にタイ人旅行者は足を延ばすようになるであろう。
取材協力:JNTOバンコク事務所
著者プロフィール 熊本県生れ。2008年タイ・バンコクにPR/企画会社バンコクポルタ設立。タイ訪日旅行会社200社以上・メディア・インフルエンサー500社以上を活用して日本インバウンドPRをする。インバウンドトラベルサポート、生活商材マーケティング、業務視察・サーベイ、イベント支援。地方自治体、観光協会などの業務実績多数。バンコク日本博 トラベルインバウンド専門員。食のコラムニストなど。 |
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